軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#20.

「リュエン?!」

リュエンが体を丸め、その場に崩れ落ちた。驚いたプリシラがその肩を抱き寄せようとしたが、彼の体に触れた瞬間、弾き飛ばされた。思わず手を引いて確認すると、手のひらの皮が剥けていた。

いかなる魔法も唱えていないというのに、周囲には異様な魔力場が溢れ出している。これは……。

(魔力暴走の兆候だわ)

大陸中の国々を相手に戦争を仕掛けながらも、圧倒的な差を見せつけていた魔法大国を、わずか一日で滅ぼした暴走の力ではないか。極めて不吉な兆候だ。暴走の対象が一人だけだとしても、油断はできない。リュエンほどの魔導師であれば、リベリアなど跡形もなく消し去ってしまうに違いない。

(冗談じゃないわ……)

フェンベルクの相手もしなければならないし、魔物たちも残っている。その上、暴走したリュエンまで食い止めろというのか。

(アタッカーが来る気配もないし……)

いくらプリシラが「戦場の盾」だとしても、三つの災厄を一度に相手にするのは荷が重い。特に暴走したリュエンを止めるのは……いや、相当に困難なはずだ。可能だとしても、この三つを抑え込めるほどのアタッカーが駆けつけてくれる保証もない。

ならば、最も排除しやすいものから消さなければならない。

(何から消すべき?)

冷たく沈んだプリシラの瞳が、うずくまるリュエンへと向けられた。プリシラの実力では、ドラゴンも魔物も処理することはできない。だが、極度の混乱状態に陥っているリュエンなら。無防備に首元をさらけ出している彼なら……。

一人の命と、数千の命を天秤にかけることはできない。

保管バッグに入れていた剣を取り出したプリシラは、リュエンへと歩み寄った。先ほどは魔力場の存在を予期していなかったために不覚を取ったが、分かっていれば防ぐなど造作もない。

プリシラがリュエンの前に立つと、フェンベルクが嘲笑を孕んだ声で問いかけた。

『シェイルグを殺すのか? 黒い防壁』

「……」

プリシラの視線がフェンベルクを射抜き、再びリュエンへと移った。

リュエンを殺すべきか。

魔力が暴走しなかったとしても、かつての同僚が生きていると知れば、リュエンは敵の側に立つかもしれない。あるいは「彼女」の願いを聞き入れ、リベリアを火の海に変えるかもしれない。

殺せる機会は今しかない。ならば、今のうちに彼を仕留めておくのが賢明なのだろうか。

しかし、リュエンを殺してしまえば、フェンベルクに対抗できる者がいなくなる。人間だった頃でさえフェンベルクは強大だった。ドラゴンとなった彼を止められる者が、果たしてどれほどいるだろうか。その場合、戦力として数えられるリュエンを失う打撃はあまりに大きい。

もちろん、リュエンがプリシラの傍で戦ってくれるという保証はない。それでも、プリシラは彼を殺したくはなかった。

(だって、そうでしょう?)

死にたがっていたリュエンに「生きろ」と言ったのは、他でもないプリシラ自身なのだから。共に生きようと、幸せになろうと約束した。そんな彼女がリュエンの命を奪うなど……。

伏せ目がちにリュエンを見つめていたプリシラは、小さく息を吐いた。そして、フェンベルクを閉じ込めた障壁にさらに「色」を塗り重ねた。寸先も見えない密室。

フェンベルクの口を封じたプリシラは、手にしていた剣を荒々しく地面に突き立てた。

自分のすぐ横に剣が突き刺さったというのに、リュエンは依然としてうなだれたまま虚空を見つめているだけだった。プリシラが彼の名を呼んだ。

「リュエン」

「……」

「リュエン、私を見て」

プリシラの声に、虚空を彷徨っていたリュエンの視線が少しずつ上がってきた。焦点の定まらない彼の瞳がプリシラを捉える。乾いた唇がかすかに開いた。

「プリ、シラ……」

消え入りそうなほどか細い声。しかし、プリシラの耳にははっきりと届いた。

「リュエン。あなたはどうしたいの?」

「……どう、したいか、だと?」

「私はあなたと共に生きると約束した。自分が掲げた約束を先に破ることはできないし、破りたくもない。けれど、あなたが望まないのなら、解き放ってあげる」

「……私を、放すというのか?」

「ええ、放してあげる。ただし、あなたが戻るその瞬間、私たちは敵同士になるわ」

ゆっくりと指先を持ち上げたプリシラは、リュエンの胸元にそれを添えた。選択は自由だ。しかし、責任はすべて選択した者の肩にかかる。

「再び殺し合う仲になる。私はあなたを生かしておいたことを、何よりも後悔することになるでしょうね」

プリシラの問いに、リュエンの瞳が彼女の指先に注がれた。先ほどまで響いていた「彼女」の声が聞こえない。狂ったように脈打っていた心臓が、さらに不規則な音を刻む。頭の中には、ただプリシラの声だけが木霊していた。

あまりに容易く自分を救い、あまりに容易く自分を突き放そうとするプリシラの行動が理解できなかった。

なぜ? 共に生きようと言ったくせに、これほど簡単に手放すのか?

なぜ? 生きてもいいと言ったくせに、お前から先に私を捨てようとするのか?

なぜ? 今になって私に選択の権利を与えるのか?

「そなたにとって私は……それほどまでに捨てやすい存在なのか?」

リュエンの問いに、プリシラは彼の襟元を掴んで引き寄せた。互いの額が触れ合う。プリシラは祈るように目を閉じ、言葉を紡いだ。

「捨てやすい存在なら最初から拾ったりしないし、こんな風に対話もしないわ。リュエン、教えて。あなたの望みは何?」

「私は……そなたの傍にいたい。そなたに捨てられたくない。私には……私にはそなただけが必要なのだ。しかし……」

リュエンは苦しげに息を吐きながら続けた。

「私は……彼女の声に抗うことができない。壊せと言われれば壊さねばならず、殺せと言われれば殺さねばならない。制御が……できないのだ」

震える体が、彼の苦悩を代弁しているようだった。リュエンの唇から一筋の血が流れ落ちる。声に逆らえない。洗脳でもかかっているのか、それとも特殊な魔法で縛られているのか。

分からない。だが、そんなことはどうでもよかった。

「それがあなたの答えなのね」

プリシラの言葉に、リュエンは絶望的な表情で彼女を見つめた。それに対し、プリシラは安心させるように微笑んだ。

「制御できないなら、私が手伝ってあげる。リュエン」

魔力の暴走を止める方法は二つ。一つは、暴走する直前に対象を殺してしまうこと。

もう一つは、暴走する魔力を他人の魔力で上書きし、封じ込めること。

リュエンの顎を持ち上げたプリシラは、そのまま彼の唇に、自分の唇を重ねた。