軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

父の英才教育

邪竜との戦いで死んだ私の体が、赤子になっている!?

にわかには信じがたい話だったものの、自由にならず泣くだけの体が真実だと教えてくれた。

母は出産後、肥立ちが悪かったようで、授乳すらままならないような状態だったらしい。

そんな母に父は「日々の鍛錬が足りないからだ!」などと、耳を疑うような発言をしている。

何を言っているんだ! と抗議したかったのに、ぎゃあぎゃあと泣きわめくことしかできない自分がふがいない。

無神経な父の被害者は私だけではなかったようだ。

「ユークリッド、いいぞ! 男らしく泣いて、肺活量を育てるのだ!」

そんなことを言いながら抱き上げてきたので、父の顎を蹴り上げる。

「ははは! 元気いっぱいだな! いいぞ!」

父に何かすればするほど、喜ばせてしまう。

大人しくしていたほうが精神的なダメージを与えられるのか。

時間が巻き戻る前、私はこの常識外れの父から男として育てられたのだ。

「今日は贈り物があるんだ! 名匠が打った剣だぞ!」

父はそう言って、私の隣に剣を並べる。

どこの世界に、生まれたばかりの赤子と剣を並べて寝かせる親がいるというのか。

「立ち上がれるようになったらこの剣を握って、修行に励め! そしてゆくゆくは、立派な魔法騎士になるんだぞ!」

父は毎日「お前は男の中の男だからな!」と言ってくる。

母は父に何を言っても無駄だと思っているのか、物申すことはない。

誰か父の暴走を止めてほしかったが、意見する者などおらず……。

娘を息子として育てるなんて、酷い話としか言いようがないのに。

どうしてそのようなことをしたのかと言うと、リウドルフィング公爵家の政敵であるバーベンベルク公爵家に跡取りが誕生したからだ。

私が生まれるより三ヶ月も前に、ヴィルオルが生まれた。

それを父はとてつもなく悔しく思っていて、リウドルフィング公爵家にも立派な跡取りができたと言いたくてたまらなかったらしい。

リウドルフィング公爵である父と、バーベンベルク公爵であるヴィルオルの父親は生まれたときからのライバル同士で、事あるごとに敵対視していたという。

双方の当主となった者が互いにいがみ合い、敵意を剥き出しにするのは父親の代だけの話ではない。

妖精族の末裔であるリウドルフィング公爵と、竜族の末裔であるバーベンベルク公爵家は、競うようにして発展してきたようだ。

リウドルフィング公爵家は〝盾の一族〟。国を守護し、平和な治安をもたらすのが仕事だ。

それなのに、国の脅威と戦う〝剣の一族〟であるバーベンベルク公爵家に張り合った結果、剣を握り、魔法騎士として在るようになったのだ。

魔法だけ極めていればいいものの……。

ご先祖様も呆れていることだろう。

父の暴走は日に日に酷くなっていく。

――ユークリッド、甲冑を買ってきたぞ!

――ユークリッド、仔馬を買ったぞ!

――ユークリッド、剣の師範を連れてきたぞ!

本来であればふわふわしたものだけが集められるはずの子ども部屋には、ごつごつした厳つい武器や防具ばかりが集められていた。

父は私を一人前の男に育てるための外堀をどんどん埋めていっている。

乳母の顔は盛大に引きつっていたものの、父が気付くわけもなく。

私と男として育てる計画はどんどん進められていった。

一度目の人生のときは、物心つく前より父の偏った考えがおかしなものであると疑うこともなく、素直に育った。

女であることを隠し、男装するのも当然の義務だ、とまで思っていたのだ。

すべてはリウドルフィング公爵家の繁栄のため!

そう信じて疑わなかったのである。

でも、今ならわかる。

私が信じて生きてきた道は、大きく間違っていた。

というのも、私が生まれた五年後に弟ディルクが生まれる。

つまり、父が私に実行した跡取り大作戦は、しなくてもよかったことなのだ。

ただ、弟が生まれた頃には私の英才教育が進んでいた上に、長男ユークリッドの名は広く知れ渡っていたため、中断することができなかったのである。

そこで止めなかったために、私は弟の役割を奪ってしまった。

弟にも 予備(スペア) としての跡取り教育が施されたものの、父が事あるごとに私と比べるのがよくなかったのか。弟は非行に走り、家にも帰らなくなってしまった。

つまり、私が男として生きたら、弟の人生までも棒に振ってしまう。

もう二度と間違わない。

私は女として、二回目の人生を生きるのだ。

歩けるようになると、父は嬉々としてオモチャの剣と盾を買ってきた。

「ほうら、ユークリッド、剣と盾だ! 大きくなったら、本物を手にすることができるんだぞ!」

父は私の手に剣と盾を無理矢理握らせる。

子ども用にと作った品で、とても軽い。

「おお! ユークリッド、よく似合っている! かっこいいぞ!」

何がかっこいい、だ。

剣をぎゅっと握りしめると。父が「いいぞ!」と囃し立てる。

――お前こそが、悪の根源!!

「だあああああああ!!」

気合いの叫びと共に手にしていた盾を父に投げつける。

「へぶっ!!」

思いのほか、ダメージを与えることができた。

続けて剣を振り上げる。

「だあ! だあ! だあああああああ!!」

倒れて悶絶する父の急所を、剣の柄で叩き込む。

「ぐはっ、ぎゃあ、や、やめ……」

「だーーーーーーー!!」

倒れ込むようにして最後の一撃を与えると、父は動かなくなった。

「ふう!」

悪は滅びた。

剣を捨てて額の汗を拭う。

なんとも気持ちのいい勝利となった。