軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

事情聴取

お茶でも淹れてゆっくりしようと思っていたのに、ユベール卿のもとに手紙が魔法で飛んでくる。

それを読んだ瞬間、ユベール卿は「はあ……」と深いため息を吐いた。

「どうかなさったのですか?」

「騎士隊が闘技場での状況を詳しく知りたいらしい」

「私も行ったほうがよいのでしょうか?」

「いや、いい。もしもメーリス嬢が今回の事態を正直にすべて打ち明けたら、その幼竜は国に保護されるだろうから」

その話を聞いたコゼットは、慌てた様子で私にしがみつく。

やはり、この子は人間が喋る言葉を理解しているのだろう。

「騎士隊への説明は私に任せてほしい」

「はい、お願いします」

ホッとしたのもつかの間のこと。

シール堂の扉を乱暴にどんどん叩く者が現れた。

「メーリス・ド・リュミエール、王国騎士隊だ!! ここを開けろ!! 聞きたいことがある!!」

ヒュ! と息を呑み込む。

まさか事情聴取をするために、お店にまで押しかけるなんて。

「メーリス嬢はどこかに隠れておけ。ここは私が対応する」

「よろしいのですか?」

「ああ、任せてほしい」

コゼットは背中にしがみついているので、そのままの状態でカウンターの後ろに隠れる。

レディ・ヴィオレッタの姿はすでになかった。さすがとしか言いようがない。

扉が壊れるのではないか、と思うくらい叩いていた。

ユベール卿が開くと、騎士達は急に大人しくなる。

「あ……オーベルジュ卿ではありませんか。その、お疲れ様です」

「貴殿らも、ご苦労なことだ」

乱暴かつ失礼な物言いをしていた騎士達だったが、ユベール卿が顔を出した途端に大人しくなり、態度も丁寧になる。聞いていて腹立たしい気持ちになった。

コゼットは騎士達の言葉に腹を立てたのか、ケンカを売りに行こうとしたので、必死になって止める。

騎士にコゼットが見つかったら、大変な事態になるだろうから。

「して、何用だ?」

「ここにメーリス・ド・リュミエールがいると聞いたのですが……」

「今、メーリス・ド・リュミエールはいない」

「では、どこに?」

「用事があると言って、どこかに出かけた。数日は戻らないらしい」

さすがユベール卿だ!! と心の中で大絶賛する。

「では、店の内部を探しても?」

「私が信用できない、と言いたいのか?」

「いえ、そういうわけではなく……。念のために、見て回ろうと思いまして」

「相手が容疑者であれば許されるだろうが、彼女はそうではないだろう。店主の許可なく、そのようなことをするのは盗人も同然だと思うのだが」

ユベール卿の正論を前に、騎士達をぐうの音も出ないような状況に追い詰められる。

いいぞ、その調子だと応援してしまった。

「まだ、何かあるのか?」

「い、いいえ! では、戻ったら騎士隊に連絡いただくよう、お伝えください」

そう言って、騎士達は撤退していったようだ。

ユベール卿がしっかり扉を閉めて施錠し、騎士達の足音が聞こえなくなってからカウンターから顔を覗かせる。

コゼットは騎士を追いかけないよう、しっかり胸に抱いておいた。

「ユベール卿、ありがとうございました」

「いいや、礼には及ばない」

ユベール卿がいなかったらどうなっていたか。

考えただけでもゾッとしてしまう。

「これから出向してくる。メーリス嬢に調査がいかないよう、強く言っておくから安心してほしい」

そうしてくれると非常に助かる。それにしても、王国騎士隊は普段からもあのように乱暴な調査をしているのだろうか。まるで犯罪者のもとに押しかけるようだった。

ユベール卿も同じことを思っていたらしい。

「あいつら、礼儀がまったくなっていない。魔法騎士隊では市民相手にあのような態度を取っただけで、懲戒処分されるというのに」

騎士達の態度も含めて、抗議してくれるという。

「では、行ってくる」

「どうかお気を付けて」

転移魔法で去って行くユベール卿を見送ったのだった。

ユベール卿がいなくなった途端、レディ・ヴィオレッタが出てくる。

『まったく、あの騎士らは店の扉を乱暴に叩きおって!!』

「壊れるかと思いましたね」

レディ・ヴィオレッタと一緒に、コゼットもぷりぷり怒っていた。

お店に被害が出なかったのは、ユベール卿が対応してくれたからだろう。

「ユベール卿がいなかったら、と思うと身震いしてしまいます」

『さすが元騎士だな。同業者の扱いをよく心得ておる』

ここは師匠をはじめとする、歴代のシール魔女が守ってきたお店である。

荒らされるようなことは、全力で回避しないといけない。

『すまなかった、わらわのせいでもある』

なんでもレディ・ヴィオレッタはお店に結界を張っていたようだが、ここ数年は平和な常連さんしかやってこないので、解除していたようだ。

『再度、強固な結界を張っておこう』

シール堂に用事がなく、招かざる客が近寄れないようになるらしい。

「ありがとうございます」

『当然の務めぞ』

仕事ができるレディ・ヴィオレッタはすぐに結界を展開してくれたようだ。

これで、先ほどの騎士のような 輩(やから) は近づくことはできないだろう。

「ユベール卿は入れますよね?」

『心配するな。あの男は自由に出入りできるようにしている』

「よかったです」

コゼットもやっと安心できたのか、ジタバタ手足を動かしてきた状態から大人しくなる。

まだ蜂蜜を食べたいようで、瓶を指差していた。

「本当に頭がいい子ですね」

『そなたの元婚約者より、確実に賢いだろう』

「たしかに、そうかもしれません」

王国騎士隊の呼び出しに応じたユベール卿には悪いが、少し休ませていただこう。

温かい紅茶を淹れて、ミルクと蜂蜜をたっぷり入れて飲む。

「ふーーーーーーー」

やっと緊張が解れたように思えた。

「今日は本当に大変な一日でした」

『何があったのだ?』

レディ・ヴィオレッタ相手に、今日あった出来事を語る。

改めて振り返ってみても、酷い一日だった。

「今日ほどマケールと婚約を解消していてよかったと思う日はないでしょう」

『そうだな』

これからは自分自身だけでなく、コゼットも守っていかないといけない。これまで以上にしっかりしなくては、と思う。

『そなたの人生は難儀の連続ぞ』

「平穏無事な人生を送りたいのですが……!」

心からそう思ったのだった。