軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

街へ行こう

ヤスリで剣の表面を整えていく。とはいっても、チートを使っていてもついてしまう鎚跡や、彫刻のカエリを取る位のものだが。

少しずつ目の細かいヤスリに変えて、表面を綺麗にする。最後は砥石でヤスリをかけた痕を消したら、火床に入れる。温度が上がってきたら、ナイフを水槽へ入れるまでの動きを確認する。

今のところは途中に障害はない。普段なら俺が何をしようとしているのかを周囲が理解しているので気にはならないが、今回は見学者が2人もいる。万が一熱したナイフが当たりでもしたら大変なことになる。

「今からこれを水槽に入れます。熱くて危ないのでそこから動かないでくださいね」

俺はリージャさんとディーピカさんに声をかけた。2人はブンブンと首を縦に勢いよく振っている。

それを確認して、目を火床に戻すと、丁度いい温度に達している。それを火床から取り出すと、素早く水槽へと入れた。ジュウという音を立てて、蒸気が上がる。

『わー』

妖精さん達2人はそれを見て歓声を上げた。ナイフを作る作業の中で、派手さは一番だからな。ナイフの温度が思ったところまで下がるのを待ち、再び火床の火にかざす。

少しばかり温度を上げたら、脇へ避けて自然に冷めるのを待つ。

ふと気がつくと、妖精さん達は身じろぎもせずにそこに立っていた。決して安全ではないが、一番危険なところはもう終わっている。

「もう動いても平気ですよ。これはまだ熱いので触らないでくださいね。すみません、気がつきませんで」

「いえいえ」

ディーピカさんのほうが手を振った。

「人間の鍛冶屋ってこういうことをしているんですねぇ……」

「ええ。妖精さん達は違うんですか?」

「みたいです。作業を見たことがないので詳しくは知らないんですけどね」

ちょっと困った顔をしてディーピカさんが答えた。もしかすると妖精族の秘伝とかあるんだろうか。逆にそのあたりの技術が発達してないだけかも知れないが。いずれにせよ興味はある。

「もし機会があれば、ぜひ拝見したいところですね」

「ええ、是非。でもあの娘、気難しいからなぁ……」

俺は思わず苦笑した。職人が偏屈なのは人間も妖精も変わらないらしい。さて、冷えたら柄に革を巻いて仕上げよう。鞘は目立たないよう有りもの――つまり、普段納品してるのと同じもの――を使うから、新しく作る必要はない。

これで結婚式の祝いの品は完成だな。ひとまず明日に指輪とまとめて納品しよう。

「ああ、そうか。どうしようかな」

夕食時、サーミャから「明日街へ行く間、2人はどうするんだ?」と聞かれて、俺は頭を抱えた。万が一を考えると、ここに2人だけ置いておくわけにはいかない。

しかし、誰かを残すなら俺しかいないわけだ。他を残しても万が一の時にはどうしようもないからな。でも納品であることを考えると俺がいないのも具合が悪い。

かと言って、2人を街へ連れて行くのもなぁ……。

俺がウンウン唸っていると、リージャさんがおずおずと手を上げた。

「あ、あの……私達も行っていいですか?」

「行っても大丈夫なんです?」

一緒に来てもらえるなら、それに越したことはないが、エルフ以上に希少な存在だ。流石に何が起こるか分かったものではない。

リージャさんは頷いた。

「はい。私達は暫くの間なら姿を消せるので」

そう言うと、リージャさんの姿が徐々に薄れていく。最終的に、ほのかにキラキラしている、ぼやけたリージャさんの姿だけが残った。

俺はリージャさんを知っているから、これが妖精でリージャさんだと分かるが、そうでない人には「なんか空間が少しキラキラしてるような……」くらいにしかわからないだろう。

俺がそれを言うと、リージャさんは驚いた。

「見えるんですか!?」

「薄っすらとですけど。ほとんど見えてないのも変わらないですよ」

「それでも見えてるのは凄いです!」

そうなのか。俺とリージャさんが困惑していると、リディが言った。

「エイゾウさんは魔力が完全に見えてますからね」

「ははあ、なるほど」

鍛冶のチートに付随して、この世界で常識外のものを作るのに(たぶん)不可欠な、魔力を知覚する能力が俺には備わっている。妖精さん達は魔力が強いから、それで見えているのだろう。

そっちまでは消せない、ということらしい。

「これなら普通の人には完全に誰もいないようにしか見えないと思うので、心配はいらなさそうですね」

「アタイには見えないなぁ……。どこにいるかはわかるけど」

リディの言葉にヘレンが茶々を入れた。ディーピカさんが怪訝そうな顔をする。

「お前のは気配でだろ」

「バレたか」

「そりゃそうだよ」

俺がツッコむと、食卓には笑いが溢れた。よくよく考えれば、気配で分かるのも相当に凄いことなのだが。

こうして、妖精さん達2人は街へ行くことになる。大丈夫だとは思いつつ、俺は問題が起きませんようにと内心祈らざるを得ないのだった。