作品タイトル不明
魔獣
呆然と立つ私におじさんがぶつかってきた。
「こんなとこでぼんやりすんな!!」
その言葉でハッと我に返る。
魔獣が街中に入ってくるのはありえない。街のすぐ外に強力な魔獣避けの結界があるからだ。
おそらくだが、街の中にいた魔獣が逃げだしたのだろう。
もしや、マケールが捕まえてきた魔獣なのだろうか。
それに気付いた瞬間、飛行シールを取りだし、手の甲に貼る。
すると翼が生え、ぐん! と上空へ引っ張られるようにして飛び立つ。
屋根辺りまで上昇してきたら、足をばたつかせて着地した。
残念ながら、ここからでは魔獣の姿は確認できなかった。
上からだと、人々が逃げまとう様子が見える。
広場の詳しい様子は見えないが、噴水が壊されたのか、水柱が高く上がっていた。
ここで、路地から大通りを窺うお婆さんの姿を発見する。
先ほど、私にカボチャをくれたお婆さんで間違いない。
こんなところにいたら危険だ。そう思って地上に降り、声をかけた。
「お婆さん、大通りに出るのは危険ですよ! 魔獣が出たそうです! 安全な場所に避難してください!」
お婆さんは驚いた顔で私を振り返る。
「ああ、あなたはさっきの……!」
「ええ」
魔獣が街中にいる中、安全な場所と言えば地下だろうか。
ここから少し進んだ先に、聖教会の礼拝堂があったはず。そこに行けば、避難させてもらえるだろう。
「お婆さん、礼拝堂に行きましょう!」
「待っておくれよ。孫が、孫が広場に行ってしまったんだよ」
「なっ――!?」
勇者公マケールの活躍が書かれた号外が配られると知って、友達の分も欲しくなり、出かけてしまったという。
「熱が下がったばかりだったから、止めたんだけれど聞かなくって……」
お婆さんは顔面を蒼白にし、今にも倒れてしまいそうだった。
「ごめんなさい、私がお婆さんに号外をあげてしまったから……」
「いいや、あなたに貰ってなくても、孫は号外が配られているかもしれないって、出かけていたはずだよ。あなたのせいじゃない……」
でも、お婆さんが新聞を持ち帰らなかったら、このタイミングで外出することもなかっただろう。
このまま逃げることはできない。お孫さんを探しに行く決意を固めた。
「お孫さん、お孫さんは私が見つけてきますので」
「危ないよ! 逃げたほうがいい」
「大丈夫です。私は魔女ですから」
お孫さんの名前と特徴を聞いておく。
「名前はミオ、年は八歳で、ブラウンの髪に鳶色の瞳、黄色い上着に黒いズボンを着ている、活発そうな男の子だよ」
「わかりました。絶対に、お孫さんを見つけて礼拝堂まで送り届けます!」
正直、見つけられるか不安でしかなかったが、お婆さんを広場に行かせるわけにはいかない。ここは前向きな発言をして、安心させないといけないのだ。
「大丈夫ですので、ご心配なく」
「でも……」
ここで騎士が礼拝堂への避難を促す声が聞こえた。
すぐ傍を通りかかったので、お婆さんを託す。
「すみません、お婆さんを礼拝堂へ誘導していただけますか?」
「わかりました! さあ、どうぞこちらへ!」
「え、ええ……」
お婆さんと別れ、私は広場を目指す。
飛行シールを靴に貼り、屋根に飛び乗る。
鑑定魔法を展開させる。その中で、ミオという男の子のみヒットするように設定した。
広範囲で 審検(サーチ) するも、この辺りにミオはいないようだ。
逃げる人々の中にお孫さんらしき男の子がいないか確認しながら、広場に向かったのだった。
そしてついに、魔獣の姿を目にする。
『グルルルルルルルル!!!!』
あろうことか、広場で暴れ回るのは三つの犬の頭を持つ魔獣ケルベロスだった。
毒蛇の尻尾をびたんびたんと地面に叩きつけ、背中の毛は逆立ち、低く唸っている。
明らかに怒っている様子だった。
広場は噴水の水が漏れ、辺り一面水浸しである。
まだ騎士達は駆けつけていない。いったい何をしているというのか。
腰を抜かし、この場から逃げられない者も数名確認できた。
ここで鑑定魔法の 審検(サーチ) がヒットする。
お婆さんの孫、ミオが魔獣から少し離れた位置に蹲っているのを発見した。
「いました!!」
木箱の陰に隠れて、逃げる機会を窺っているのだろう。
そのままそこで大人しくしていてほしい。そう願いながら、屋根を伝って彼に近づく。
『グルルルル、ガアアアアア!!』
ケルベロスは街灯をなぎ倒し、屋台の荷車を踏みつけ、咆哮をあげる。
まだ人的被害は出ていない。ひたすら広場にある物を破壊して回っているようだった。
そんな様子を横目で確認しつつ、ミオのもとへ急いだ。
大丈夫、きっと間に合う、上手くいく。ミオを助けられるはず。
そう自らを落ち着かせつつ、先を急いだ。
あと少しでたどり着くと思った瞬間、ミオが思いがけない行動に出た。
ケルベロスが背中を見せたタイミングで、走り始めたのである。
ああ、だめ! そこにいて!
叫んだらケルベロスに気付かれてしまう。
ミオは一心不乱な様子でケルベロスの背後を通り抜けようとしたが――。
『ギャウ!!』
残酷にも、ケルベロスは背後を走るミオに気付いてしまった。
「あ……!」
ミオは立ち止まり、ケルベロスを見上げている。
最悪の事態となってしまった。