軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第51話:剣聖ガラハッド

国王を説得するために、滞在する砦に潜入する。

何とか無事に目的の部屋に到着。

「そろそろ、出てきたらどうだ?」

だが直前で立ちはだかる者がいた。

「……いつから気がついていましたか? 完璧に気配は消していたはずですが?」

待ち伏せしていたのは“剣聖”ガラハッド。大陸でも屈指と名高い騎士だ。

隙のない動きで、オレの進行方向に立ちはだかる。

ガラハッドとは王都で面識がある。だが当時とはオレは風貌を変えて、今は仮面で顔の上半分を隠していた。正体はバレていないであろう。

「たしかに気配は無かった。たいしたものだ」

待ち伏せしていたガラハッドの隠密術は、たしかに完璧だった。

オレですら微かに違和感があったくらい。誰かがいた確証は、まるで無かった。

「だが“勘”で分かった」

「“勘”ですか?」

「ああ、勘だ。戦場では一番信用できる」

オレは神や奇跡は信用しない。だが自分の勘や直感は、信じるようにしていた。

経験的に自分を守ってきてくれた、神より有りがたい相棒だ。

「なるほどです。それは勉強になりますね」

ガラハッドは口元に笑みを浮べる。屋上のかがり火を受けて浮かぶ笑みは、怪しげな自信にも満ちていた。

この男はたしか30代くらい。端正な顔だちと丁寧な口調で、同年代のオレよりも若く見える。

「ところで、そこをどいてくれないか? その先にいる国王に話があるだけだ」

ガラハッドとの間合いは十分にとっている。だが、この騎士の踏み込みは、神速の域を越えていた。

とにかく自分に敵意がないことを伝える。

「ふふふ……面白い方ですね? 怪しげな民族仮面で顔を隠して、こんな夜遅くに国王が滞在する砦に侵入。それで敵意がないと言い張るとは?」

「この仮面は……趣味だ。気にするな」

もちろんオレにそんな趣味はない。仮面は正体を隠すための保険だ。

「なるほど趣味ときましたか。本当に面白い方だ。たしかに武器は何も持っていないので、敵意はなさそうですが?」

「ああ、そうだ。話し合いに武器は必要ないからな」

今のオレは非武装。今回は潜入と説得がメインなので、武器は必要ないのだ。

「なるほど。大陸でも屈指の国力を持つ王国。その君主たる国王が滞在する砦に、そのように素手で侵入してしまうとは……本当に面白い方だ」

「オレは面白くも何ともない男だ。さて、そこを通してもらおうか?」

「時間はまだ少しありますよね? 少しだけ私の話を聞いてくれませんか? 聞いてくれたら通しても構いません」

「なんだと? ああ、少しだけならな」

ここは砦の屋上。ひと気はなく、他の警備兵には気がつかれていない。時間は少しだけならある。

それにガラハッドからは殺気は感じられない。

相手の意図は分からないが、少しだけのっておこう。強行突破は最終手段だ。

「ありがとうございます。ではお話を少しだけ。実はここだけの話、あの国王の命を守ることに、私は興味ありません」

「王国の騎士なのにか?」

意外すぎる言葉であった。

何しろ近衛騎士団とは、君主を警衛する直属の部隊。その団長たる男が、国王の命に興味がないだと?

「はい。近衛騎士団の団長の誘いを受けて、今宵ここを警備していたのも、“ある目的”のためです」

「ある目的だと?」

その部分だけガラハッドは強調している。何やら嫌な予感がして聞き返す。

「はい。“戦鬼”と呼ばれる方に、再び会うためです。あの国王の側にいたら、必ず再会できると予想していたのです」

「戦鬼……だと? 1年以上前の王都の火事で、死んだと聞いていたが?」

オレは嘘を付くのは得意ではない。だが『戦鬼死亡』の噂が流れていることは事実。

だから嘘は言っていない。ポーカーフェイスで会話を続けていく。

「ええ、たしかに。私は焼死体も見ましたが、たしかに体格的に戦鬼とそっくりでした……」

オレの焼死体は、国王が用意した替え玉。王都の墓から似た体格の骨を用意したのであろう。

それにしても、この騎士はわざわざ確認したのであろうか。なぜ、そこまでオレの生死に固執しているのか。

とにかく話を聞いて意図を確かめよう。

「ここ1年近く戦鬼の姿を戦場で見た者はいません。あの戦狂の男からしたら考えられないことです……」

戦狂とは失礼な言い方だな。

だが、間違いではないかもしれない。たしかに以前のオレは常に戦場に立っていた。こうして1年近くも平時にいるのは、生まれて初めてかもしれない。

「そこで私は推測しました。『もしかしたら戦鬼は王国の上の者……国王に消されたのでは? そして難なく生き残って、どこかに身を隠して、復讐の機会を狙っているのでは?』と……」

ガラハッドは目を細めて話を続けていく。その口調はやや演技かかっているが、本気の言葉である。

「そこで私は近衛騎士団長の任を引き受けました。国王の命を狙う者に会うために。ですが、ここ1年で王城に侵入してきたのは雑魚ばかり。私の待ち望んだ戦鬼は来ませんでした」

「戦鬼と呼ばれた男は、本当に死んだのだろうな。予想は的外れだったんだろうな」

なるほど。この男が近衛騎士団長の任を引き受けた謎が解けた。

それにしてもオレが国王を暗殺するだと? そんなことは考えたこともなかった。

確かに屋敷に火をかけられて、粛清されかけた。だが、あの程度の夜襲は、オレにとっては小さな事件。特に国王に対して恨みはない。

むしろ、今はこうして自由の身になれたことに、感謝すらしている。まあ、だからと言って、あの国王は好きではないが。

「さて、お前の昔話を聞いてやるのは、ここまでだ。国王の警備に興味がないのなら、そこを通してもらうぞ」

これ以上時間をここで取られるのは愚策。早く国王に面会して、説得を済ませたい。

ガラハッドにゆっくりと近づいていく。

「ええ、長話を聞いてもらいありがとうございます。では、約束の通りに、ここをお通り下さい」

ガラハッドは本当に道を譲ってきた。その道に先には国王が滞在する部屋がある。

「ああ、通らせてもらうぞ」

無防備なガラハッドの横を、オレはゆっくりと素通りしていく。

相手は剣を腰に刺したままの状態。対するこちらは非武装。

はたから見ていたら、すれ違う二人の日常の光景であろう。

「じゃあな」

「はい、お気をつけて」

オレはそのまま塔の階段に足を踏み入れる。

ここまで来たなら、ガラハッドの間合いの外。

今、背中から斬りかかってきても、オレは塔の内部へと逃げ込むことが出来る。安全圏内。

つまり正体がバレることなく、オレは無事に突破を出来たのだ。

「ふう……ん?」

階段を降りながら、軽く息を吐いた瞬間である。

(これは⁉9

目の前に強烈な殺気が飛んできた。

「ちっ⁉」

殺気と同時に、鋭い剣先が目の前に現れる。オレは寸前のところで回避する。

「ここで待ち伏せだと⁉」

油断をしていた訳ではない。

相手の気配を消す技術が完璧すぎたのだ。

「 覇(は) っ!」

回避したオレは、後方に飛び下がる。

先ほどの屋上に一気に離脱。相手の追撃に備える。

(それにしても、今の攻撃は……?)

後方のガラハッドに注意がいっていたとはいえ、奇襲を受けてしまった。

階段に潜んでいた相手も、かなりの使い手なのであろう。先ほどのガラハッド並の強者なのであろう。

あの剣聖と同レベル剣士……いったい何者なのだ?

「……見事な回避ですね。さすがです」

前方の階段から襲撃者が、ゆっくりと姿を現す。相手は丁寧な口調の騎士であった。

「お前は……まさか……」

相手の声と顔に覚えがある。まさかの事実に自分の目を疑う。

「ガラハッド……だと?」

信じられない事実。

何しろ先ほどまで後ろにいた男が、一瞬にして前方で待ち伏せしていた。

先回りする道など、どこにもなかったはずなのに? いったい、どうやって移動したというのだ?

「改めて、こんにちは……オードルさん。いえ、戦鬼オードル」

砦の内部から出てきたガラハッドは、先ほどと表情を変えていた。

剣先についた血を舐めながら、不敵な笑みを浮べている。

それはオレの血。

ちっ……完全に回避したはずが、首を薄皮一枚斬られていたのだ。なんという剣速のすさまじさ。

「ようやく、あなたの再会できましたよ……戦鬼オードル……」

こうして危険な裏の顔を持つ、剣聖との戦いが始まるのであった。