軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

岩の門を抜けて

俺たちを乗せた馬車は、ゆっくりと帝都を進んで行く。「ちゃんとした」隊列なので、どうしても雰囲気は物々しく、なんだなんだと野次馬をしにくる人々も多い。

軍事的なものではないし、帝室の行幸というわけでもないから、祝福されるというよりは、「どっか行くらしいよ」「へー」くらいの温度感の見送りだ。

まあ、自分で言うのもなんだが、メインが鍛冶屋のオッさんだからな。これでも過分かなとは思うが、花を撒いたりされるよりは全然気恥ずかしさがなくていい。

こうして帝都の門を馬車が抜けると、ガタゴトと、重厚な馬車の車輪から伝わってくる感覚が石畳から土と石の混じった硬い路面へと変わった。

その振動は、先ほどまでの比較的静かな揺れとは異なり、座席を通じてダイレクトに響いてくる。懸架式のサスペンションでは吸収しきれない……いや、前の世界の自動車に搭載されているサスペンションでも、かなり揺れることだろう。

俺はあまり乗り物酔いする性質ではないが、それも覚悟が必要かもしれない。

一応の乗り物酔い防止もかねて窓の外に目を向ければ、王国側から帝都へ入る際に見かけた、あの緩やかな丘陵や豊かな緑の風景はすでに過去のものとなっていた。

そこにあるのは、むき出しの岩肌が牙のように突き出し、地層が垂直に切り立ったような崖の連なりだ。王国から来るほうが豊かな黒土と森の匂いがする土地だとすれば、こちらはどこまでも硬く、冷たい石の匂いがする土地だった。

「随分と景色が変わりましたね。王国に近い方はもっと……なんというか、土の匂いが強かったんですが、こちらは石の匂いがします。馬車の揺れからも、地面の硬さが伝わってきますよ」

俺が率直な感想を漏らすと、向かいに座る近衛隊副将のルシアさんが、微かに顎を引いて頷いた。彼女は軍服の皺ひとつない完璧な姿勢を崩さず、膝の上に置いた手にも全く隙がない。

「よくお気づきになられましたね、エイゾウ殿。このあたりは帝都を守る北西の天然の要塞とも呼ばれる岩地なのです。かつてこの地を治めていた豪族が、この峻険な岩山を背にして、数倍の敵を退けたという話も残っております。帝都への侵攻を防ぐ、まさに天険の盾と言えるでしょう」

ルシアさんの言葉は丁寧だが、その響きには軍人らしい芯の強さがあった。

彼女の隣では、王国の使節として同行しているカテリナさんが、珍しそうに窓の外を見つめている。

王国だと都から見える範囲に山があるが、これほど荒々しい岩山は珍しいはずだ。アネットさんもどういう思惑かは分からないが、周囲の複雑な地形に鋭い視線を送っている。

「天然の城壁というわけですか。なんか、岩も硬そうですね」

俺は道端に転がる岩を見ながら言った。色は灰色が強く、結晶が混じったかのような鈍い光沢がある。ハンマーで叩けばキンと高い音が響きそうだ。

「はい。あちらに見えるのは古い採石場の跡です。帝都の『金剛宮』や主要な外壁に使われている石材の多くは、この一帯から切り出されました。帝国の石造建築が王国よりも堅牢であると言われるのは、この岩地の恩恵があってこそ、だと聞いています」

ルシアさんは丁寧に解説を続けてくれる。彼女の言葉からは、自国の成り立ちを支えたこの厳しい土壌に対する、静かな自負のようなものが感じられた。

帝国という国が持つ質実剛健さは、こうした風土によって育まれたものなのかもしれない。

「なるほど。良い鉱脈が眠るのも頷けますね。……俺の家族たちがこれを見たら、きっと珍しがったでしょう」

ふと、森の家で留守を守っているサーミャやリケたちの顔が浮かんだ。彼女たちを置いてきたのは、今回の件が皇帝直々の依頼であり、外交問題も絡むだろうと考え、あんまり巻き込みたくないなと思ったからだが、いざこうして旅路が始まると、物見遊山が許されるならついてきてもらった方が良かったかもなぁ、などと思ってしまう。

「これから向かう鉱山は、この岩地の中でも、特に古いものなのだとか。見つかったものも、その中でも深いところで発見されたのだと聞いております。エイゾウ殿の目利きに期待しておりますよ」

そう言って、ルシアさんは俺に鋭い視線を飛ばした。有り体に言えば値踏みするような感じがあって、不躾と言えるだろうが、彼女の前で何かを披露したわけではないからな。

それにどれくらい公表されているかは分からないが、ある種皇帝陛下の肝いりとも言える状況なのは、近衛であれば知らない話ではないはずだ。

そこを考えれば値踏みするのも無理はない。

「期待されると緊張しますが、職人として、その未知の素材には大いに興味があります。俺にできる範囲で、可能な限りやらせてもらいますよ」

俺が小さく肩を竦めてそう言うと、ルシアさんは小さく微笑みを見せてくれた。

幾度か休憩を挟み、馬車はさらに険しい道へと入っていく。切り立った岩壁の間を抜ける風が、笛のような鋭い音を立てて吹き抜けていった。