軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最大限の魔力

俺は魔力炉の蓋を鎚で叩く。事情を知らない人から見ると、「なんか嫌なことでもあったのかしら」となることうけあいの光景だ。

普段の作業なら、たとえミスリルやアポイタカラでも、しばらく叩けば形状の変化が少しはあるので、わずかでも達成感を満たせる。

しかし、今回の作業では形状的には一切変化がない。板金から少しずつ魔力が抜けていくのだが、その抜けた魔力は簡易魔力炉の中に入ってしまうし、その中の指輪の状態は確認できない。

魔力満載の透明アクリル板で簡易魔力炉を作れば確認できるかも知れないのだが、そんなものはないしな……。

そうして叩き続け、やがて1枚の板金からほとんど魔力が無くなったので、俺はそっと蓋を開ける。

濃度の高い魔力が、水を入れた洗面器に突っ込んだドライアイスの霧のごとく、モワッと出てきたらどうしようかと思ったが、そんなこともなく。

あるいは魔力を蓄えまくった指輪が、発光するかの如き光を放っているかもとも思ったが、それもなく普通にご鎮座ましましていた。

同時に、今朝見たよりも大きな魔宝石ができている。それだけ魔力がここに集中していたということだ。

青い魔宝石を除けた蓋の上に置いて、指輪を簡易魔力炉から取り出した。当たり前だが温度が上がっているとかそういったこともない。

発光こそしていないが、魔力がこもっていることは分かる。ここまで来たら普通の人間でも感知できるかも知れない。

そう思い、ディアナを呼んで見てもらうことにする。サーミャだと獣人の感覚のほうと見分けがつかないし、アンネは魔力のこもった品を見たことがあるだろうから、ヘレンがいない今は普通に一番近いのがディアナというわけだ。

「なるほどねぇ」

そう言ってディアナは俺が手渡した指輪をためつすがめつする。その傍らでは大きさの故か、まだ空気に溶けてしまっていない魔宝石をアンネが手にとって見ている。目が$になっている気もするが、気のせいだろう。当たり前だがドルはこの世界にはない。

「なんか普通とはちょっと違うかも、って感じはするわね」

「ふむ。なんか温かいとかそういうのは?」

「そのへんはあんまり。キラキラしてるのもメギスチウムがそうだからなのか、これが魔力なのかはわからないわ」

「ああ、それはそうか」

俺が魔力をこめたのは純金ではなく、メギスチウムという特殊な金属(かどうかも若干怪しいが)である。輝きが物質の特性によるものかは単体で見てもわかりにくいか。

なので、残っていた魔力がまだこもっていないメギスチウムを持ってくる。アンネの「ああっ」という悲しそうな声が聞こえたので、魔宝石のほうは崩れたのだと分かった。崩れるまでの時間は大きさ、つまり結晶になった魔力の量に依存するらしい。

「これが加工前のものだ」

アンネは一旦置いておいて、ふにゃふにゃとしているメギスチウムをディアナの手の上に置く。

「どうだ?」

「あ、これなら分かるわね。指輪のほうがちょっとキラキラしてる」

「おお、そうか」

ディアナが指輪に負けず劣らず目をキラキラさせながら言った。特に魔法の手ほどきを受けてなくても、この量がこもっていたら流石にわかるということだ。

「あとは夜に確認するか……」

「夜?」

「もしこれが光を放つようだと、寝るときに困るだろう?」

「……それはそうね」

この世界でも結婚指輪はあまり外さないことになっている。であれば就寝時にも身に着けていると思うが、そのときに光っていたら眠りにくいだろう。

もし光るようなら、指輪として十分な強度を保ちつつ、光らないくらいの魔力の量を探るという作業が必要になってくる。

なるべくなら、そんな作業は避けたいところだが、必要であれば仕方ない。

窓の外を見ると、既に空にオレンジ色が混じる頃になってきたので、俺は作業の片付けを始めようとする。

そこへ、すごく小さなノックの音が聞こえてきたように感じた。ほんの僅かな、作業をしていたら聞き落としていただろうと思うくらいの微かな音。

「今ノックの音が聞こえたか?」

「いいえ?」

「サーミャはどうだ?」

「アタシもちょっとだけ聞こえたような気はしたけど、気のせいかと思った。エイゾウも聞こえてたのか」

サーミャが虎耳をぴこぴことさせながら言った。なら、気のせいではないってことか。いつに来ようが客は客だ。俺は鍛冶場の扉を開ける。

「はいはい、どちらさ……ま」

すると、そこには羽の生えた、小さなエルフのような女性がニッコリと浮かんでいたのだ。