軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

俺は板金を叩き続け、やがて蚕の繭のような形を作り出した。この後、武器のように焼き入れと焼き戻しも行う。「硬さと粘り強さの両立」は防具でも変わらないのだ。

だが、その前にやらなければいけないことがある。背甲の板金を用意している間に、胸甲の温度が下がってきたので、俺はヘレンを手招きした。

呼ばれたヘレンは額からしたたる汗を拭きながら近寄ってくる。

「なんだ?」

「仕上げはまだまだだが、とりあえずサイズがおかしくないかだけ見てくれ」

「わかった」

俺が胸甲を手渡すと、ヘレンは胸のところにあてがった。

「そこから内張りをしたり、革帯で締めたりするから、その分も考えて合わせてみてくれ」

「うん」

胸のところに当てたまま、体を捻ったり、逸らしたりするヘレン。俺の感覚で言えばおかしいところはないはずだが、少しズレている方が「しっくりくる」場合も少なくはないだろう。

その辺りは使う本人の感覚に委ねるほかない。完璧であることが必要条件ではない。使う本人が使いやすいのが唯一にして絶対の条件だ。

「どうだ?」

「うん、バッチリだ。動きにも違和感がない」

「じゃあ、それで仕上げちまうな」

「おう」

俺は胸甲を脇に置いておくと、背甲の続きに取りかかった。

この日は結局、背甲をある程度形にするところまでで終わってしまう。残りはまた明日だな。

翌日。今日は胸甲を仕上げるところまでいきたい。胸甲を板金から打ち出す作業は終わったのだから、その分“慣れて”いるはずではあるのだが。

「ヘレン、すまんがちょっと背中触っていいか?」

「えっ」

俺の言葉に全員が驚いた顔をした。言葉が足らなかったな。

「すまん、サイズは分かってるんだが、背甲の成形のために知っときたくて……」

「ああ……」

それで皆なるほどという顔をしてくれた。あくまで仕事というか、作業の一環でやるだけだし、胸の方は本人の許可があったとしても憚られたが、背中の方なら本人の許可があればギリギリ許して欲しい。

すこし顔の赤いヘレンが俺におずおずとだが背中を向ける。OKということだと判断して触る。

「それじゃ失礼して……」

そっと触るとかえって良くないと思ったので、思い切って触った。服の上からでもガッシリとした、だがしなやかな筋肉の感触が伝わってくる。ここに住むようになってからも、ディアナとほぼ毎日剣の稽古をしていたからなぁ。

「次は背中を丸めて貰えるか」

「こうか?」

「そうそう」

ヘレンはグッと上体を前に倒した。さっきまでの背中を伸ばしていたのとは、違う形状と感触が伝わってくる。

「ありがとう、もういいよ」

「今ので良かったのか?」

「ああ。助かったよ、ありがとう」

今の感じだと、背中側はやや余裕を持たせた方が良さそうだ。今の感覚を忘れないうちに背甲の形を整えるため、火床に入れておいた板金を取りだした。

小さい金床で形を整えていく。もちろん魔力を込めていくことも忘れない。ただの板金だったものは少しずつ形状を変えていき、やがてヘレンの背中を覆う形状になった。

ヘレンの背中に当ててみるにはまだまだ熱いので冷えるのを待つ間に、胸甲を火床で熱する。こっちの焼き入れを行うのだ。

適温まで上昇するのを待って、上がってきたらすぐに水槽に入れて急冷する。大きな音と蒸気があがり、鍛冶場の暑さが一層高まった。

俺も皆もすっかり汗だくである。こればっかりはチートでも防ぎようがないから仕方ない。

エアコンみたいなものはないのかなぁ……。あっても焼け石に水かも知れんが、あるとないとで違うなら導入したいのが人情というものだろう。

水槽から胸甲を引き上げると、胸甲はすっかり硬くなっていた。表面がガタガタなので、ヤスリやカンナのようなものを使って綺麗に整えていく。

やがて銀色に光り輝く表面になった。これで後は焼き戻しをして粘り強さを出すわけだが……。

「ヘレン」

「ん?」

俺は再びヘレンを呼んだ。今度はサイズの話ではない。

「青色は嫌いか?」

「いや?」

「そうか」

俺はそれだけを確認すると、火床で胸甲を熱しはじめる。今度は赤熱するほどは加熱しない。その代わりと言ってはなんだがある程度の温度で止まるように調整する。

酸素がある状況で鋼を加熱すると、表面は酸化されて錆ができる。錆と言っても赤錆のようなものではない。

今、俺がやっているのは酸化皮膜を作ることだ。酸化皮膜を作れば、元々酸化しているので錆も出にくい。そして酸化皮膜を作ると、その厚みなどによって反射光に干渉が起こって色がつく。

加熱の最後でリケを呼び、火床を見せて言う。

「いいか、この温度だ。よく見ておいてくれ」

「はい」

そう言って俺が火床から取り出した胸甲、それには鮮やかな青い色がついていた。