軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バーベンベルク公爵家の屋敷へ

王都に構える邸宅の中でも、一、二を争う 豪壮(ごうそう) とした屋敷。

私の実家もそこそこ大きいが、バーベンベルク公爵家の屋敷はそれ以上だった。

庭は広大で、馬が自由に走り回れそうなほどの規模である。美しい秋の花々が咲いていて、見て回るだけでもあっという間に一日が終わってしまいそうだ。

建物の外面(ファサード) は黒レンガで造られた堅牢な印象があり、竜騎士の家にふわさしい要塞みたいな屋敷だ。

これまで遠目で見るしかなかったバーベンベルク公爵家に足を踏み入れるなんて。

なんとも不思議な気分でいる。

「その、よく父君がリウドルフィング公爵の娘たる私の訪問を、許してくれたな」

「話していない」

「え?」

「父に言えば難色を示すと思って、何も言わなかった」

「大丈夫なのか?」

「俺はもう十九になる。子どもじゃないんだから、いちいち許可なんて取る必要はないだろう。心配するな」

まさか許可を取っていなかったなんて。

ご両親がいないという話は聞いていたものの、私がやってくるという連絡はしていると思っていたのだ。

ヴィルオルが問題ないなんて言っているが、選り好みした友人ならばその言い分もまかり通るだろう。けれどもそれが私に通用するとはとても思えなかった。

「今からでも遅くない。父君に、伝書ミミズクを送るといい」

「ミミズクは夜行性だから無理だろう」

「そうだ、そうだった!」

手紙を届けてもらったときは「なぜミミズクなのか」、なんてのんきに思っていたが、普通の鳥は夜間飛行が難しいからだったようだ。

「とにかく、大丈夫だから気にするな! いいな!」

「わかった」

ここまでヴィルオルが言うのだから、信じるほかないのだろう。

屋敷のエントランスホールには大勢の使用人が出迎え、白髪頭に髭を蓄えた燕尾服姿をした、執事らしい男性が一歩前に出る。

「おかえりなさいませ、ヴィルオル坊ちゃま」

「坊ちゃま……?」

つられて復唱してしまうと、ヴィルオルの頬がほんの少しだけ赤く染まったように見えた。

「おい、変な呼び方をするな」

「申し訳ありませんでした、ヴィルオル様」

お茶目な執事なのだろうか。彼だけでなく、他の使用人もヴィルオルへ慈愛に満ちた眼差しを向けているように思える。

彼は他の貴族男性と比べて厳格でないというか、ありのまま素直に生きているように思っていた。その理由は、暖かな使用人達の中で育ったからだということがわかる。なんとも気やすいやりとりだった。

「本日は素敵なお嬢さんをお連れで」

「いいか、父上には言うなよ」

「わかっておりますよ」

続けて出てきた年若い男性使用人が、銀盆に載った本を差しだしてくる。

「ヴィルオル様、ご依頼のあった本〝秘術・竜魔法〟ですが、魔法使いに分析を頼んだところ、異常なしとのことです」

「わかった。その本は俺が預かろう」

「承知しました」

クラブ舎にあった本に何か仕掛けがあったわけではないという。

ヴィルオルは本を表、裏と返しつつ、怪訝な眼差しを向けていた。

「お達しのあった本も、客間に用意しております」

「ご苦労だった」

すぐに調べられるよう、用意していたようだ。

執事の先導で客間まで行くと、山のように本が積み上がっていた。

入った途端、メイドが紅茶とお菓子を運んできて、円卓の上に置いてくれる。

「では、わたくし共は一切邪魔しませんので、どうかごゆっくり」

「何か含みがあるような言い方をするな! ただ調べ物をするばかりだ!」

「わかっておりますとも」

「わかってない! 絶対に!」

執事とメイドは一礼すると去って行った。

なんというか、我が家の言葉が少ない執事とは大違いだな、と思ってしまう。

どちらがいいか、というのは仕える人によって違うのだろう。

「執事が失礼をした」

「いやいや、楽しいお方だ」

「そう思うのはお前だけだろう」

ヴィルオルは「はーーーーー」と深く長いため息を吐くと、テーブルに置かれは本を手に取る。ぱらぱらとページをめくるも、変化はなし。

「どうだ、読めるか?」

「読めるな」

数十冊と中身を確認したものの、どれも普通に読むことができた。

「では、こちらは?」

ヴィルオルが〝秘術・竜魔法〟を開いて見せてくる。

「白紙だ」

「やはりこの本だけがおかしいのか」

皆、読むことができるのに、私だけが読めないでいる。

そして、ヴィルオル自身にも異常があった。

いったいどういうことなのだろうか。

「普通の魔法使いではわからない領域なのかもしれない」

「ならばもっと上位の魔法使いに依頼するしかないのか」

「一応、竜族の中でも優秀な魔法使いに頼んだんだがな」

「それは申し訳なかった」

「いや、魔法についてはリウドルフィング公爵家のほうが詳しいだろうから」

もっとも魔法に詳しいリウドルフィング公爵家の者――思い当たる人物が一名だけ存在する。

「リウドルフィング公爵家の始祖たるエルフなんだが」

「なっ、生きているのか!?」

「ああ」

エルフは長命種だが、始祖はずば抜けて長生きらしい。

「父しか居場所を知らないので、会ったことはないのだが」

「会えるのか?」

「わからない。ダメ元で頼んでみよう」

これまで散々父に反抗してきたので、頼みを聞いてもらえない可能性があるが。

父の良心に賭けるしかなかった。