軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第57話:新たなる日常

ルーダの街から村へ戻ってから、2ヶ月が経つ。

オレたち一家は前と変わらず、村で平和に暮らしていた。

体力系担当のオレと女騎士エリザベスは、村の農作業や開墾作業に手伝う。

マリアも元気に村の友だちと遊び学んでいた。

新しい住人である聖女リリィも、村人に歓迎されていた。

村に一人だけいるパン職人に教わりながら、毎日のようにパンを焼いていた。

最後に白魔狼のフェン。

前と同じように村の周囲の 哨戒(しょうかい) を頑張っていた。

この2ヶ月間、みんなで一緒に村でゆっくりと過ごしているのだ。

そんな生活の中。

今日は朝早くから、エリザベスとフェンの三人で“ある場所”に挑んでいた。

場所は村から少し離れた深い森。その外れにある石造りの遺跡。

つまり三人で古代遺跡の探査に挑んでいたのだ。

ルーダの街から帰郷してから、オレは古代遺跡の探索を積極的に行っていた。

今回でもう数度目の遺跡探索となる。

目的は旧友リッチモンドのための古代品を探すこと。

あとはオレの腕が鈍らないようにするため。ついでにエリザベスとフェンの鍛錬も兼ねている。

「フェン、右だ!」

『わかったワン、エリザベス!』

今もちょうど、フェンとエリザベスが、巨大な獣と激戦を繰り広げている。

今回見守り役のオレは、手を出さない約束。

相手は鋭く尖った牙をもった、巨大な虎の魔獣…… 赤大虎(あかおおとら) だ。

こいつは炎のように真っ赤な体毛をもつ、森の強者である。

そんな赤大虎との戦いは激しく続いていた。

だがついに決着の時が来ようとしていた。

『よし! 捕えたワン!』

赤大虎の喉元を、フェンの鋭い犬歯が捕える。

何度もアタックして、ようやく掴んだ好機だ。

『エリザベス!』

「ああ、でかしたぞ、フェン!」

好機を逃す二人ではない。そのまま一気にエリザベスが斬りかかる。

鋭い斬撃で、首元を一刀両断。見事に赤大虎を倒したのだ。

頭部を失った赤大虎の胴体は、大きな音を立てて遺跡の床に倒れ落ちる。

『ナイスだワン、エリザベス!』

「フェンも見事な飛び込みだったぞ」

危険な魔獣との戦いを終えて、二人は勝利に深い息を吐く。

今まで戦いの疲れが、一気に込み上げてきたのだ。

(ん?)

そんな時、絶命したはずの赤大虎の前足が、ピクリと動く。

「油断するな、お前たち!」

監督していたオレは、エリザベスの槍で赤大虎の魔核を貫く。

これで完全に止めは刺した。

もう大丈夫であろう。

『なんと……まだ死んでいなかったのかワン⁉』

「凄まじい生命力だな」

赤大虎の生命力の強さに、二人も驚いていた。

何しろ首を切断しても、まだ攻撃を仕掛けようとしてきたのだ。

普通の獣では有り得ない生命力である。

「魔獣の中には、しぶとい個体もいる。覚えておけ、お前たち」

魔獣は普通の生き物とは違う 理(ことわり) の中で、存在している。

首を斬り落とそうが、心の臓を貫こうが油断はできない。

唯一の弱点である魔核を破壊するまでは、絶対に油断してはいけないのだ。

『わかったワン、オードル! 気をつけるワン!』

「私も肝に銘じておこう」

フェンとエリザベスは反省しながら、心に止めてくれた。

二人は戦闘の才能があるが、未熟な部分も多い。

だが他人のアドバイスを聞く、素直な心を持っている。

経験さえ積んでいけば、今後はもっと腕を上げていくであろう。

「さあ、魔獣を倒したことだし、遺跡に探索に行くぞ」

ここに来た本来の目的は、魔獣討伐が半分。

残りの半分は古代遺跡に探索が目的であった。

オレたち三人は、森の中の遺跡を調べていく。

『今回もお宝は無さそうだね、オードル』

先行して危険を探知してフェンが愚痴る。

見つかるのは古代に書かれた書物ばかり。金銀の財宝は皆無なのだ。

「そうだな。古代遺跡とは、そういうものだからな」

この大陸には今から昔に、栄えていた文明があった。

ほとんどの文明が失われているが、辛うじて残っているのが古代遺跡。

大陸の各地に残る遺跡の奥には、こうして古代書物が発見されることもあるのだ。

「古代遺跡というから最初はお宝を期待していたけど、残念ね、オードル」

エリザベスが落胆するように、古代遺跡からは財宝が発見されることは無い。

見つかるのは解読難解な書物だけなのだ。

「古代文明では金銀財宝は価値が無かったとされている。だから残っていない。まあ、これもリッチモンド受け売りだがな」

大陸各地の遺跡は、今でも手つかずに放置されている場所が多い。

理由は魔獣が巣くっている確率が高いからだ。

そのため一般人は発見しても近づくことはない。

また金目当ての傭兵や探索者も、遺跡を調査することは少ない。

何しろ魔獣に食い殺される危険に比べて、入手できるのは価値の少ない書物ばかり。

つまり古代遺跡を探索する者は、古代書コレクターだけなのだ。

「よし、ここにある古代書はこれで全部だな」

遺跡を一周して、探索は全て終わった。

一般的な遺跡には罠などは仕掛けられていない。魔獣さえ倒してしまえば、危険は少ないのだ。

「さあ、入り口に戻るぞ」

これ以上は内部に滞在する意味はない。オレたちは戻ることにした。

見つけた書物はエリザベスの愛馬に乗せておく。

書物はリッチモンドに寄付する予定。ある程度、数が溜まってからルーダの街に持っていく。

古代文明を研究している旧友にとっては、最高のプレゼントになるであろう。

「よし、あとは、この赤大虎もオレの荷台に積むぞ」

倒しておいた赤大虎は、血抜きだけはしておいた。

かなりの重量があるので馬では不可能。村までオレが引っ張っていく。

魔獣の素材は街に持っていけば、かなりの高額で買い取ってもらえる。

危険な遺跡探索の中でも、唯一の報奨金となるのだ。

まあ、それでも一般の探索者にとっては、命には釣り合わないが。

「さて、今回の魔核は、どうするかな……」

赤大虎の体内から、怪しげに光る宝玉を取り出す。

これは魔獣の生命エネルギの源である魔核。魔獣の強さに比例して大きさが違う。

魔核も街に持っていけば、商人や貴族に高額で買い取ってもらえる。

今回の炎大虎はまずまずの大きさ。

市場価格にして、大きな屋敷が買えるくらいの価値はあるであろう。

「私は金には興味がない。だから、フェンに譲っていいぞ、オードル」

今回の赤大虎は、エリザベスとフェンだけで倒した。

半分の所有権があるエリザベスは、辞退してくる。エリザベスはあまり金銭に興味がないのだ。

よし。それならフェンに食わせてやるか。

「フェン、口を開けてくれ」

『待ってましたワン!』

上位魔獣は、他の魔獣の魔核を食らうことができる。

白魔狼のフェンも同様。

口を大きく開けて、魔核を飲み込んでいく。

大きな魔核を飲み込んで、フェンはゲフッとゲップする。

この大きさを一気に飲み込みとは、相変わらず食いしん坊っぷりだな。

『うう……おお……』

しばらくしてからフェンに変化がある。

飲み込んだ魔核が、体内に吸収されたのだ。

前よりも強い力が、フェンの身体から感じられる。

これで白魔狼フェンは前よりもパワーアップしたのだ。

「さて、終わったらところで、村に帰るぞ。マリアとリリィが晩ご飯を作ってくれているはずだ」

マリアとリリィは戦闘力が低い。

だから古代遺跡の探索には二人は連れてきていない。

村の家で留守番をしてもらっているのだ。

『晩ご飯! 今日は何か、楽しみだワン!』

夕飯のことを聞いて、フェンは誰よりも早く駆けだす。

たった今、あんなに大きな魔核を食べたばかりなのに、何という食欲の強さ。

もしかしたら魔核と食欲は、別の体内器官なのかもしれない。

いつかリッチモンドに教えておいてやろう。学会で発表したら大発見になるかもしれない。

「それじゃ、私たちも行きましょう、オードル」

「ああ、そうだな」

魔獣の戦利品を持って、村に帰還。

これがここ2ヶ月のオレたちの日々の暮らし方であった。