軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帝国の意図

一気に鍛冶場の中が殺気に満たされる。ヘレンも俺の言葉でギリギリ踏みとどまったが、もしも俺が指でも鳴らそうものなら、即座にアンネの命を奪うだろう。

家族を守るためであれば、最悪そうすることも致し方ないと俺は思っているが、なるべくここでヘレンにそうして欲しくはなかった。

必要だと判断したなら、彼女の帰り道にでも俺がやる。

「それで、事情は説明してもらえるということで良いんですかね」

「え、ええ、勿論!」

アンネが体ごと揺らすかのように首を縦にブンブンと振る。横にしたらルーシーが尻尾振ってるときみたいだ。

他の皆も作業の手を止めて集まってきた。

「先程も言いましたが、私たちとしては貴方がたとことを構えるつもりはありません」

真剣そのものの顔でアンネが話し始めた。見た目は ぽ(・) わ(・) ん(・) としているが、はっきりした口調である。さっきまでワタワタしてたのとどっちが素なんだろうなぁ。

「貴方がたは立ち位置としては王国よりだと判断しています。これは単純に居住地やご友人の繋がりからですね」

アンネはこくりとワインのお湯割りを一口飲んだ。ヘレンは相変わらずピリピリしている。ちょっとでも怪しい動きを見せたら、ナイフ1本でもあっという間に頭と首と切り離してみせるだろう。

俺としては元々この世界の人間ですらないこともあってか、王国の人間だという意識はあまりない。住んでいる場所の都合上カミロやマリウス達、王国の人間と知り合うのが先になっただけだ。この森が、あるいはこの工房が帝国よりにあったのなら、帝国の誰かとそうなっていたかも知れない。

”IFは存在しない”のだから、この世界にとってその選択肢は存在しなかったのだろうけれども。

お湯割りを飲んだ彼女はほうっと1つ息を吐いて続ける。

「そして、そちらに過剰に肩入れされると困る、と皇帝陛下は仰せです。貴方の作ったらしいものを試す機会は十分にありましたしね」

アンネが言ってるのはたくさん作った剣の事だな。侯爵が帝国の領地……と言ってもほぼ放棄されていて領民もほぼゼロのような土地と引き換えにしたやつだ。

それに、この目の前に置かれた前のヘレンの剣を試す時間もあっただろう。革命自体はあっと言う間に鎮圧されたというし。

「とは言え、何者かも一切分からずに野放しにしておくわけにもいかないですから、どういう人物なのかを確認してこいと」

「それなら警戒されるような真似をしたのは間違いだったのでは?」

俺は疑問を口にした。黙って仕事を依頼して確認して帰ればノーリスクだ。例え疑われても証拠がない。

命がなくなるかも知れないところまでは想定外だったにしても、その選択が正しいようには思えない。

アンネは頷いた。

「私もそう思います」

「じゃあ……」

「陛下が”胸襟を開いて話をしてこい”と。それで私が帰ってこないような事になれば、それはそれで想定済みなんでしょう」

随分とあっさりものを言う人だな。にしても、命のやりとりになる可能性も織り込み済みか。

ここでもし彼女を”片付けて”しまったら、それはそれで帝国には利益になるんだろうな。

しかし、だとすると彼女はそんじょそこらの人物ではないということか。

仮に俺が今殺されたところで、王国の友人・知人達は怒り狂うかも知れないが(そうあってくれるといいなという願望も込みだが)、王国と帝国の関係的には大したインパクトはない。変なところに住んでいる、流れ着いた鍛冶屋のオッさんが1人死んだだけだからな。

つまり、彼女は少なくとも殺されるか監禁状態にあること自体が、王国と帝国の間に何らかの事態をもたらす程度の身分であることにはなる。さっき名乗った名前とは大きく乖離しているように思う。

俺はそこを突っ込んでみることにした。

「だとしたら、話してないことがあるのでは?」

「ああ、確かに」

俺の言葉に一瞬雰囲気ごとぽわんとしたあと、アンネは立ち上がる。スッとヘレンとサーミャ、ディアナが前に出た。

アンネはそれを見て少し眉根を寄せたが、すぐに微笑んで貴族流の優雅なお辞儀をしながら言った。

「 私(わたくし) はアンネマリー・クリスティーン・ヴィースナー、帝国の第七皇女にございます」