軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

妖精と商人

「荷車から降りたら、姿を消したままついてきてくださいね」

俺が小声でそう言うと、同じく小声で「わかりました」と答えが返ってきた。頷かれても分からんしな。

いつもの通りに倉庫に荷車を入れると、「ふわぁ」と声が出てしまっていたのはご愛嬌と言うものだろう。

倉庫にいた店員さん(俺が“丁稚さん”と呼んでいるのとは違う人だ)が一瞬怪訝そうな顔をしたが、理解しているのかどうなのか、タイミングよくルーシーがあくびをしたので、それだと思ったらしい。微笑んで仕事に戻っていった。

荷車から降りるときには指輪と夫婦剣を忘れない。クルルとルーシーは自由になると、進んで裏庭に向かっていった。

裏庭には丁稚さんが待っていて、うちの娘2人の姿を認めると破顔した。

「それじゃ、よろしく頼むよ」

「はい! お任せください!」

クルルとルーシーもすっかり彼には懐いていて、顔やスネに頭を擦り付けたりしている。なんとなく微笑ましい気持ちになって、俺達はいつもの商談室へ向かった。

商談室へ向かう際も、小声で「うわー」という声が聞こえてくる。森の中の一軒家――と呼ぶには少々デカいが――と、街の店舗、それも商談室などまで備えたやり手の商人の店と比べたら、内装は雲泥の差と言わざるを得ないだろう。

こうやって見聞を広めて、文化として取り入れたりしてくれると良いのだが。

商談室へ入っても、感嘆の声は止まらなかった。他人を入れるためにタペストリーやら絨毯やら、一際豪華な内装になってるからな。俺たち向けには意味がないが、こういったハッタリが必要な場面も少なくはあるまい。

「こういうのは妖精族にはないですか?」

「そうですねぇ。長の家でもここまででは」

口ぶりからすると、妖精族にもそれぞれに家のようなものはあるらしい。一瞬ファンシーなキノコの家が頭をよぎるが、人形サイズのちゃんとした家があるのだろう。

「妖精さんサイズの何かが作れたらジゼルさんに贈りましょうかねぇ。いつになるかも分からないですが」

小さいサイズのものを作るのは、それはそれでいい経験になりそうだ。だが、それより先に作らねばならないもの、作りたいものもたくさんあるし、本当にいつになるかは不明としか言えないのだが。

家具類は作ったとしても、まずうちに設置して妖精さんたちが逗留できるようにしないとだしな。

「いいですね、長も喜ぶと思います」

ディーピカさんの声が聞こえる。まだ姿を消したままなので表情は窺い知れないが、声からすると喜んでいるようだ。

「おっと、お出ましだ」

その時、ドアがノックされて、すぐにカミロと番頭さんが入ってきた。俺は気軽に手を挙げる。

「よう」

「おう。調子はどうだい?」

「良くもなく悪くもなくってところだな」

「いつもどおりか」

「いつもどおりだ」

そういって俺とカミロはニヤリと笑いあう。

「いつもの品はいつもどおりでいいのか?」

「ああ」

「それで、例の品は?」

「もちろん完成してる」

俺は小箱を取り出し、カミロに渡した。彼は箱を開け、ほのかに光る指輪を手に取ってあらためる。

「見事なもんだ。メギスチウムに細工までしてある。これを売れと言われたらさぞかし値付けに困っただろうな」

笑いながらカミロが言う。俺は自分が困った顔になったのを自覚した。

「どうした? なんか問題でもあったか?」

「いや、問題ではないと思うんだが……」

いざとなるとどう話したものか困るな。しかし、正直にありのままの状態を言うのが一番早いか。

「それには妖精族の長の祝福を授かっている。災厄よけだったかな。妖精族の中でもかなりいい方の祝福だそうだ」

カミロが芝居がかってない驚きの顔を見せた。普段は多少なにかあっても眉一つ動かさない番頭さんも表情が崩れていた。

「黙ってても良かったのかも知れんが、そういうものなのは言っておかないと、何かあった時に問題だろう?」

「いや、それはそうだが……」

カミロが珍しく言いよどむ。

「で、だ。番頭さんならいいかな」

「私ですか?」

俺は頷いた。番頭さんも珍しく怪訝そうな顔をしていた。この状態でこの上なにがあるのか、と思うのは当たり前だろう。

俺だって事情を知らなかったらそう思う。

「お2人とも、いいですよ」

俺がそう言うと、妖精さん2人が姿をあらわした。流石に緊張しているのか、俺の陰に隠れるようにしている。

「妖精族のディーピカさんとリージャさん。事情があって今2人ともうちにいる」

2人は無言でペコリと頭を下げた。一方のカミロと番頭さんはと言うと。

2人とも、口と目を大きく開けているのだった。