軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

まだまだ1日目

時間としてはきっと10分位の出来事が、俺には二時間位に思えた長くて短い間の後に、王様が顔を上げて、

「アールスハイン、今まで気付いてやれずにすまなかった。お前には辛い思いをさせた、ケータ殿、アールスハインを救ってくれて感謝する!」

頭こそ下げなかったが、深い後悔と感謝の滲む声である。

「アールスハイン、頼りない母でご免なさい、貴方が無事でいてくれて本当に良かった。ケータ様、アールスハインを救ってくれて本当にありがとうございます!」

そう言ってまた泣き出した。

「父上、母上、私は辛い思い等しておりません、何時だってお二人に守られていた。ケータ殿、呪いを解いて下さり感謝します!」

こちらも涙の滲む声で、深く深く頭を下げて来る。

俺を抱っこしたままなのでちょっと間抜けだけど、気持ちは伝わった。

でもちょっと照れたので、

「よーかっちゃねーまほーちゅかえりゅよーなっちぇ(良かったねー、魔法使えるようになって)」

「?…………魔法?………使えるのか?俺が?」

信じられない!って顔で、自分の手を見るアールスハイン。

「使えるでしょうね、間違いなく!身体中を魔力が廻っているのを感じるでしょう?ハイン王子程の魔力量があればこそ、今日まで体の不調も無く魔力の消費のみで、呪いに抗っていられたのでしょう」

メガネ長官が太鼓判を押しに来た。

メガネ長官の話に、王妃様の涙が、滝のようになった。

このままでは、王妃様が干からびてしまいそう、と心配になる。

「失礼致します、ジュリアス陛下、皆様もお帰りになられた事ですし、場所を移されては如何でしょうか?」

現れたのは、グレーの髪をビシッとオールバックにした、姿勢正しい50代位のザ・執事って感じのおじさん。

腕の中で息も付けない程号泣する王妃様を見て、周りを見て、頷く王様。

「そうだな、場所を移そう、聖女殿とキャベンディッシュは各々の部屋へ、残った者はもう少し付き合ってくれ」

二股聖女と、キャベンディッシュには、それぞれにメイドさんが近付いて、ホールから連れ出されて行く。

残った者は、王様にゾロゾロとついて行く。

王妃様は、一旦別れる。化粧直しね。

着いた部屋は、豪華ではあるけど普通の部屋。

奥の上座に一人掛けのソファーが2つ、片方に王様が座る。

王様を横に、三人掛けにしては大きいソファーがテーブルを挟んで2つ並ぶ。

王様側の三人掛けに、頭の良さそうな、たぶん宰相的なおじさんと、将軍的なおじさんが座り、向かい側、奥に俺を抱っこしたアールスハイン、隣にメガネ長官。

初めはね、抵抗したのよ、膝から降りて、隣に座ろうとしたんだけど、降りようとモゾモゾしてたらトイレと勘違いされそうになって、諦めた。

トイレの世話までされそうなんだもの!

皆が座って落ち着くと、ザ・執事さんが各々の前に紅茶を配る。

俺の分はミルクティーに、クッキーまで付いている。

「ありぃとうじゃーましゅ!」

呂律がまわらないなりにお礼を言うと、ニッコリと笑ってくれる。

その笑顔に周りが物凄く驚いていて、将軍的なおじさんなんか、腰まで浮かして驚いている。

何事?

「お、おおおお前、そんな顔、出来るんだな!」

「…将軍、お茶が冷めますよ」

俺に向けたような、ニッコリ顔での返事にはならない返事をすると、将軍なおじさんは、シュタッと席に戻り、おとなしく紅茶を飲み出した。

何事?

ザ・執事最強説?

とふざけていたら、王妃様が来た。

王様の隣に座るとザ・執事さんがササッとお茶を出す。

「さて、皆に残ってもらったのは、聖女の事について、率直な意見を聞きたいと思ってな、」

「聖女様について、ですか?」

王妃様が尋ねると、王様は重々しく頷いて、

「知っている者もいるが、今回の聖女は、魔力測定で特出した結果も無く、そして、模様は判別不能とされた」

と告げると、宰相なおじさんと将軍なおじさんが、重々しく頷いた。

一人おいてけぼりの俺に、メガネ長官が説明してくれた。

「今までに現れた、聖女様と言われる存在は、全部で9人程おります。

そして異なる世界から御光臨と言う形で現れた聖女様は、今回含め4人目です。

聖女様方は、魔力量はそれぞれでしたが、模様の表れ方は、植物を主としてハッキリと色分けされたほぼ同じような表れ方をしていました。

そして、前お二人の異界より御光臨された聖女様は、虹の魔力量と極彩色の花の模様を出されております。

魔力測定の時に、ケータ様もご覧になったと思いますが、白色の帯がかかるのが、女神様にお力を与えられた者の証なのです。

全ての聖女様に共通するのが、魔力測定時に巻かれる白色の帯と、強い光属性の適性を中心とした魔力なのです。

ですが、今回の聖女様は、魔力量はそこそこ有るものの、模様は判別不能と、これはどう判断するべきか………」

「そう言う事だ。そして、歴代の聖女は全て慈悲深い性質、と文献には書かれてあったはず。

真実を確かめる事は出来ぬが、残された数々の功績を見れば、納得のいく性質だろう。

だが、今回の聖女のあの態度、我々は、果たして彼女に慈悲を請うて良いのだろうか」

王様が、二股聖女の態度を思い出したのか、頭を抱えてしまう。

深い溜め息は、誰がついたのか。

重い沈黙が続く。

その時、ババーーン!とドアを叩き開ける勢いで入ってきた男が、

「おお、父上、リィトリア母上、それに国の最重要人物がお揃いで、どんな悪巧みの相談ですかな?ガーハハハハっ!第一王子、イングリード只今戻りました!」

「おお、イングリード良く帰った!」

「イングリードお帰りなさい、怪我も無さそうで安心したわ」

「兄上!お帰りなさい」

突然の乱入者に、俺が固まっているうちに、それぞれが挨拶を交わしている。

濃い金髪に彫りの深い顔立ち、目の色は赤く、体格は………巨大筋肉。

将軍のおじさんよりも巨大で、なんと言うか、ハリウッドのアクションヒーローみたい。

ワンパンで相手を沈めて突き進む系。

あまりの大きさと存在感に圧倒されて、開いた口が塞がらない。

ボケーっと見てたら、巨大筋肉王子と目があった。

「な!ななななんと!アールスハイン!お前、いつの間に子供など作った!兄である私に何の相談もないとは、水臭いではないか!!」

わたわたと慌てる巨大筋肉王子に、皆が一斉に笑い出す。

「イングリード、ケータ殿はアールスハインの子などではない、そもそも、イングリードが辺境視察に向かったのは、3ヶ月前だろう、その間に子を作り産ませるなど、出来る筈がないだろう、取り敢えず、座って、落ち着け」

王様が、笑いながら宥め、周りも穏やかな空気になった、メガネ長官が向かいのソファーに移動し、巨大筋肉王子が隣に座る。

凝視される俺。

その巨大な肉体に合わせた、巨大な手で頭を撫でられる、力が強すぎて、頭どころか身体中が揺れる。

ちょっと加減を間違われると、片手で握り潰されそうだ。

グラングランする俺を、横からカッ攫ったのは王妃。

「ダメよイングリード!こんなに小さな子にはもっと加減をしてあげないと!潰れてしまうわ!」

めっ!とばかりに叱られてしまう巨大筋肉王子、母はどこの世界でも強い。

そしてとてもシュール。

周りは、俺達のやり取りを、微笑ましげに見ている。

王様が、一つ咳払いをして、俺の素性、聖女の降臨、聖女の魔力測定結果、ギランギラン王妃の呪い、などを話し、イングリードが行っていたと言う、辺境の状況を聞いて、

「………そうでしたか、そんな事が、でもまずは、アールスハイン、呪いが解けて良かった!ケータ殿、弟を助けて頂き感謝致します」

と深々と頭を下げた。

王妃様の目がまたウルウルしてきた。

「…………それで、聖女様の件ですが、実際、それほど酷いのですか?」

その質問に、全員が沈黙する。

「それは、矯正できないものですか?」

「………ケータ様は、元の世界におられた頃、聖女様とはお知り合いだったのですか?」

メガネ長官の質問に、

「んーん、じこのちょくじぇんまであっちゃこちょなかっちゃ(事故の直前まで会った事なかった)」

「一緒に事故に遭われたのですか?」

「まちこまりぇた」

「え?」

「まーきーこーまーりぇーた!」

「巻き込まれた!ええ?聖女様の事故に巻き込まれたのですか?」

「しょー、ふた、せーじょーにひっぱりゃりゃりぇて、じこあった(そう、ふた、聖女に引っ張られて、事故に合った)」

危ない危ない、二股聖女って言いそうになった、?言っても良かったのか?

「え?それは……聖女様がケータ様を害そうとした、と言う事ですか?」

「んー?せーじょーが、ふちゃまたかけてちゃおとこがーケンカちてて、せーじょーがちゅきとばしゃりぇてー、かーだんかりゃおちゅりゅとき、おりぇをちっぱっちぇ、いっちょにおちた」

「聖女様が二股掛けてた男が、階段付近で喧嘩をしていて、突き飛ばされた聖女様に引っ張られて、一緒に落ちた、であってますか?」

「しぇーかーい!よーわかりゅ!」

呂律の怪しい言葉を、正確に理解して貰えてとても嬉しいので、拍手を送った。

場が和んだ。

「ん?二股?……今代の聖女様は、あばず、いや、男ぐせ、いやいや、えーとなんだ、恋愛に奔放な方なのか」

将軍おじさんが、何とか繕ったって安心してるけど、あばずれとか男癖が悪いとか、言いたい事は丸分かりである。

「確かに、あのキャベンディッシュ王子への距離の近さなどを見ると、納得してしまいますな」

宰相おじさんの言葉に、実際に会っていないイングリード以外がうんうん頷く。

「そんなにか?それで大丈夫なのか?」

皆の反応を見て、心配になったイングリードが、聞いてくる。

「その事で、今、話し合う為に皆に集まって貰っていたのだ」

王様の声に、

「何より、心配なのは、光属性の力が強い筈の聖女様が、属性の判別が困難なことですね」

メガネ長官が、考えながら話す、

「それは、訓練でどうにかなるものなのか?」

「ある程度は、としか申し上げられません。どれだけ訓練しようが、本人の資質や性格に依りますので、心を入れ替えて訓練に励んだ者が、途中から属性を増やしたという例は有りますが、元々持っていた属性の魔法を超える事は有りませんでした」

重い沈黙が続く。

その間、俺は王妃様の膝の上で、クッキーと戦っていた。

見た目普通の美味しそうなクッキーなのに、口に入れた途端、口内の水分を全部持っていかれる、そしてかっっったい!

まるで歯が立たない!

あまりの固さに、自分には歯が無いのかと不安になったが、小さいながらもちゃんと歯は生えていたので一安心。

幼児なので、顎に力が無いのは仕方ないが、固すぎだろ!と思うの。

王妃様は、アーンをしたくてスタンバってるけど、俺があんまりアギアギしてるので、心配になってオロオロしてる。

ザ・執事さんもオロオロしてる。

全く歯の立たないクッキーを諦めて、うっすら歯形の付いたクッキーを皿に戻し、ミルクティーを飲む。

あっっっっま!何これ!甘過ぎ!俺のちっちゃな歯が溶ける!

一口で断念。

見た目は良いのに、と、そこで俺は、恐ろしい可能性に気付いた。

この世界の、食べ物が自分には合わない可能性だ!死活問題!

ま、まだ諦めるな俺!まだ、食事は食べていない!クッキーは、固さはヤバいが味はそれ程悪くなかった!かなり甘かったけど!

と何とか自分を納得させて、一息、王妃様が、俺にアーンしようとしていたクッキーを奪い、試しにアールスハインにアーンしてみた。

最初戸惑っていたが、王妃様に促されて食べた。

固さが売りの煎餅みたいな、ガリッボリッて音はしてたけど、普通に食った。

王妃様にも試したが、普通に食った。

凄い敗北感を感じた。

「プフッ」

そんな俺の悪戦苦闘を、最初に笑ったのは、宰相なおじさん。

すぐに無表情に戻ったが、口の端がひくついている。

他の皆は普通に笑い出すし、むくれて無意識に頬が膨れたら、王妃様に笑って突つかれるし、さっきまでの沈鬱な空気はどこ行った!と言いたい。

「取り敢えず、聖女に関しては、訓練の進捗を見ながら対策を練るとして、最悪、聖女無しでも戦える準備だけでも調えておくとするか」

「そうですな、我軍もより一層の鍛練に励みましょう!」

王様の纏めに、将軍おじさんが答え、

「我々も来る決戦に備え、備蓄や物資の調達を整えておきます」

「聖女様の訓練に励みます。

ところで、ケータ様とアールスハイン王子はどうされますか?」

「んう?」

俺と、アールスハインは何を問われたか咄嗟に分からず、二人して首を傾げた。

「ケータ様は勿論、アールスハイン王子も、理論は学ばれましたが、実技の方は学ばれていないので、訓練が必要でしょう?」

「………訓練さえすれば、本当に魔法が使えるんだろうか……」

多分の不安と少しの期待の篭る声に、

「大丈夫だ!お前は私の弟なのだから!」

と根拠なく言って、イングリードがアールスハインの背をバンバン叩く。

俺がやられたら一発で吹き飛びそうだ。

アールスハインはちょっと痛そうで、でもとても嬉しそうに、下手くそに笑って、

「よろしく、ご指導下さい」

メガネ長官に深々と頭を下げた。

「良かった、本当に良かったわねアールスハイン!…………でも、」

ちょっと涙ぐみながら、王妃様が喜び、俺を見て言い淀む。

「どうした?」

王様が聞けば、王妃様は何度か躊躇い、

「ケータ様は、こんなに小さいのに、魔法の訓練に参加しても大丈夫かしら?」

キュと抱き締められる。

なにやら後頭部が幸せだ。

王妃様に抱き締められた俺を見て、

「確かに小さい、言葉も拙いが、こちらの言葉は正確に理解しているようだし、魔法を学ぶのに支障は無いように思うが、魔力は充分に有るのだし……ケータ殿はどうしたい?」

王様が、俺に決めさせてくれるようで安心した。

幼児だからダメとか言われたら、どうしようかと思った。

なので、俺は、自分の意思を伝える為に、アールスハインに両手を出して、抱っこを要求する。

自力では、王妃様の抱っこから逃れられないので!

「まほーしゅりゅ!」

王様の目を見て宣言した。