軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第79:剣聖の提案

王都の宮殿の舞踏会に、仮面を付けて偽名で参加していた。

そんなオレの前に、一人の剣士が近づいてくる。

「お久しぶりです。オードルさん」

「ガラハッドか……」

やって来たのは剣聖ガラハッド。

この剣聖には以前の砦の件で、正体を見破られている。

だから本当の名前で呼ばれても別に驚きはしない。

「今はルーオド・イシュタルさんとお呼びした方がいいですか?」

「別に誰かがここに近づくまで、オードルで構わん」

舞踏会の会場は生演奏の音楽で騒がしい。

オレたちの周りには誰の気配はなく、会話を聞かれる心配もないであろう。

「それならオードルさんとお呼びいたします。それにしても驚きましたよ。こんな所で再会できるとは」

「その口でよく言うな。チャールズの件をエリザベスに話したのも、お前の策だったんだろう」

先日の鍛冶屋の後、この剣聖は一つの布石を打ってきていた。

エリザベスに弟の情報を与えて、オレたちを王城へと誘導しようとしていたのだ。

「はい、たしかにそうでした。ですが、まさか宮殿に直接乗り込んで来るとは、この私でも予想も出来ませんでした。てっきり王城のチャールズ殿下の所に、オードルさんたちは忍び込んで来ると予想していたのですが……」

「そうなったらお前が、賊としてオレを斬るつもり、だったんだろ?」

「はい、そうです! 何しろ王城内には、オードルさんの愛剣も保管されています。万全な装備で全力を出した戦鬼の再戦……楽しみにしていたのですが、ふっふっふ……」

ガラハッドは危険な笑みを浮かべる。

これが剣聖の危険な裏の顔。いや本当の顔か。

普段は礼儀正しい口調の騎士だが、戦闘狂ともいえる本性なのだ。

「期待に添えずに悪いな。今のオレはルーオド・イシュタルという道化の役だ」

「それは残念です。せっかく砦の時よりも私も腕を上げたのですが」

「そうか。もしも、いつか戦場で会ったら、全力で相手してやろう。と言っても、そんな機会はもう二度と無いと思うがな」

オレも元々は戦鬼と呼ばれた戦闘狂。

好敵手を臨むガラハッドの気持ちは分からなくもない。

こちらから敢えて戦いを挑むことはない。

だが人生は何が起こるか予想もできない。

何しろ戦鬼と恐れたらオレが、父親として生活しているのだからな。

「ふふふ……そうです、その時は楽しみしております、オードルさん」

ガラハッドは危険な剣士だが、いきなり斬りかかってくる性格ではない。

この男なりの戦いの美学があり、それに乗った時に戦いを挑んでくる。

そういう意味では近くにいても危険は少ない奴だ。

「ところで、オードルさん。どうやってチャールズ殿下を連れ戻す作戦なのですか?」

「エリザベスの弟を連れ戻す作戦だと? まぁ、その辺はレイモンド公爵と上手く考えるしかないな」

展望席で楽しそうにしている姉弟に、二人で視線を向ける。

チャールズに普通の暮らしをさせてやるのは、正直なところ難しい。

何しろルイ国王には実子はいない。このままいけばチャールズは次期国王の可能性が大きいのだ。

(チャールズが国王に、か……だが先ほどの様子では……)

チャールズは生まれた時から身体が弱い。

先ほど近くで見た時も、彼から弱い覇気しか感じられなかった。個人的には次期国王を務めるのは難しいと見る。

何しろ王という仕事は、予想以上に過酷な責務。

肉体的にも精神的にもタフでなければ、務めていくことはできない。

特に今の王国は隣国との関係も悪く、苦労の種しかない。

オレの今までの経験からみて、王座に就いたチャールズは心労で倒れる危険性があるだろう。

「私の見立てでも、チャールズ殿下は国王には向いておりません。出来れば自由に生きさせてあげたいですね」

ガラハッドも同じことを考えていたのであろう。

展望台の姉弟を遠目に見ながらつぶやく。

「そこで私に妙案があります、オードルさん」

「妙案だと?」

嫌な予感しかしない。

この剣聖は危険だが、頭の回転は鋭い。時間つぶし程度に話の続きを聞いてやる。

「実に簡単な策です。オードルさんが国王になれば良いのです!」

「オレが国王になるだと? そんなのは不可能だ」

まさかの提案だった。

一介の傭兵だったオレが……いや、今は一般市民の国王になるだと?

「いえ、実は簡単なことです。何しろ今のオードルさんは王国第二位の権力をもつレイモンド公爵さんに気に入られて、ここに来ています。その後ろ盾を貰いながら、王都で挙兵するのです……『自分は地獄から甦った不死身の戦鬼オードルだ! 腐敗した国王ルイを打倒して、国民と騎士の全てに再び栄光の日を約束する!』と、宣言するのです! そうすれば必ず国王になれます!」

ガラハッドは興奮気味で説明してくる。

ちょうどタイミングよく舞踏会の生演奏がクライマックスへ。

ガラハッドは曲に乗って自分に酔っている。

「面白い話だな。たしかにお前の言う通り、レイモンド公爵は協力してくれる可能性があるかもしれん。だが王国の騎士や兵士が、オレの挙兵に付くはずはない。戦鬼と呼ばれていても、オレはだかだか一介の傭兵団長に過ぎなかった男だぞ?」

「ふふふ……オードルさんは自分の評価を知らなすぎです。あなたが多くの武闘派の貴族と騎士団から、莫大な人気を得ていたのですよ! 私の見込みでは王国内の大多数の戦力が、オードル派に加わるはずです!」

「なんだと、大多数だと?」

「はい、そうです。全てが傾きかけた今の王国は、強い英雄を求めています! 一部の国王の腰巾着な連中以外は、オードルさんに賛同します!」

なるほど、そういうことか。今の時代が強い英雄を求めているか。

それに現役時代のオレは、たしかに武闘派の貴族連中から好かれていた。

特に今は王国の存在そのものが弱っている時期。

誰もが“戦鬼”という名前と戦績にすがりたいのかもしれない。

「だが、もしも国王討伐となれば、隣国も黙っていないぞ? その隙を狙って進軍してくるからな」

「その心配もありません! オードルさんは気づいていませんが、隣国にすら“戦鬼の信者”は多数おります。共和国の大多数は数年前に助けてもらった恩義を、今でも覚えています。オードルさんが挙兵したなら、必ず協力してくれるでしょう!」

「共和国の連中か……たしかに、そうかもな」

数年前の大きな戦のこと。当時の同盟国であった共和国軍を、オレは助けたことがあった。

あれ以来、共和国の上層部から多大な贈り物も頂いていた。

ここだけの話、水面下で共和国軍への登用の誘いもあった。

そのくらいに共和国の元老院の連中から、オレは好意を持たれていたのだ。

「だが帝国の連中は、そうはいかないぞ? 長年の敵国だからな?」

「その心配もありませんよ。知っての通りかの皇帝は、あなたのことを大のお気に入りでした。それとオードル傭兵団のことを知っていますか?」

「オレの元部下か? アイツ等がどうした?」

エリザベスの話では、オードル傭兵団は今、帝国に雇われているという。アイツ等がどうしたのであろうか。

「ここ一年ちょっとの間、彼らは帝国各地の戦で、多大な戦果を上げてきました。今では帝国軍の中でも二大勢力と言われる規模まで成長しているのですよ?」

「あの帝国軍の中で、アイツ等が頭角を現していただと? まぁ、それも有りえなくないな……」

自分でも言うのも何だが、オードル傭兵団は最強の傭兵団だった。

傭兵として旅していたオレが、大陸各地の荒くれ者から選び抜いた猛者ぞろい。

一兵卒でも普通の騎士以上の武力がある。

その中でも特に八人の大隊長たち別格。大陸でも屈指の腕を持つ戦士集団たちなのだ。

「そうか、アイツ等も出世していたんだな」

「戦鬼オードルが生きていたと聞けば、そんな彼らも必ず駆けつけます! そうなれば王国は数日の内に。オードルさんの支配下におかれるでしょう! そしてエリザベスさんを妻に 娶(めと) れば、王家の血筋的に問題はありません! むしろ最強の国王の血が、後世の受け継がれていくのですから!」

フィナーレの演奏に乗って、ガラハッドの興奮も最高潮に到達していた。まるで道化師の様に、自分の書いた物語を語り続ける。

「ちなみにお前は、その時はどうするのだ、ガラハッド?」

「私はもちろん近衛騎士の一人として、挙兵した戦鬼オードルに挑みます! いえ、最強となったオードル傭兵団を率いるオードルさんに向かって単騎で突撃していきます! そして私は本望を成し遂げて散るのです!」

ガラハッドは 恍惚(こうこつ) な表情で空を仰ぐ。

自分の描いた妄想の中に酔い落ちていた。

おそらく最高の戦い舞台で散る自分を想像して、剣士として夢を叶えているのであろう。

(やれやれ、面白い話だったな。だが……)

ガラハッドの策は実のところ理にかなっていた。

オレが挙兵して国王になれば、チャールズの問題も解決できる。

身体の弱いあの少年を、家族の元に返してやれるであろう。

(それに国の不安定か……マリアの今後の勉強のために解決しないとな)

愚王ルイのお蔭で、今の王国内部は滅茶苦茶になっていた。

王都の上位学園も、いつどうなるか予想でも出来ない。

誰かが国王を打倒して大改革しないと、このままで王国の存在そのものが怪しくなるのだ。

もしもオレが国王の座を奪い取れば、マリアの勉強の問題も解決できるであろう。

(政治的な問題は、レイモンド公爵が解決してくれるであろう。オレは国王として隣国との先頭に立っていけば、王国も今より安定していくであろう)

近くで接してみて分かったが、レイモンド公爵はかなり有能な男。エリザベスの件を含めて協力はしてくれるであろう。

(あとリリィにも陽の目に出してやることが出来るな……)

オレが国王になれば、リリィを再び表舞台に出すことも出来る。

今は身分を隠しながら市民街で暮らしている。その心配もなくなるのだ。

(もしかしたら家族のためも、オレが決断するべきなのか?)

一年前からオレは誰にも干渉せずに、静かに暮らしてきた。

だが、そのお蔭で不便な点も家族に強いらせらいた。

誰かのために、今こそ立ち上がるタイミングなのかもしれない。

「ふふふ……オードルさんの、その顔……悪くないですね。もしや挙兵する気になりましたか?」

「悪くない策だっただが、今は波風を起こす時期ではない」

だが今は動く時でない。

革命はタイミングことが大事。今の王国に大きな有事でも起こらない限り、オレの挙兵の話はあり得ないのだ。

「さて、とりあえず舞踏会も終わりそうだから、妄想話も終わりだ」

いつの間にか舞踏会の最後の曲も終了していた。

ルーオド・イシュタルとして役割も、これで終わったのだ。

「それは残念です。本当の楽しい一時でした。では、また次回に……」

不敵な笑みを残して、ガラハッドは去っていく。

あの男のことだからか、また何か策を考えてくるのであろう。油断は出来ない。

「さて、エリザベスでも迎えに行くか」

展望台の姉弟に視線を向ける。

エリザベスたちは舞踏会の終わりに、別れを惜しんでいた。

また策を考えて、姉弟を引き合わせてやりたいものだ。

オレは舞踏会の会場の中央へと進んでいく。

「国王陛下! 国王陛下はどちらにおられますか!」

その時である。

近衛騎士の一人が会場に駆け込んできた。舞踏会用の礼服も着ておらず、かなり急いだ様子だ。

「ワシはここにおるぞ! そんな無礼な格好で、どうしたのだ⁉」

せっかくの華麗な舞踏会のフィナーレを邪魔されて、国王は激怒していた。

「はっ! 緊急を要する報告にて、失礼します! 国家を揺るがす報告でございます!」

「なんじゃと⁉ 何が起きたのじゃ!」

「はっ! 国境警備隊からの連絡がありました! あの帝国軍がこれまでにない大軍で、我が領土に侵攻してこようとしています!」

まさかのタイミングだった。

こうして王国はかつてない危機に直面するのであった。