軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

もう1本

ディーピカさんをなだめたあと、守り刀の鞘を塗り終わった俺は、次の作業をこなしていた。

奥さんの守り刀はこのまま仕上げても問題ないとして、マリウスには何もないというのも寂しいなと思ったのである。

「ナイフかなぁ……」

恐らくあまり人前に出ないか、専属の護衛がちゃんとつくであろう奥さんは良いとして、マリウスも同じ守り刀というわけにはいくまい。

いちいちそれが何かを説明させるのが忍びない、というのもあるが、「俺のも頼んどいて」などと言われたときに、マリウスが断れる相手ならまだしも、そうでない相手の場合に俺が困る。

俺は別に栄達を望んでいるわけではない。むしろ飯を食うに困らない程度に好きにものを作っていられればそれでいいのだ。

ただの贈り物なので、普段はしまっておいて貰うというのも手ではある。しかし、自分で言うのもなんだが、彼は身につけたがるだろう。

マリウスは見た目が完全に優男だが、武官だし敵がいないわけでもない。

俺も関わった彼の兄の件、あれがそもそも彼(もしくは後ろ盾の侯爵)を快く思わない誰かの差し金だった可能性が高い以上、護身も常に考えておきたいだろうからな。

なので、少なくとも鞘に収めた時の見た目だけは普通の長剣やナイフと変わらないようにして、目を引かなくする必要がある。

鞘と鍔と柄を西洋剣のものに、刀身は日本刀で片刃の直刀にするのも面白いかも知れないが、今更身につけた剣術を捨てて、そちらに合わせろというのもなぁ……。

やはり、ここはナイフ――品質は特注品レベル――が良いか。ミスリルかアポイタカラ、あるいはヒヒイロカネも考えたが、何かの折に見せた場合に出所を探られたくないので、普通の鋼でこしらえることにしよう。

「ちょっと1回代わってくれ」

俺は板金を作るのに炉の前で待っていたアンネに声をかけた。

「うん、わかった」

アンネは素直に頷いて場所を譲ってくれる。炉の中には流れ出す時を待っている熔けた鋼がその温度を上げている。

型に直接流してもいいのだが、今回は“特別”なので今のうちに、いくつかの型を少し離れたところに置いてくる。

俺は革の手袋をはめると、ヤットコを手に持つ。やがて、十分に熱が上がった鋼が炉から流れてきた。

付近の気温が一気に上昇する。気温の上がり下がりはまるで鍛冶場が脈動しているかのようだ。

流れ出た鋼はいったん器に流れ込む。俺は急いでその器をヤットコで掴んだ。

炉から少し離れたところに置いた型に、器の中身をそっと注ぐ。なるべくムラのようなものが出ないようにだ。

炉から出せる1回の量は型に注ぐと数個分ある。なので、1つ注ぎ終えたら次、1つ終えたら次と注いでいく。

1つあればナイフには十分だが、他の型もさっきと同じようにムラのようなものが出ないように注いだ。

「ふぅ、これでいいかな」

型に注ぎ終えると、鋼が熱を失っていき、綺麗な板金が姿を現していく。魔力も今の時点で結構な量が含まれているようだ。

よしよしと満足していると、リージャさんが俺に声をかけた。

「あなたは魔力が見えるんですか?」

「え? ええ……」

「すごい! 鋼なのに綺麗!」

簡単なものしか使えないとはいえ魔法を使っているのだから、魔力が見えるのは半ばあたりまえのように思うのだが、妖精さんの間では「人間は魔力が見えない」というのが常識なんだろうか。

満面の笑みを浮かべるリージャさんに、ディーピカさんがため息をつく。

「あのねぇ、リージャ。この人はあなたを助けるために魔力の結晶を作り上げたのよ。そりゃあ見えるに決まっているでしょう」

「あー、なるほど」

リージャさんがうんうんと頷く。間違っているわけではないし、チートの話は出来ないのでツッコミは入れないが。

ウットリとした声でリージャさんが言う。

「いいなぁ、人間たちはこんなのを使ってるのね」

「まぁ、全てがこれというわけではないですが。私のは自分で言うのもなんですが、特製です」

俺が苦笑しながら訂正すると、脇で作業していたリケがうんうんと頷いた。君は作業に集中しなさい。

ディーピカさんが感心したように言う。

「そうなんですねぇ。私たちも少しだけ鋼を使うことがありますが、こんな魔力のこもった鋼は初めて見ました。特別というのも納得です」

「少しだけ使う、というと武器ですか?」

「ええ」

ディーピカさんは頷いた。

「なにせここは“黒の森”ですからね」

お茶目っぽくウィンクしながらそう言うディーピカさん。俺はそれに「確かに」と笑いながら返すのだった。