軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第72話:弟のために

ガラハッドが立ち去った後、オレたちは家に戻る。

エリザベスから事情を詳しく聞くためだ。

「チャールズは私のたった一人の弟なの……」

エリザベスの部屋で話を聞いていく。

マリアとニースは居間で、リリィに面倒を見てもらっている。

「でもチャールズは、生まれつき身体が弱くて……」

先ほどより少しだけ元気を取り戻し、エリザベスは話し始めてくれた。

自分の弟について。

「いつも弟はレイモンド公爵家の領内で、静かに暮らしているはず……それなの、なぜ王都の屋敷に……」

冷静に語りながらも、エリザベスは不安そうな顔をしている。

いつもの一直線で元気いっぱいな彼女には、珍しいまでの落ち込みよう。

それだけ仲がいい弟なのであろう。

「なるほど。話はわかった。エリザベス、弟が心配か?」

「私はオードルを追いかけて、レイモンド家を捨て身。家や家族がどうなろうとも気にしないわ。……でも正直なところ、チャールズだけは心配かも……」

エリザベスは17歳でチャールズは9歳。

年が離れて身体の弱い弟は、姉にとっても特別な存在なのであろう。

「とにかくチャールズの身が心配だわ。よし!」

話をして気持ちが落ち着いたのであろう。何かを決意してエリザベスは立ち上がる。

「今から王都のレイモンド家の屋敷に忍び込んでくるわ!」

王都の上級街には、王国に仕える貴族の屋敷が立ち並ぶ。その中には大貴族のレイモンド家の屋敷もある。

剣聖リッチモンドの先ほどの口ぶりでは、チャールズはその屋敷にいるのであろう。

今のエリザベスは家出して正式に入れない。

隠密で忍び込んで、弟の安否を確かめるつもりなのだ。

「潜入か。止めておけ、エリザベス」

「どうして、オードル⁉ 自分の家の屋敷に忍び込むのだから、なんの問題ないわ?」

「簡単だからさ。逆に相手の思うつぼだ」

先ほどのガラハッドの口調では、チャールズは何か大きな陰謀に巻き込まれようとしていた。

非公式にエリザベスは潜入しても、問題の解決にはならないであろう。

つまり弟を助けるために、原因の根本を断つ必要がある。

それも表立って。

「そ、そんなの私にも分かっているわ。でも今の私は家を捨てた身……表立ってはチャールズを助けられないわ……」

猪突猛進なエリザベスだが、こう見えて元公爵の一人。

面倒くさい貴族の世界のことを、十分に承知していた。

だからこそ何も出来ない、今の自分の不甲斐なさを嘆いているのだ。

「それなら簡単だ、エリザベス。お前がちゃんと“家”に戻ればいい」

公にはエリザベスは自領で療養中になっている。家名を汚すのを恐れて、家出のことは秘匿とされているのだ。

だからエリザベスは大手を振って、レイモンド家に入ることができるであろう。

「えっ⁉ でも、そんなことをしたら、私は……」

「弟の問題を片付けたら、また家を出たらいい。今度はちゃんと親に挨拶もしてこい」

1年前、エリザベスは置き手紙一枚だけで、家出をしてきた。

もしもオレが父親の立場だったら、悲しみに打ちひしがれるであろう。

将来マリアが同じように家出をしたら、オレはショック死をする自信がある。

だからエリザベスにはちゃんとして欲しい。

どんなにお転婆で手のかかる娘でも、エリザベスはまだ若い。

出来れば父親であるレイモンド公爵には、ちゃんと顔を合わせて話をしてももらいたいのだ。

「うん……わかったわ。今度はちゃんとするわ」

父親とはあまり馬が合わないのであろう。

だが、しぶしぶあるがエリザベスは了承をしてくれる。

王都のレイモンド家の屋敷に正門から帰宅。弟チャールズの問題も含めて、自分の発つ跡も綺麗にすると誓う。

「でも、オードル。一つだけ不安なことがあるわ。レイモンド家の内部はかなり面倒なの……私一人だと、逆に拘束されてしまう危険性が大きいわ」

エリザベスが不安がるのも無理はない。

何しろ彼女は現国王の姪っ子。王位継承権も有するお姫様の一人なのだ。

一度家出した前科もあり信用度はゼロに等しい。

レイモンド家の誇る騎士団に囲まれたらどうにもならないであろう。下手したら軟禁状態になってしまう。

「そうだな。オレがお前の父親でも、手練れの見張りを何人も付ける。二度と家出をしないようにな」

「そんな……だったら、私はどうすれば?」

「その辺は心配ない。お前は帰宅の準備をでもしておけ。その身なりだと、娘だと信じてもらえないぞ?」

今のエリザベスはとても公爵令嬢には見えない外見。

髪の毛は一年前から放ったからしで、服も薄汚れた庶民の物。

バレないための偽装とはいえ、さすがにこれではスムーズに帰宅できないのであろう。

「そんなに私、公爵令嬢に見えなくなった?」

「ああ、見えないな。まずはダジルに頼んで、貴族令嬢の服を手配してもらおう。あとは髪の毛や肌の手入れは、専門の職人の所に行っておけ」

仲介屋のダジルは王都でも顔が広い。

剣にしか興味がないエリザベスのことも、ちゃんとコーディネートしてくれるであろう。

「分かった。何日かかけて、綺麗になっておくわ!」

剣にしか興味がないが、エリザベスも一応は年頃の乙女。気合いを入れて、女に磨きをかけていくことにした。

「お前の帰宅してからのサポートは、オレに考えがある。任せておけ」

「考えが……? とにかくオードルのことを信じているわ!」

これで作戦は決まった。

まずエリザベスには女を磨き直すことに専念してもらう。

彼女のサポートについては、オレに策がある。ここ数日で準備しておけば問題はない。

(さて、少しだけ忙しくなりそうだな……)

こうしてエリザベスが実家に戻る作戦が、スタートするのであった。

それから数日が経つ。

いよいよエリザベスが帰宅する日がやってきた。

「これ、どうかしら?」

ここ数日で、すっかり女の子らしく変身したドレス姿のエリザベスが、居間の皆の前に登場する。

「エリザベスお姉ちゃん、きれい!」

「かわいい……」

すっかり女の子らしく変身したエリザベスを見て、マリアとニースは感動の声をあげる。

小さな女の子にとって、歳上のお姉さんの変身は嬉しいのであろう。

二人とも目をキラキラさせていた。

「エリザベス様……本当にお綺麗です」

同じくリリィも嬉しそうに見ていた。

いつもは剣しか興味がないエリザベスの変身に、感動すらしている。

『ワン!ワン!』

急な変身で、最初は不審者だと思って吠えてしまったフェンも、今は褒め称えていた。

「そ、そうか? そんなに変わったか?」

家族みんなの視線を浴びながら、エリザベスは照れくさそうにしていた。

だが満更ではなさそうに、くるりとスカート一回転させてみせる。

髪の毛も前とは比べものにならないくらいにサラサラになり、光沢を放ち風になびいていた。

「いい感じに変身したな。それならレイモンド家の連中も通してくれるであろう」

オレの目から見てもバッチリだ。

むしろ、あまりにも女の子らしくなりすぎ気がする。

「じゃあ、エリザベスは数日、留守にする。あとのことは頼んだぞ、リリィ、フェン」

「はい、お任せください、オードル様」

『ワン!』

エリザベスはこれからレイモンド家に帰宅する。

弟の問題が解決するには、早くても数日はかかるであろう。

留守のマリアとニースのことは、リリィたちに任せておく。

何かあればダジルもすぐ隣に住んでいる。大丈夫であろう。

「えっ? オードルも留守にするの?」

話を聞いていたエリザベスは首を傾げる。

「ああ、そうだ。“従者”としてお前に付いていく」

「えっ⁉ レイモンド家にオードルも潜入を⁉」

「もちろんだ。さあ、いくぞ!」

こうしてオレとエリザベスは、レイモンド公爵家の屋敷に向かうのであった。