軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

岩を穿つ

「当たり前だけど、あんなゴツいのも作れるのねぇ」

上品な仕草で鹿肉を嚥下したアンネが言った。

「そりゃあ、ナイフや剣なんかよりも、ずっと単純だからなぁ。デカいぶんは大変だけど、デカさで言ったらアンネの両手剣の方がずっとデカかったんだし」

「それはそっか」

うんうん、と腕を組んでアンネは頷く。時折若干の“はしたなさ”みたいなものが垣間見えるのは、周りに影響されているのか、それとも元々こんな感じだったのか。

食事の時は大抵静かに話を聞いているリディが珍しく話に入ってくる。

「実用一辺倒、と言うんでしょうか。かなり荒々しいですよね」

「使うとして今回こっきりの予定だし、鎚目も消してないからなぁ……」

「自然な感じが良いと思います」

ああ、なるほど。そこが気になってたのか。本人は意識しているのかどうか知らないが、リケが斧を持ったときとは違う、「らしさ」を感じてしまう。

こっちは斧を持った時の「らしさ」がものすごいリケが続く。

「今回こっきりってことは、他には使わないんですか?」

「他の使いみちもないしな。持ち手をつけて破城鎚にはできるだろうけど、うちじゃ出番なさそうだし」

「それはそうですねぇ」

あれで実際に試したら、もしかしたら都の城門でも粉砕できるかも知れない。粉砕というか切断というかだが。

まぁ、そんなことをすればお縄につくのは間違いないので知ろうとは思わないが。

あるいは家の庭に突き立てておいて、意味ありげなふうを装うのもいいかも知れない。「ここから入るな」とか「罠の存在を示している」とか思わせておいて、実際には何もないと言うやつだ。

そういえば、前の世界ではインドに錆びないとか言われてる鉄柱があったな。ナイフや剣はいざという時に使えないと困るので手入れを続けているが、魔力をまとった鋼がどれくらい錆びないのか試すのに、野ざらしにするのはありかも知れない。

もちろん、折角作ったものを野ざらしにするというのは、かなり気が引けるが。

「下手したら、この家にあるものであれが一番危ないものかもね」

破城鎚と聞いて一瞬目を輝かせたアンネが言った。

「重いけど1人でも持ち運べて、もしかしたら鋼の扉でも一発で開けてしまうわけでしょう? 」

「そうだな」

「そりゃ危ないな」

アンネの言葉に俺が頷くと、ヘレンが苦笑しながら引き取った。

「そんなのがあったら助かったのに、って思い当たる場面が1つや2つじゃきかないぜ」

攻城戦は滅多にないのだろうが、砦攻めくらいならかなり経験がありそうなヘレンが言うと説得力がある。

「本気で作ったやつだし、外に出すつもりはないよ。かなり重いから盗もうにも難儀するだろうしな」

一部の例外を除いて、本気で作ったものをおいそれと外に出すつもりはない。それがただの棒切れのようなものでもだ。……例外が割とあるのではと言われると肩身が狭いのも事実なのだが。

話の最中、ディアナに上品なスープの飲み方を教わっていた(なかなかに厳しいのでアンネ以外は口出しできない)サーミャが、最後の一口を飲み込んで言った。

「そういや、あれってどう使うんだ?」

「ん? あれはな……」

翌日、俺たちは穴の上にいた。傍らにはクルルがここまで頑張って持ってきた細長い丸太がある。

丸太は前の世界でいうところの足場丸太のようなものである。使い道も近いのだが。

穴の上に丸太で簡素な櫓を組む。三角錐の底辺以外の辺が丸太になっているような形だ。焚き火で使うトライポッドと同じ形状と言ってもいいかも知れない。

縄でくくった頂点部分には、井戸から外した滑車が取り付けてある。涼しくなってきたし、ここに居る間は井戸には行かないので大丈夫だろうと判断してのことだ。

その滑車には別の縄が通してある。穴の底に落ちた縄の端に昨日作った“岩砕き”をくくりつけた。

あとは落ちる箇所が一定になるように、足場丸太でガイドをつけた。摩擦で落下速度が多少下がるだろうが、そこはチートで作った俺の製品である。カバーできる威力はあるだろうと信じている。……あるよね?

穴を狭めなかったのはいくらか砕いても湧くなり噴出するなりしない場合は、岩盤の中でも特に分厚いところと判断して位置をずらす予定だからである。

本当は落とす“岩砕き”も、もっと複雑な形状をしていた記憶はあるのだが、特殊すぎてよく覚えてないんだよな。キッチリ用を果たしてくれると良いのだが。

「上でこれを引っ張り上げて、手を離せば高いところからあれが落ちて岩を砕いてくれるって寸法だ」

「言われてもピンとこなかったけど、こうやって見ると分かるな」

サーミャはほほうと感心した顔で言った。耳がピコピコ動いてるのでテンションも上がっているらしい。

「よーし、それじゃあ始めるか」

俺が言うと、クルルがひときわ大きな声をあげて、森の中に家族の笑い声が響いていくのだった。