軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第3話:娘ができた

“娘”

意味:親にとって、女の子供。

“パパ”

意味:子供が自分の父親に対して使う呼び方。

幼女を助けたその足で、故郷の村の門をくぐった。

「これはどういうことだ、村長⁉」

最初に向かったのは村長の家であった。

オレのことを『パパ』と呼ぶ幼女を一緒に連れて、事情を聞きにいったのだ。

「おお、オードル。久しぶりじゃのう? 相変わらず大きな声じゃのう」

「ああ、久しぶりだな、ジイさん……いや、そうじゃなくて、この子どもは村の誰の子だ?」

ジイさんは村長の愛称。

60歳を過ぎた年長者の村長に、オレは思わず詰め寄る。

この幼女は誰に子だと?

オレのことを「パパ」と呼ばせた、これは何かの冗談か、悪戯なのかと?

「はて、オードル? 何のことじゃ? その子はうちの村の子じゃないぞ?」

村長は幼女のことを知らなかった。

この小さい村には、三百人ちょっとしか住んでいない。

その内で小さな子どもは数十人。

全村人の顔と名前を、村長は覚えている。間違いない。

「それじゃ、この 子供(ガキ) は、村の子どもじゃないのか?」

冷静に考えたら、村ぐるみの悪戯でもないであろう。

何しろオレが5年ぶりに帰郷したのは、偶然のこと。

事前に察知して、この幼女を用意しておくことは不可能に近い。

「それなら、ジイさん。こいつは近隣の村から、ここに迷い込んできた子か?」

「一番近い村でも、大人の足で二日かかるぞ、オードル?」

「ああ、そうだったな」

獣が多い村境の山を、幼子が一人で越えてくるのは不可能。

それならこの子は、いったい誰の子なんだ?

そしてどこから迷い込んできたのだ?

謎がますます深まる。

「それからオードル。子どもはそのように……“猫を持つ”ように、抱くものではないぞ?」

狼から助けた幼女のことを、オレはここまで“首根っこ”を掴んで、運んできている。

もちろん窒息死しないように、服を上手く掴んできていた。

人体の急所には詳しく、その辺は抜かりない。

「んっ? 子どもはこうやって抱くものではないのか?」

だが村長は違うと指摘してくる。

では、どうやって抱いて運ぶのが、普通なのであろうか?

「オードル。とりあえず、その子を降ろして、直接話を聞いてみたらどうじゃ?」

「そうだな、ジイさん。仕方がない……はあ……」

子どもから直接聞く……できれば取りたくなかった手段である。

だが仕方がない。

オレは幼女を床に下して、ため息をつく。

ひと呼吸おいて尋ねる。

「お前、名はなんだ? どこから来た? 誰の子だ? どうやって来た?」

なるべく声を抑えて、優しい言葉で少女に質問する。

この声量なら大丈夫か?

「オギャー! オギャー!」

「うわーん! 怖いよー!」

だがダメだった。

他の聞いていた 子供(ガキ) たちが泣き出す。

ちっ、こいつら最悪なタイミングで戻ってきたな。

外から帰宅してきたらの村長の孫たちが、一斉に急に騒ぎ出したのだ。

オレの剛声を急に聴いて、泣き出したのである。

(ちっ、これだから 子供(ガキ) は困る……)

戦鬼と呼ばれたオレの、豪声は半端ない。

覇気をのせて全力で発声したものなら、ガラスすら破壊する威力がある。

戦場で聞いた敵軍は、それだけ士気を崩壊させる効果もあるのだ。

こうして覇気を抑えて出しても、子どもなら泣き出してしまう。

ちっ……だからオレは昔から 子供(ガキ) が苦手だった。

どんなに優しい顔をして、優しい言葉でも、オレの前に立つ子どもは、全員泣いてしまうのだ。

案の定、幼女も泣き叫んでいるであろう?

「わたしの名まえ、マリア! 5さい! パパは、オードルだよ!」

驚いた……。

幼女だけは泣き叫んでいなかった。

むしろ笑顔で答えてきたのだ。

「お、お前……オレの声と顔が怖くないのか……?」

まさかの反応が信じられなかった。

今までオレの声をこの距離で向けられて、泣きださなかった子どもは一人もいない。

だが幼女は何でもないように、ケロリとした表情をしているのだ。

「パパのこえ、大きいの、ママから聞いてた。だからマリア、だいじょうぶなの! パパのこえ、やさしい! かおも好き!」

なんと……そんなものなのか?

いや……そんなはずはない。

現に村長の孫どもは、未だにオレの声に慣れていない。

戦鬼の強面と豪声は、そういうレベルではないのだ。

いや、その前に待て?

今なんてって言った?

「ママだと? お前のママは誰だ? 名は? 今どこにいる?」

少女の言葉の中に、“ママ”という単語が出てきた。

当たり前だが、子どもは一人ではできない。

男女の関係があって初めて誕生するのだ。

そのぐらいは傭兵のオレでも知っている。

こいつを置いていった、母親の居場所を尋ねる。

「ママはママだよ! ママ、今は……いそがしくて、どこかにいったよ! だからマリア、パパの村にきたの!」

ママの名がママだと。

話がまるで通じてないのか?

それに忙しくて、どこかに去っただと。

こいつは嘘を言っているのか?

思わず興奮してしまう。

「オードル、その子は本当のことしか言っていないようじゃのう? 母親はお前を頼って、その子をこの村の前に置いていったんじゃないか?」

「なんだと、ジイさん? だが一理あるな」

さすがは年の功の村長である。

冷静さを失っていたオレよりも、論理な推測を出してきた。

なるほど。

それなら先ほどよりも納得がいく。

「だが村長。オレに娘などいないぞ?」

残念ながら村長の推測には、致命的な欠陥がある。

それは独身のオレには、妻がいなければ、5歳の女の子どももいないことだ。

王都の館には、一人で住んでいたのだ。

だからオレには娘は今までいない。

「だがオードルよ。オヌシも男じゃ。女は抱いたことはあるんじゃろ?」

「ああ、ジイさん。オレも男だからな」

傭兵稼業に女……娼婦や愛人などは付き物であった。

部下たちの中には稼いだ金の多くを、懇意にする娼婦に貢いでいた者も多い。

オレは大きな戦いの後だけに限定して、高ぶった魂を抑えるために女を抱いていた。

まあ、自分の場合はプロの娼婦ではなく、その時に酒場で意気投合した女が多かったが。

何しろ戦鬼の名は伊達ではない。

向こうから言いよってくる、町娘も少なくはないのだ。

だが娘がいることと、女を抱いた経験は、どういう関係があるのだ?

「まさか……知らんかったのか、オードル? 男に抱かれれば、女は腹に子を成すこともあるんじゃぞ?」

「なんだと、ジイさん⁉ だが抱いた翌朝に、腹が大きくなった女はいなかったぞ?」

オレとて 子供(ガキ) ではない。

腹が大きくなった大人の女だけが、子どもを産む……そのくらいの常識は知っている。

だからオレには娘などいないと、先ほどから断定していたのだ。

「相変わらず、女子のことに関しては、鈍いというか、無垢というか……知らんのか、オードル? 子は十月十日かかけて、母親の腹の中で、ゆっくり成長していくのだぞ?」

「なん……だと……?」

衝撃的な事実だった。

今までの人生の中で、最上位に入るほどの衝撃だった。

そんな風に子は生まれるのか?

女を抱いた翌朝に、子どもは『オギャー!』と生まれるモノではなかったのか?

戦場でばかり剣を振っていた人生で、これ以上にないくらいに衝撃的な事実だった。

「だ、だが、ジイさん、この 子供(ガキ) がオレの実の子である証拠は、どこにもないぞ⁉」

実際、王都の貴族には、子を名乗る詐欺が後を絶たない。

金目的の詐欺行為なのだが、証拠を見つけて確定するまで、かなり難儀する問題だ。

この 子供(ガキ) が一方的に『パパ!』と言っているだけ。

オレの子である証拠はどこにもない。

「この子の髪の色は、お前さんと同じ“ 銀艶(シルバー・シルク) 色”じゃぞ」

「あっ……それは……」

決定的な証拠であった。

オレの髪の毛の色は、大陸でも特殊な 銀艶(シルバー・シルク) 色である。

今まで全く同じ色の髪の毛の奴は、一人も見たこともない。

オレ自身は捨て子なので、自分の親のことは知らない。

だが恐らく家族だけは同じ髪の毛の色。

つまり、この 子供(ガキ) が……この幼女が実の娘である、確たる証拠なのだ。

(なんだと……このオレに…… 子供(ガキ) が……)

その事実に、目の前が真っ暗になる。

「マリアのかみ、パパとおそろい! うれしい!」

そんな悲痛なオレの心中も知らず、幼女は無邪気に笑っていた。

嬉しそうな笑顔で、自分の髪の毛を見せてくる。

「どうする、オードル? その子は我が家で育ててやることもできるぞ?」

妻や女衆がいない家の幼児を、この村では全体で育てる風習がある。

村長は男一人のオレのことを心配して、親切心で提案してきたのだ。

「この 子供(ガキ) は、たぶんオレの子どもだろう。だからオレが責任をもって育てる」

村長の提案を断る。

何故ならオレは戦鬼オードル。

部下たちには、いつも言い聞かせていた。

『好きな女と家族のために、戦士は男として責任は必ずとれ!』と。

その言葉を自分が破るわけにいかない。

これは男としての意地……自分自身の存在意義なのだ。

「まあ、お前さんなら、そう言うとおもったぞ。困ったことがあれば、いつでもワシに相談しろ」

「ああ、そうする、ジイさん……」

5歳の女の子の育て方など習ったことがない。

分からないことばかりである。

だが今は、とにかく落ち着く場所に移動したい。

幸いにも村にはオレの家がある。

そこに移動して、今後の生活について考えていこう。

「じゃあ、いくぞ、お前」

「マリアの名まえは、マリアだよ?」

くっ……そんな真っ直ぐな瞳で見つめてくるな。

オレが悪かった。

「じゃあ、いくぞ……マリア」

「うん、わかった、パパ! あと、手をつないで、いい?」

「勝手にしろ……くそっ……」

こうして戦鬼と恐れられていたオレは、幼い娘と暮らすことになった。