軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

内容と“ただいま”

ジゼルさん……“黒の森”の妖精族長が来た翌日。出来上がった1つ目の指輪を前に、俺は少し唸っていた。

祝福された事はいい。付加価値がついた事そのものは問題にならないだろう。

そもそもがメギスチウム製の指輪などと言う貴重品なのだし、そこに希少価値が加わったところで、という話である。

まぁ、その内容が内容ではあるのだがマリウスが公言しなければ、そうそうわかるものでもないだろう。妖精に祝福された物品を見たことがある人間なんて、そうはいまい。

俺が気になっているのは、

「祝福の内容ってなんだろうな……」

ということだ。昨日の様子から考えて、祝福ではなく呪いである可能性はとても低いと思っている。

昨日の会話の途中でサーミャが割り込んでこなかったという事は、おそらくだが嘘はついていないはずだ。人間でないし、とても小さいから匂いが分かりにくい、という事はあるかもしれないけれど。

翻って昨日の祝福の言葉を考える。“身につけたものに幸多からんことを”だった。

前の世界でのRPG風に言えばLUKのパラメータが増加、って感じだろうか。

「うーん」

指輪は光にかざすと、メギスチウム本来の金色の他に、ほのかに薄青い色が混じるようになっている。

その青も金色の反射に紛れて、分かっていて見ているぶんには結構ハッキリとわかるが、言われなければ気がつくか微妙な色合いだ。

俺が指輪を前にウンウン唸っていると、今日の準備を終えたリケが隣から指輪を覗き込みながら言った。

「どうしたんです?」

「昨日の“祝福”のことなんだがな……」

俺はつらつらとさっきまで考えていたことをリケに説明した。

「なるほど」

「変なことにはなっていないだろうという確信はあるんだが、それを証明するものが何もないからな」

うーん、と師弟そろって腕を組んで唸る。そこへ、

「1回エイゾウが嵌めてみるしかないんじゃないの」

と、声がかかった。ディアナだ。

「いいのかな」

これがナイフならノータイムで試すところだが、ものが結婚指輪だから色々躊躇する。

「ジュリーのはダメだろうけど、兄さんのでしょ」

「ああ」

こっちが少し大きめなのはマリウスのだからである。製作のための試験もあったから、奥さんのよりはまだ知っているマリウスのものの方が何かあったときに心のダメージがわずかばかりでも少ない。

「じゃ、1回試してみるくらいはいいんじゃない? なんかあったら家族の私が良いって言ったって言っても良いわよ」

「ありがたいが、それを言うつもりはないなぁ」

やるなら自分だけの責任でやる。そうでないと頼んでくれた友達にも悪い。だからディアナのはあくまでもアドバイスだ。

「まぁ、でもここで唸ってても何も解決しないのは変わらないか」

「でしょ?」

俺は頷いた。そこはディアナの言う通りである。

「よし、じゃあちょっと嵌めてみるぞ」

流石に薬指に嵌めるのは憚られるので、サイズはあっていないが右の小指にそろそろと嵌めていく。

やがて、ブカブカだが小指に指輪が嵌まった。

「どう?」

「とりあえず頭痛がするとかはないな」

指輪を持って上下させてみると、普通に動く。1度嵌めると抜けなくなるなんてこともないようだ。

最悪の場合、指を切断する可能性も考えて小指にしたのだが、取り越し苦労で済んでよかった。

小指に指輪が嵌まった状態でしばらくじっとしてみたが、やはり体に変化はない。

恐る恐る指輪を右の人差し指に変えてみたが、やはり同じようだ。軽く屈伸運動してみたり、鎚を虚空に振るってみたりしても、特に体が重かったり、何故か鎚がすっぽ抜けたりといったことは起きなかった。

「“祝福”が有効になる条件がわからんが、害はなさそうだな」

「それが分かれば十分でしょ」

「そうだな」

俺は頷いた。面倒くさい鍛冶屋のオヤジとしては疑り深いくらいでも良いのかも知れないが、ある程度は人(妖精だけど)を信じてもよかろう。裏切られてたら容赦はしないけどな。

「大丈夫みたいだし、あとはジュリーさんのを作るだけだな」

「頑張ってね」

「ああ」

俺が残りのメギスチウムを加工しやすい硬さにしようと簡易魔力炉に放り込んだところで、カランコロンと鳴子が鳴った。

これは家の側の扉が開いたんだな。この時間に向こうを開けてしまう客はあんまりいない。

賊か、さもなくば……

「ただいま!」

鳴子がなって間も無く、バーンと家と鍛冶場の間の扉が開かれて、赤毛の女性が入ってきた。青い胸甲を身につけている。

「おかえり、ヘレン。早かったな」

「思ったより早くみんなに会えたからな」

入ってきたのは友人達に会うため、しばらく都に行っていたヘレンだ。何が入っているのか、背嚢がパンパンに膨らんでいる。

「とりあえず荷物下ろして休んでこいよ。昼飯には呼ぶから」

「おう。ありがとう」

ヘレンは部屋に戻る前に、他の家族にも「おかえり」と「ただいま」のやりとりをしていた。

滅多なことはあるまいと思っていたが、実際こうして無事に帰ってきて、みんなと帰宅を喜んでいる情景を見ると、家族なんだなぁという実感が湧く。

さてさて、昼飯はちょいと豪勢にしてやらねばと思うが、その前に大事な指輪の仕事も片付けていかないとな。

俺は再び魔力炉の前に腰を下ろすと、鎚を振るうのだった。