軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

トネリコの森へ

〝トネリコの森〟は馬車で三時間の場所にある。

移動手段はユベール様が「任せてほしい」と言っていたので、お言葉に甘える形となった。

転移魔法で馬車乗り場まで移動すると思いきや、下り立ったのは王都の郊外らしい開けた森の中。

そこにあったのは馬車ではなく、ワイバーンが繋がれた大きな車だった。

「〝トネリコの森〟までは、ワイバーン車で向かうが、大丈夫だろうか?」

「ワイバーン車!!」

王家に関係する者だけが所有する、空飛ぶ馬車であるワイバーン車。

まさか実物を目にするどころか、乗ることもできるなんて。

「かなり高い位置を飛ぶことになる」

「平気です」

飛行シールで軽く飛んだことはあるので、おそらく大丈夫だろう。

初めて目にするワイバーンは、とても大きくて、圧倒される。

魔獣の一種であるが、きちんと 使役(テイム) されているため、大人しいものだ。

コゼットは初めてワイバーンを見たのか、興奮するように『きゅう! きゅう!』と鳴いていた。

「ワイバーン車であれば、〝トネリコの森〟まで十分もかからずに移動できるだろう」

なんてありがたい移動手段なのか。

専属の御者もいて挨拶を交わしたあと、少しだけ説明を受ける。

「こちらのワイバーン車は離陸と着陸時だけ、少々揺れます。車内にあります掴みを持って、転倒されないようお気を付けくださいね」

「わかりました」

どれほどの衝撃なのか、楽しみである。

「時間がもったいない。出発しよう」

「はい!」

ユベール様のエスコートで車内に乗り込む。

座席はなめらかなベルベットの生地を使っていて、座るとふんわりと体を受け止めてくれる。

馬車よりも一回りほど大きいようで、広々と 寛(くつろ) げるようだ。

ユベール様も乗り込み、御者席のほうへノックするようにコンコンと合図を出すと、ワイバーン車は飛び立つ準備を始めたようだ。

外から『ギャーッ!』というワイバーンの鳴き声が聞こえる。これが離陸の合図のようだった。

窓付近に取り付けてある掴みを握って、奥歯をぎゅっと噛みしめる。

コゼットもシュシュのベルト部分に縋るようにして、飛行に耐えようとしていた。

ワイバーンは助走もなしに、ぐん! と飛び立つ。

思っていたほどの衝撃はなかった。

窓の外の景色がどんどん上昇していき、ついには王都郊外を見下ろすような位置にまで到達したようだ。

「わあ……!」

空の上から見た景色はとても美しく、うっとり見入ってしまう。

コゼットもいつの間にかシュシュの中から出てきて、窓に張り付くようにして見ていた。

飛行のさいも大きく揺れることはなく、安定している。

「メーリス、具合など悪くなっていないか?」

「はい、平気です」

「そうか、よかった」

ワイバーン車を怖がる人もいるらしい。

だから乗る前に大丈夫かと聞いてくれたのだ。

「ワイバーン車を怖がる者の代表格がアデールだ」

なんでも領地へ向かうさいはワイバーン車で移動していたようだが、アデールはワイバーンが怖いと言って乗りたがらず、陸路で向かっていたという。

「領地までワイバーン車ならば三時間かかるところを、馬車で移動すれば、休憩時間なども含めて二十日以上かかる」

ワイバーン車であれば軽々乗り越えられる山々も、陸路ならば迂回しなければならない。さらに夜は宿泊したり、途中で馬を変えたりといろいろしなければならないため、余計に時間がかかるようだ。

「ナゼルは毎年、アデールが陸路でオーベルジュ大公家の領地に向かう旅路に付き合っているようだ」

「愛ですね」

「それ以外にないだろう」

実家の領地は馬車で三日ほどの場所にある。

貴族学校に入学するまで行き来していたものの、だんだんと移動時間が面倒に感じて、魔法の勉強を理由に帰らなくなっていたのだ。

話を聞いていると、移動に三日かかる程度ではかわいいものだった。

あっという間に〝トネリコの森〟に到着した。

ワイバーン車が着陸できる開けた場所に下り立つ。

着陸時も思っていたほど衝撃はなく、安全に下りたってくれた。

待機時間中、ワイバーンは空に放つらしい。

御者は恭しく頭を下げ、「それでは、お気を付けて」と声をかけてくれた。

〝トネリコの森〟に入る前に、ユベール様に魔物避けシールを差しだす。

「よろしければどうぞ。魔物避けシールです」

「このような品まであるのか」

「ええ」

皮膚シールの素材集めをするさい、絶対に魔獣がいる区画へ足を踏み入れることになるだろうと思って作っておいたのだ。

ユベール様は手の甲にシールを貼る。私はシュシュに貼ってみた。

『わあ、シール、かっこいい!』

「ありがとうございます」

シュシュはシールをお気に召してくれた模様。コゼットも拍手をし、シールを絶賛してくれた。

「では、行こうか」

「はい」

ついに、皮膚シールを作るための第一歩となる、水果実探しを開始することとなった。