軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

未知の鉱石

バルガスさんの案内に従い、俺たちは管理棟のさらに奥へと足を踏み入れた。分厚い鉄張りの扉にはいくつもの頑丈な錠前が掛けられており、入り口には兵士が二人、槍を手に微動だにせず立っている。

バルガスさんが鍵束を取り出し、ガチャガチャと重々しい音を立てて扉を開けた。

「こちらです。どうぞ、中へ」

彼に促されて薄暗い保管庫の中に入ると、部屋の中央に置かれた頑丈な木の台座の上に、それは鎮座していた。

一辺が30センチほどの、歪な塊。

俺は思わず息を呑み、歩み寄った。ルシアさんやカテリナさんたちも、固唾を呑んで俺の後ろから覗き込んでいる。

色は、周囲の光を吸い込むような深い黒だ。だが、ただの黒ではない。その表面には星空のようにキラキラとした微小な輝きが無数に含まれている。一見すると、黒曜石の中に雲母の粒を混ぜ込んだような、そんな不思議な美しさを持っていた。

「……これが、未知の鉱石ですか」

「ええ。持ってみてくだされ。見た目以上に手強い代物でしてな」

バルガスさんの言葉に従い、俺は両手でその黒い塊を持ち上げてみる。

「っ……重いな」

見た目の大きさから想像する鉄の重さを、優に二倍は超えているだろう。鉛か、あるいはそれ以上に密度が高いかもしれない。

だが、表面を撫でてみる感触は、冷たくて滑らかで、間違いなく普通の金属のそれだった。

「そう言えば、採掘の際にツルハシの刃が欠けたんでしたっけ」

「そこがこの石の厄介なところでしてな」

バルガスさんが困ったように分厚い手で髭を撫でる。

「ツルハシを力一杯振り下ろしても、火花が散って刃が欠けるだけで、石本体には傷一つ付きません。そういう強い衝撃には、信じられないほどの硬さを見せるんです。……ですが、エイゾウ殿。その石の端を、指でゆっくりと強く摘んでみてくだされ」

俺はバルガスさんに言われた通り、石の尖った部分を親指と人差し指で挟み、じんわりと、だがしっかりと力を込めてみた。

すると――。

「……嘘だろ?」

聞いてはいたが、実際に目にすると信じがたい物がある。

あれほど硬いはずの鉱石が、まるで粘土のように、俺の指の力に合わせてぐにゃりと形を変えた。急激な打撃には耐えるのに、ゆっくりとした圧力をかけると容易に変形してしまう。

「な、なんですかそれは……! 岩が、指で潰れるなんて……」

背後でカテリナさんが驚きの声を上げ、アネットさんも目を丸くしている。あまり表情を崩さないルシアさんも、微かに目を見開いていた。

「そうなんです」

バルガスさんが深いため息をついた。

「なので、形を変えること自体は、時間をかけて手で捏ねれば可能なんです。ですが、武器や防具、あるいは建材にするにしても、いざという時に硬さを維持できなければ意味がありません。剣の形に整えても、じわじわと力が加われば曲がってしまう。どうすればこの石の形を固定し、実用に耐える強度を保てるのか……我々には皆目見当もつかないのです」

なるほど。これは鍛冶屋としての常識が真っ向から覆される素材だ。

鉄であれば、熱して叩き、焼きを入れることで硬度を調整する。だが、この石は常温で捏ねられるという、まるで逆の特異な性質を持っている。瞬間的な力には強く、持続的な力には弱い。

俺の鍛冶屋としての意識がもぞもぞと身じろぎするのを感じた。どんな不可思議な素材であれ、これを「完成品」として定着させるための条件が、必ずどこかにあるはずだ。

「バルガスさん。ここには、簡単な火床か、石を熱せる設備はありますか?」

「ええ。エイゾウ殿が何か試されるかもしれないと思い、隣の部屋に小型の火床に炉と炭を用意してありますぞ」

気が利く親方で助かる。俺は小さく頷き、不可思議な黒い石を見つめ直した。

「ありがとうございます。まずは、火を通してみましょう。熱に対してこの性質がどう変化するのか……それを見極めたい」

叩かずに形を変える石。だが、それでは「鍛冶」にならない。

果たして、火の力はこの未知の素材にどんな変化をもたらすのか。試作と検証の第一歩を踏み出すため、俺は炉のある部屋へと静かに歩みを進めた。