軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一つの解決

クルルがゆっくりと歩みを止める。俺はチラッと後方を確認したが、気配はない。

「親方、どうします?」

「とりあえずはこのまま言うことを聞こう」

「わかりました」

リケはクルルの手綱を持ったまま、じっとしている。

「よし、動くなよ!」

剣を持った人影はそうこちらに命令してくる。全身をマントやフードで覆っていて、姿はよく見えない。声の感じからすればどうも女性のようなのだが、確信が持てないな。

向こうがこちらに近づく間に弓を射掛けられたら面倒なので、それを警戒するようにディアナとサーミャに言う。もちろん、俺もだ。

普通の野盗ならここでお仲間が登場して人なり金品なり、あるいはクルルや命を持っていくんだろうが、その気配がない。ということは普通の野盗ではない。

「ひょっとして、こいつが噂の?」

「おそらくな」

サーミャがこそりと俺に囁いた。そう、普通の野盗でないとしたら、前に話に聞いていた賊以外ない。

さっき確認した時に後方にも気配がなかった。野盗ならUターンされないように後ろにも人を配置するだろう。

そもそも走る馬車(うちの場合は竜車だけど)の前に賊でございますと言わんばかりに体一つで出てくるのが、どだい間違っている。もう少し頭の回るやつなら、丸太を道において障害にするなり、あるいは体調が悪いようなふりといった一芝居打ったりするだろう。

全くそれらをしなかったのだから、まぁ普通の野盗ではないな。となると残った可能性は未だ捕まってないという賊だ。

なので、目的を知りたかったのもあってわざと停止した。そうでなければ弓で撃つなり引き返すなりしている。

「それにしても 杜撰(ずさん) だな」

向こうも当然警戒はしているが、今突然クルルが本気を出して走り出せば、ひとたまりも無いんじゃないのかコイツ。もしかして馬車を止めるのは初めてか。そんな経験そうそうあるものでもないだろうが。

「こんなのでよく今まで捕まらなかったわね」

「同感だな」

ディアナの囁きに俺は同意するしかない。

そこへ、やや緊張を伴ったリディの囁き声が聞こえる。

「あれは魔族ですね」

「あれがか」

「澱んだ魔力を纏っています」

俺は目を凝らして人影を見てみたが、よく分からなかった。この辺りはそのうち俺もリディに習うか……。

人影はクルルの方に剣の切っ先を向けた。 ディアナ(クルルのママ) が飛び出しそうになるが、俺が抑える。

「よし、そこのお前!持っている武器を出せ!」

魔族がリケに命令する。リケがこっちを振り返るが、俺は頷いた。

リケが手綱から手を離し、護身用のナイフを取り出して鞘ごと放り投げる。魔族は無防備にそれを拾い上げた。

今、この荷台から斬りかかったら余裕で斬れた気がするが、とりあえず「何かを探しているらしい賊」が何を探しているのかを知るきっかけでもないかと、一挙手一投足を監視することにする。

もちろん、うちの誰かに危害が及びそうになった瞬間に襲いかかる体勢を整えつつだ。

「あっ!」

拾ったナイフを見ていた魔族が声を上げた。俺達は思わず柄に手をかける。一気に空気が殺気に染まった。いよいよ斬りかからねばならないかと思ったとき、

「おいお前たち、これをどこで手に入れた!」

魔族にナイフを掲げながらそう問われて、俺達は顔を見合わせる。次の瞬間、俺達は思わず笑っていた。

「な、なにがおかしい!入手先を教えろ!」

魔族は狼狽半分だが、相当憤慨しているらしい。気持ちは分かるがこちらの事情も知ってほしいところだ。

「どこで手に入れたもなにも、それを作ったのは俺だよ」

俺は毒気を抜かれて、笑いながら言う。

「へっ?」

間抜けな声が響いた。

「今はそれを納品先に卸して帰るところだったんだよ。お前の目的がうちの製品なら剣を納めろ。話はそれからだ」

そろそろ、それとなくママを抑えとくのも限界に来てるんだから。夕方の稽古(ちゃんとまだ続けている)の時はそんなに実感していなかったが、確実に力が強くなっている。母は強し、とはちょっと違うか。

このまま剣を納めないときは力ずくで制圧して話を聞き出すまでだが、多少の被害を覚悟しなければいけない。なるべくなら避けたいところだ。

魔族は逡巡していたが、やがて剣を納めた。

「よし。このままだと面倒なことになるから、こっちに乗れ」

なんだか魔族と俺達の立場が逆になっている気もするが、実際こんな場面を衛兵に見られたら、そのまま突きだす以外の選択肢はないのだ。

魔族はゆっくりと乗り込んだ。多分こちらを警戒しているのだろう。こっちも警戒はするが、チートで感じるところではディアナより少し強いくらいでヘレンほどではない。それならなんとか抑えられるな。

「私はこの刻印の武器を探していた。入手するためだ」

荷台に座り込んだ魔族はナイフの柄頭――太った猫の刻印を見せながらそう言った。なるほど、探していたのはうちの製品か。ここいらでもそれなりの数が出回っていると思っていたが、そうでもないのだろうか。

カミロは帝国でも売っているようなので、もしかすると刻印の入った高級モデルは利益のためにそっちをメインにしているかも知れない。

「さっきも言ったが、それを作ったのは俺だ」

俺は懐から自分のナイフを出して柄頭を見せた。もちろん同じ刻印が施してある。目配せをすると、他の3人も同じようにして見せる。

単に俺達が全員エイゾウ工房の製品を購入しただけ、という話の可能性がなくはないが、エイゾウ工房の武器を探していた側からすれば、入手できるなら 些細(ささい) な話でしかない。

「もし本当なら、1つ武器を作って欲しい」

魔族は俺に頭を下げた。根は悪いやつではないんだろうな。俺もちょっと簡単にコイツを信用し過ぎだなとは思う。こういうところは前の世界での認識がなかなか抜けない。

「いいぞ……と言いたいところだが、うちはオーダーメイドの時は条件がある。1人でうちまで来ることだ。場所は教えてやるから、明日また来い」

「わかった。そうしよう」

俺がそう言うと、魔族はあっさりと頷いた。

うちへ帰る森の入口に差し掛かる前に魔族と別れる。色々気になることはあるが、それはうちに来たら聞くことにしよう。

すでに面倒を抱え込んではいるが、これ以上面倒事にならないといいのだが。そう思う俺を乗せて、クルルの牽く荷車は森へ入っていった。