軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#14.

ミラベルのヒステリックな怒号を浴び、アリシアは唇を噛みしめた。

「何と……お答えすればよいのか分かりません、ベルク夫人」

「分からない? おやまあ。あなたのせいで二十人も死んだと親切に教えてあげたのに、私の言葉が難しかったかしら?」

「っ……! そ、れは一体……」

「その通りでしょう? あなたがプリシラを崖っぷちまで追い詰めてくれたおかげで、防衛線が崩壊したのよ。そのせいで、普段より強力な魔物が現れたわ」

ミラベルの歪んだ微笑に、アリシアの顔が引きつった。

「どう? 満足かしら。自分のせいで人が死ぬのは楽しい?」

「そんなはずが……」

「ない? 本当にないの? プリシラを殺そうとしていたあなたが?」

「そんなことしていません! お義姉様に過ちを犯したのは分かっています。でも、これは私のせいじゃ……」

「あはっ。しらを切るつもりかしら? ええ、これくらい図太くなければ、あのプリシラが耐えきれずに出て行くはずもないわね。驚いたわ」

アリシアは納得がいかなかった。悪いことをしたのは確かだ。けれど、貴族にとって不倫なんて日常茶飯事ではないか。

隠そうと思えばいくらでも隠せることではないのか。

プリシラは、アリシアがどれほど執拗に嫌がらせをしても黙って受け流していた。

あの愚鈍な女はアイザックを愛していたから、アイザックの大切な妹であるアリシアを無下にはできなかったのだ。

それなのに。どうして。

プリシラは情の深い人間だが、一度情を切り捨てた相手には容赦がない。そんなプリシラの激情を知らないアリシアは、唇を噛みながら憤った。

「私が戦場に行かなければ、犠牲者はもっと増えていたでしょうね。あなたのせいで、また戦場に立たされる羽目になったわ。あんな汚くて臭い場所に! 辺境伯夫人であるこの私がよ!!」

(だから何だって言うのよ)

「慈愛の天使」ミラベル。あんたも王国の英雄でしょう? 戦場に立つのなんて当然じゃないの?

喉元まで出かかった言葉を飲み込み、アリシアはさらに深く頭を下げた。

「も、申し訳ありません。私はただ……」

「口先だけの嘘はやめたらどうかしら?」

「嘘ではありません……」

――パァン!

再び頬に衝撃が走る。今度は当たった場所が悪かったのか、切れた唇から一筋の血が伝った。

「アリシア・ペイン。私が戦場でアイザック・ペインを見た時、どんな気分だったか知っている? 血まみれになって治癒を乞うあなたの兄を見た時よ」

アリシアが反射的に顔を上げた。打たれると思い慌てて頭を下げようとしたが、ミラベルが乱暴に彼女の髪を掴み上げた。ミラベルの歪んだ笑みが視界いっぱいに広がる。

「本当に、少しも治癒してあげる気にならなかったわ。切断された足を必死に掴んで這い寄ってくる姿が、おかしくてたまらなかった。盾を失った兵士の、無惨な末路そのものだったわ」

「……っ!!!」

そんなはずはない。アイザックは「最強の槍」だ。今回も顔色が少し青白かっただけで、五体満足だったはずだ。

「彼がまともな体をしていると思っているの? 当然よ。死なせてやりたかったけれど、プリシラを連れ戻すには彼が必要だもの」

「何……?」

今、何と言ったの。

「プリシラはアイザックを愛しているわ。彼が愛を乞い、許しを請えば、心優しい彼女なら必ず戻ってきてくれる。だからアリシア・ペイン、今度は身の振り方に気をつけなさい」

――お兄様の首が繋がったまま戻ってきてほしいならね。

ミラベルが優しい声で囁くと、全身に鳥肌が立った。プリシラ・ライデンが戻ってこなければ、この女は本当にアイザックを殺す気だ。王国の英雄である彼を。

「あ、兄様は英雄です。そんな簡単に……」

「そう思うなら、今みたいに淫らな体で兄様をたぶらかし続けなさい。いいえ、いっそのこと、あなたがプリシラの代わりに戦場に出ればいいじゃない!」

「私が……?」

「ええ。あなたがプリシラの代わりに戦場に立って、みんなを守ってみなさいよ。そうすれば兄様も助かるでしょう? 違うかしら?」

不可能だ。アリシアにはスキルどころか、魔法の才能すらない。病弱な体を維持するために、筋肉さえほとんどないのだ。

アリシアの顔が絶望に染まると、ミラベルは華やかな笑みを浮かべた。

「あなたができることは、たった二つよ、アリシア。

アイザック・ペインに、この家を出て二度と戻らないと誓うか、

プリシラの代わりに戦場に出て死ぬか」

言い終えたミラベルは、未練なくアリシアの部屋を後にした。

一体どうして、こんなことになってしまったのか。

アリシアはただ、義理の兄であるアイザックを愛しただけなのに。

ただそれだけなのに。

「いっそ死んでしまえばよかったのに……あの忌々しい女」

プリシラ・ライデン。いっそ死んでしまえ。