軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#. 永遠の制約、甘美な束縛 (1)

まだ朝が来るには早い刻限。しかし、長い夜を明かした空は青い光を湛え、世界を少しずつ照らし始めていた。完全な夜明けまではまだ数時間を要するというのに、プリシラとリュエンは人影のない通りに立ち、周囲を眺めていた。

塔に巣食った亡霊の討伐から、まだ数時間しか経っていない。プリシラは世界を救った英雄なのだから、本来なら皇城に留まるのが筋であり、正しい選択だった。

しかし、彼女は皇城での滞在を拒否し、我が家のあるリベリアへと戻ってきた。

理由はいくつかあったが、最大の要因は、罪人となってしまったリュエンを皇城の貴賓室に置いておくわけにはいかないからだった。かといって地下牢に閉じ込めるわけにもいかず、妥協点としてリベリアへの帰還を許されたのである。

プリシラにとっても納得のいく処置だったため、何気なくリベリアへと戻ってきたのだが、リュエンは納得がいかなかったのだろうか。晩餐会の時から、何も言わずに彼女の後をついてくるばかりだった。

(まあ、リュエンも複雑な心境でしょうね)

再会の瞬間は喜びで胸がいっぱいだっただろうし、ガエルの悪夢を終わらせる時は、すべてをやり遂げたという高揚感に思考が止まっていたはずだ。しかし、人生というものは物語とは違い、大きな山場を越えて終わりというわけではない。

(そうね。まだやるべきことは山積みだ)

色あせ、崩れ去った王城に、ミラベルの姿はなかった。罪を犯したのはリュエンだけではない。罪を償うべき人間は、他にも十分にいるのだ。

プリシラの冷ややかな視線が、魔の森の向こうに存在する冷酷な王国へと向けられた。かつては貴族として生き、祖国として守り、結局は利用されるだけ利用されて捨てられた場所。

忘れて蓋をしたところで、消え去るものではないことを、今は知っている。

プリシラの口角が吊り上がった。

(待ってなさい、ミラベル。未払いの債務を清算しに、すぐ会いに行ってあげる)

無意識に足を止めてしまっていたようだ。闇の降りた森にプリシラが視線を固定していると、リュエンが小さく尋ねた。

「プリシラ? どうしたのだ?」

「……日が暑いと思って」

険しい表情を消したプリシラが笑って答えると、リュエンが空を見上げた。

「夏が近づく時期だからな。朝になれば、もっと暑くなるだろう」

「本当? しばらく外に出られないわね」

「夏はまだ始まってもいないのだが?」

「大変だわ。どうやって外を歩き回ればいいのかしら」

プリシラのとりとめのない冗談に、強張っていた彼の顔が少しだけ和らいだ。その様子を見守っていたプリシラは、小さく笑みを漏らしながら家へと歩みを進めた。悪夢とは全く異なる平穏な通りには、早い朝を告げる鳥たちの囀りが響いていた。

ライディスに家のすぐ近くまでワープさせてくれるよう頼んだおかげで、ほどなくして見慣れた家が視界に入った。扉を開けて中に入ると、懐かしい我が家の香りが鼻腔を甘くくすぐった。

「帰ってきたわ。本当に久しぶりね」

かなり長く家を空けてしまったせいで、あちこちにうっすらと埃が積もっていたが、その光景さえも感慨深かった。浮き立つ心を抑えきれぬまま廊下を進んでいたプリシラは、ふと自分の後ろが静かすぎることに気づいて振り返った。開かれた扉の向こうに、ぽつんと立ち尽くしているリュエンの姿があった。

「リュエン? 入らないでどうしたの?」

「私が……本当にこの家に入ってもいいのか?」

「何を言ってるの?」

「私がこの家に入って……また何かを壊してしまったら……」

か細い声に、プリシラはリュエンに歩み寄った。蒼白な顔は、今にも消えてしまいそうなほど危うかった。

本意ではなかったとしても、罪を犯した彼が平穏に過ごせるはずがない。誰もが彼を許せるわけではないし、彼の救済を望んでいるわけでもないだろう。

これからも彼は、激しいトラウマと共に生きていくことになる。そんな彼の傍らで罪を共に背負って生きるのが、プリシラの選んだ道だった。

どうしても前へ進めずに立ち止まったままのリュエンの手を、プリシラは優しく包み込んだ。

「二度と壊させはしないわ。たとえ壊れたとしても、直せばいいの。リュエン、進むことを恐れないで」

「プリシラ」

「立ち止まってもいい、怖がってもいいわ。その時は、私があなたを導いてあげる。……こうやって」

プリシラが彼の手を引いた。導かれるように家の中に入ったリュエンをソファまで連れて行き、彼を座らせると、プリシラは言葉を継いだ。

「リュエン。あなたが背負うべき業は重く、深い。おそらく一生かかっても返しきれないでしょう。だから、私はあなたに『制約』を課そうと思うの」

「制約……?」

「ええ。あなたが自分自身を恐れずに済むように。二度と、あなたが利用されないように」

繋いでいた手を離したプリシラは、その手をリュエンの首へと添えた。プリシラの荒れた掌が、彼の白い首を優しく包み込む。

「制約を受け入れるなら、私の言葉を繰り返して。……『リュエン・シェイルグはプリシラ・ライデンの奴隷として、生涯、永続する』

動脈の鼓動が指先に伝わってくる。プリシラの声が幾重にも重なって響いた。彼女の声に反応するように、リュエンの視線が彼女へと向けられた。自分の首を包むプリシラの手の上に、自らの手を重ねながら、リュエンが答えた。

「リュエン・シェイルグは、プリシラ・ライデンの奴隷として、生涯、永続する」

「『リュエン・シェイルグは、プリシラ・ライデンの許可なくして、持つ力の半分以上を使用することはできない』」

「リュエン・シェイルグは、プリシラ・ライデンの許可なくして、持つ力の半分以上を使用することはできない」

「『この主従契約は決して破られることはなく、違反した際は最も大切なものを失うことになる』」

「この主従契約は決して破られることはなく、違反した際は最も大切なものを失うことになる」

「『その魂が肉体に留まる限り、プリシラ・ライデンが付与した制約は、永遠に消え去ることはない』……以上」