作品タイトル不明
夏休み 8
深刻な部屋の雰囲気に、少年がまたルルーさんの後ろに隠れてしまった。
ルルーさんの後ろには、更にお医者さんなおじいちゃんが居て、一緒に部屋に入って来た。
おじいちゃん医師が、
「報告します、この少年の体に異常は見られませなんだ。ですが、この少年は、人族では無く、獣族の白蛇体でした」
「白蛇体とはまた珍しい種族だな?」
宰相さんの驚きの声に、白く長いサンタ髭を撫でながら、おじいちゃん医師が、
「そうですな、白蛇とは蛇族の中でもごく稀にしか生まれず、体も弱いために中々大人になるまで育たないと聞きます」
「そしたらこいつは?」
ルルーさんの焦った様な声に、
「ああ、この少年は大丈夫ですな。理不尽な研究に使われたと聞きましたが、不幸中の幸いか、その研究のお陰で、この少年の体は、通常の獣族の子供並みに丈夫になっております。多少内臓が弱っている様子ですが、この先ちゃんと食事と睡眠を取れば、一月とたたず元気になりましょう」
「そうか、まさに不幸中の幸いだな」
王様の安心した声に、おじいちゃん医師はホッホッと笑って部屋を出て行った。
「……………白蛇体ならば、稀有な魔力の量にも納得がいきます」
「白蛇体を知ってるのか?」
「ええ、一度冒険者時代にお会いした事があります。白蛇体の子供は、生まれながらに多くの魔力を持ち、その魔力ゆえ体が育つ前に魔力によって体を害されてしまうので、殆どの場合、大人になる前に命を落としてしまうのです」
「防ぐ術は?」
「運良く高魔力を持った魔法使いに師事出来れば、体内の魔力を吸出し、排出することで成長を促す事も可能です」
「成る程。だが白蛇体が生まれた時に、タイミング良く高魔力を保持した魔法使いに出会えるかは、完全に運か」
「そうなりますね。蛇族の里は森の奥に有ることが多いですから」
「獣族の里は、種族ごとに別れて少人数で構成される事が多い、だからこそ狙われ易いとも言える」
宰相さんと、テイルスミヤ長官の淡々とした話に、少年はボンヤリと首を傾げるのみ。
「と言う事は、この少年の里はもう残ってない可能性が高いな?」
「ええ、少人数の里ならば、下手に人を残すよりその方が、後々の報復もされにくくなりますからね」
「獣族の長殿には確認が必要だが、この少年はこちらで保護しても問題は無いな?」
「おそらく。少年の両親が運良く生き残っていれば、その時はまたその時に考えれば、間に合うでしょう」
「うむ、問題は、今後少年に誰が魔法の使い方を教えるか、か」
「魔法庁から職員を派遣する事は可能ですが、スラムの子供達がそれを受け入れるかも問題ですね」
「ルルーよ、その辺はどうだよ?」
「んー、スラムのガキ共は、無駄に警戒心が強いから、いきなり来た大人は、まず受け入れねーな」
「だろーなー。なら全員まとめて孤児院に入れるか?」
「いや、そんな事しても、すぐに飛び出すだけで、残るのは精々四.五人のチビ共くらいだろうよ」
「じゃーどうすりゃ良いんだよ?」
「んー、この国は豊かだから、スラムのガキでも、選ばなきゃそこそこ仕事もあるし、テメーの食い扶持くらいは稼げるんだよ。だから大人に頼るって事がまず無い。しかもスラムの大人は大概ろくでなしで、ガキ共から掠め取る事ばっかしやがる。だから冒険者になれる年になるまでは、ガキ同士で固まって生きてんだよ」
「だからと言って、全員が冒険者になる訳じゃねーだろ?」
「ほぼ全員だぜ?他の仕事についても、読み書きも出来ねースラム出身のガキは、ろくな給料もらえねーし、簡単に騙せるから他のやつより給料減らされても中々気付かねーし。気付いた途端暴れるしで、働き先がねーからな」
「んー、ならばどうすりゃ良いんだよ?」
大人達が難しい顔で黙り込むなか、少年はジュース片手に足をプラプラして、とても退屈そう。なので、
「にぇー、まほーやりたい?」
「まほーってルルーにいがたまに見せてくれるやつ?僕でも出来るの?ならやりたい!」
「れもー、なりゃうの、みんにゃとはなりぇりゅよ?(でも、習うには皆と離れるよ?)」
「ええー、みんなも習いたいのに?じゃー僕も習うのがまんする」
「みんにゃと、いっしょーなりゃ、なりゃう?(皆と一緒なら、習う?)」
「うん、カッコいいもん!」
「しょっかー」
話しながら大人達を見れば、更に難しい顔になっている。
「しょしたら、がっこーちゅくってもりゃう?(そしたら、学校作って貰う?)」
「がっこーって何?」
「がきゅえんみたーの(学園みたいの)」
「学園って僕知ってる!でもあそこは、すごいお金持ちしか入れないんでしょ?」
「らからー、びんぼーのころもれも、はいりぇるがっこーちゅくってもりゃうんだよ!(だから、貧乏の子でも入れる学校作って貰うんだよ!)」
「びんぼーでも入れるがっこー?お金無いよ?」
「おきゃねのかわでぃ、おちごとちたらいーよ(お金の代わりに、仕事したら良いよ)」
「がっこーでお仕事するの?」
「がっこーで、おちごともりゃえばいーよ(学校で、お仕事貰えばいいよ)」
「ええ?がっこーって、まほー教えて貰うんじゃないの?」
「まほーらけららくて、じーときゃけーしゃんとか、おちえてもりゃーばいーよ(魔法だけじゃなくて、字とか計算とか教えて貰えば良いよ)」
チラッと大人達を見れば、へーとばかりにこっちに身を乗り出してる。
「そんなにいっぱい教えて貰って良いの?」
「ぼーけんしゃーなっちぇー、だみゃしゃりるの、やーれしょ?(冒険者になって、騙されるの嫌でしょ?)」
「うん、ルルーにいだけじゃなくて、チトにいも、アギねーも騙された事有るって!」
「じーときゃけーしゃんなりゃったら、だましゃりるの、しゅくなくなりゅよー(字とか計算習ったら、騙されるの少なくなるよ)」
「ええ!本当!僕習うよ!いっぱい習う!お仕事もする!」
そこまで話して、大人達を見れば、
「平民の学校か、成る程、幼年学園程の知識があれば、冒険者になっても騙される事は、少なくなるだろうな」
王様の意見に、
「平民の学校ならば、貴族関係の科目は省き、身を守る為の鍛練等を入れるのも良いかもしれません」
「おう、それなら引退して、暇をもて余してるじじぃ共が使えるな!」
宰相さんと将軍さんも意見を述べる。
「だが、学費の代わりの仕事とは、どうする?」
「それならば、冒険者ギルドに掛け合って、簡単な仕事を回して貰うとか、何なら兵舎の掃除とかも回せるぞ?」
「まーどーぎゅの、まーりょきゅこめりゅのもねー(魔道具の、魔力込めるのもねー)」
「……………その対価を学費にするのか、成る程。ならば以前に教会に預けられた元奴隷の子供達も、一緒に習わせれば、それなりの数にはなるな」
「もうあの子等は大丈夫なのか?前に見た時は、酷く怯えられたが?」
「お前は見た目からして、普通の子供にも怯えられるだろう?教会からの報告では、大分落ち着いているそうだ」
「まあ、なら良いけどよ」
「後は場所か、スラムの近くに、建物が倒壊したままの土地が有ったな、ひとまずはその土地に建てるか?」
「ああ、あそこな、スラムの端だし、結構広い場所だから良いんじゃねーか?」
「教会にも話を通そう、冒険者ギルドはお前に任せる」
「ああ良いぜ!冒険者ギルドも、最初から戦いの基礎を分かってる奴が多く入ってくりゃー喜ぶだろ!その上トラブルを起こすスラムの若いのが減りゃー、楽になるしな!」
「卒業には試験を設け、無事試験を通った者には、その証明になる物を贈れば、学校とその生徒への信頼度は上がるだろう?」
「ああ、そいつが問題を起こさない限りはな!」
「その事も含めての教育だろう」
「ああまあそうか。んで、学校に入れる年は?」
「そうだな、普通に会話が出来る年齢になれば構わないのではないか?」
「てーことは、五.六歳ってとこか?」
「その辺りが無難だろう。で、それ以下の子供達は、教会に一時的にでも預かって貰うか。それくらいなら許容出来るだろうか?」
最後の言葉は、展開に付いてこれずにポカンとしていたルルーさんへ。
「あーえー、まあガキ共も、字や計算は覚えたいと思ってるだろうし、ただじゃ無く、仕事をすれば習えるって事なら、納得すると思うが、そんな簡単に決めていいことか?」
「元々スラムの子供らは、保護の対象にはなってたんだが、孤児院に入れたそばから脱走する奴が多くて、どうしたもんか、思い付かなかったんだよ!土地は空いてるし、こっちとしては、建物を一個建てるだけで、色々問題が解決するんで、助かるんだよ!」
「それなら、まあ良いけどよ」
「それに、学校を無事卒業したからには、不当な差別はされないだろうよ。それだけの事をちゃんと学べればな!差別がなくなりゃ、犯罪に手を染める奴も減るしな!」
「……………そうだな、まともな暮らしが出来れば、好き好んで犯罪者にはならねーだろうよ」
「よし、ならばすぐにでも取りかかるか!ちょっくら冒険者ギルドに行ってくら!」
そう言って将軍さんがマジックバッグから取り出したのはボード。
「おー、のりぇりゅよーなっちゃー?」
「おう任せろ!魔法庁職員にも負けねーくらい乗れるぜ!」
自信満々だけど、魔法庁職員さん達は安全運転なので、ルルーさんよりスピードは出てません。
ザカザカ部屋を出て行った将軍さんを見送って、
「忙しない男だ!それじゃあ少年、今日はご苦労だった、また何かあれば連絡しなさい」
と手を振って、宰相さんも部屋を出て行った。
王様も、
「城の入り口の騎士には伝えておく、学校が出来次第、連絡もしよう。友人達にも話しておいてくれ!」
そう言って部屋を出て行った。
イングリードとテイルスミヤ長官も、いつの間にか出て行ってて、偉い人の居なくなった部屋では、ルルーさんが、途端にグデンとソファに倒れ込んだ。
「おいおいおい、俺はこんな偉いやつに囲まれるなんて、聞いてねーぞ!」
今頃になって緊張が解けてグデンとなったらしい。
「何か話がデカくなってるし!ただこいつを医者に見せるだけじゃ無かったのかよ?」
「医者には見せただろう?」
「城の偉い医者な!何で俺が王様に会うんだよ?獅子王まで居やがるし!」
「その獅子王って何~?」
「冒険者時代の奴の二つ名だよ、火魔法が得意で、鬣みたいに見えたらしくてな!」
「へ~、二つ名なんて有るんだ~?」
「Bランク以上はだいたい付けられるな」
「へ~、ルルーさんは?」
「ルルーにいは、迅風って言うんだよ!風の魔法で誰よりも早く敵を倒すんだ!」
キラッキラした目で我が事のように話す少年。
ルルーさんは、スラムの子供達のヒーローなんだろう。
「さて、それじゃあ俺達も、スラムに行くか!」
アールスハインの言葉に、やっとノロノロ顔を上げるルルーさん。
「別に送って貰わなくても、帰りは大丈夫だぞ?」
「何言ってんのルルーさん?少年へのご褒美がまだでしょ~?子供との約束は守らないとね~!」
「ごほうび!美味しいごはん!みんなで食べる!」
「あ、ああ、でも良いのかよ?結構な人数のガキが居るぞ!」
「おっきーにゃべありゅよ!(大っきい鍋あるよ!)」
「あー、適当に買うんじゃなくて、お前さんが作るのか?」
「やしゃいもたびさしるかりゃね!(野菜も食べさせるからね!)」
「ああ、買ったもんだと、肉ばっかになるわな」
「しょー、こどもはやしゃいもだいじ!(そー、子供は野菜も大事!)」
「……………だが、前みたいに、森の魔物の肉をバンバン出すなよ?クセになったら、普段の飯が食えなくなるからな?」
「んー、びっきゅばーどのにきゅ、なりゃいー?(んー、ビックバードの肉、ならいい?)」
「あー、まぁビッグバードくらいなら」
「おっけー!じゃーいきゅよー!」
俺の掛け声で、全員が腰を上げ、スラムに向かってボードを飛ばした。