軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

温かい池

「すみませんが、やっとこ湯が出てきたとこなんで、明日いくらか埋戻しして湯殿を建てて……ってやってたら結構先ですね」

「あら、そうなのね。じゃあ楽しみにしてるわね」

なんでもないことのように、リュイサさんは俺の言葉に頷いた。時間の感覚も異なっているだろうし、多少先になったところでと言ったかんじか。

「ああ、そうそう、ジゼルさんに一度こちらへ来てもらうよう、伝言をお願いできますか?」

「こっちへ? ああ、連絡の話ね」

「ええ。そもそもジゼルさんに定期的に連絡を取る手段がないと、どうしようもないですし。温泉のところか、ここにいるので。街に行くときも昼を回ったくらいには戻ってますから」

「わかったわ」

リュイサさんは再び頷く。よし、これで連絡はなんとかなりそうだ。まぁ、リュイサさんの場合、確実に連絡を取れるまでに出来れば1週間は見ておかねばいけないわけだが……。

「それじゃ、また来るわね」

「ああ、温泉が完成したら連絡ルートの確認も兼ねて連絡しますよ」

「ありがとう」

立ち上がりながら、にっこり微笑むリュイサさん。家族皆で玄関まで見送り、入ってきたときとは違って静かに彼女は帰っていった。

翌日、朝早くから掘った温泉のところへ行く。「蓋」が吹っ飛ばされたりしていないか心配ではあったが、そのようなことはなく、隙間から多少漏れているかなといった程度で済んでいる。

「あれなら埋め戻しに影響はないかな」

「そうですね。大丈夫そうです」

俺が言うと、リケが力強く頷いてくれる。彼女のお墨付きなら平気だろう。とは言え、あんまりのんびりもしていられない。出来れば今日中に埋め戻しと排水のための池までは終わっておきたい。うちの家族の人数と能力ならそれが可能……なはずだ。多分。

サーミャとリディを池を掘る方に回し、他の全員で掘り出した土を穴の底に戻していく。土を持ってくるだけでも大変なはずなのだが、そこはクルルが大活躍である。

重機さながらに土を運び、下ろしていくクルル。彼女のおかげでかなり作業が捗っているのは間違いない。クルルを応援するルーシーの愛らしさに、時折肩のHPが減るのも許容範囲と言えよう。あんまりやられると作業に影響するが。

やるべきことは井戸のときとあまり変わらない。板壁を立てて、その外に土を敷き詰め、固めるという作業の繰り返しだ。完成すれば、方形の穴を登って湯は上まで到達する……はずである。

そのために井戸のときよりはかなり細い穴になるように壁を立てていく。ということは戻す土の量も多いわけで、クルルがいなかったらどれくらい時間がかかっていただろうか。

そのうちクルルにもなにかご褒美をあげないとなぁ。彼女の希望を聞けないのが非常にもどかしいが。

ほんの僅かな昼休憩を挟んで再び作業をし、結局「これくらいでいいかな」となった頃には、もう夜の帳が下りかけていた。

夜っぴて作業する気は無かったけど、多少の“残業”を覚悟して松明は持ってきてあったので、それに魔法で火をつける。ここから家までは、ほんの僅かな距離だが当然ながら街灯一つない“黒の森”の中である。明かりがなければちょっと家に帰るのも厳しい。

揺らめく松明の明かりに照らされて、湧き出している湯がキラキラと光る。湯は何とか想定通りに上まで登ってきてくれたのだ。溢れた湯は掘った溝を通って、サーミャとリディが掘ってくれた池に溜まっていっている。

池のほうは掘るのを優先したので、周囲に土がそのままになっているのだが、これはまた後日だな。溝を通る湯に手を付けてみると、下で触ったときと同じように感じる。

やはり、魔力で保温がされているらしい。これなら池のために貯める場所を別に作るだけで、浸かることができそうだ。

湯がたまりつつある池に家族の皆も手や足をつけてはしゃいでいる。

「おっ、温かい」

「どれどれ……ホントね」

「こうなってくると俄然楽しみになってくるわね」

「早く湯殿を建てたいですね」

「怪我にも効くと良いなぁ」

「効くんじゃない?」

こうして一通りはしゃぐと、まだ見ぬ湯殿に思いを馳せながら、俺たちは徐々に水位を上げている「温かい池」を後にし、短い家路についた。