作品タイトル不明
後日談・前編
後日、シール堂にブルジェ伯爵とアデールがやってきた。
「いらっしゃいませ!」
私の顔を見た瞬間、アデールが抱きついてくる。
「メーリス、本当にありがとうございました! おかげさまで、結婚式でドレスを着ることができました」
それを聞いてホッと安堵する。
「婚礼衣装を纏ったアデールは、本当におきれいでした」
「ありがとうございます」
皮膚シールも問題ないようで、ホッと胸を撫で下ろす。
「驚きましたわ。本物の自分の皮膚のように、違和感がなくて、手触りも自分の肌とまったく同じで」
「自分で剥がそう、という意識がない限り剥がれないので安心してくださいね」
「それを聞いて安心しました」
新婚旅行に行ってきたようで、お土産をいただく。
「メーリスさんにはこちらの香水と、真珠の髪飾りと――」
「ユベール、俺達完全に存在を忘れ去られているねえ」
「しばらく大人しくしておけ」
「はーい」
新婚旅行を思う存分楽しんだようで、何よりだと思った。
「今日は、シール堂でお買い物もしようと思いまして」
「ありがとうございます。ごゆっくり、ご覧になってくださいね」
シールを置くトレイを持ってきていたら、ユベール様が店内の商品について説明していた。
「これは〝虫除けシール〟で、いっさい虫が近寄らない効果がある」
「うわー、新婚旅行の前に欲しかったよ! 森に散策にいったら、虫がすごくてさー」
あっという間にトレイはシールでいっぱいになる。
効果がわかりやすいよう、説明入りのシール帳に貼ってからお渡しした。
「ありがとうございました」
「また、来ますわ」
「いいお店だから、みんなに宣伝しておくね」
願ってもない話である。
「あと、これも!」
ブルジェ伯爵が懐から出したのは、小切手だった。
そこには金貨百枚とある。
「こちらは?」
「オーダーメイドした、皮膚シールの代金だよ」
「このような大金、いただくわけにはいきません!」
皮膚シールは今回製作できる量と素材集めの労力、時間を考え、価格は金貨三枚程度にしようとユベール様と話し合っていたのである。
「メーリス嬢がアデールのために根気強く話を聞いて、ユベールもそれに協力して皮膚シールを完成してくれたんだ。感謝の気持ち込み込みなんだよ」
どうしよう、と思ってユベール様を振り返ると、「アデールやナゼルの好意だ、受け取るといい」と言う。
「これからもシール堂を続けてほしいからさ。投資的な意味もあるんだ」
たしかに、これだけあればユベール様にも給金を払えるだろうし、お店のメンテナンスにも使えるだろう。
「よろしいのですか?」
「もちろん!」
「受け取っていただけると、嬉しく思います」
そこまで言われたら、お断りするのも失礼だろう。
「ありがたくいただきます」
そう答えると、アデールとブルジェ伯爵はにっこりと微笑んでくれた。
◇◇◇
状況が落ち着くと、今度はユベール様が私との婚約お披露目パーティーを開きたいという。
「二回目だから、面倒だろうが」
「いえ、その、実はマケールとは婚約式をしていなくて」
婚約式をするくらいならば、挙式を豪華にしたい。
そう望んでいたらしく、父が婚約お披露目パーティーの資金を渡してしまったらしい。
婚約破棄後、父がそのお金を回収しようとしたようだが、マケールは「そんな金など知らない」の一点張りだったそうだ。
「あの男は……本当に呆れる」
しかも、基本的に婚約お披露目パーティーの費用は男性側が負担するようだ。
初めて知った。
「そんなわけだから、費用については気にしないでほしい」
「よろしいのですか?」
「ああ、任せろ」
両親や知人を呼ぶだけの、ささやかなものだと思っていたのだが、王宮の大広間で行うと聞いて仰天してしまった。