軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

77 たまねぎは泣けるよね?

「さて……と」

莉奈は腰に手をあて、仕切り直す事にした。ラナまで包丁を使えないのには驚いたけど、旦那さんが料理長なら頷ける。それに侍女も令嬢が多いらしいし、使えなくて当たり前だ。

モニカが、たまねぎを潰せるのは……論外だけどね。

「……28人か」

「どうする、リナ?」

リック料理長が訊いてきた。指示がなければ、残念ながら動き様がないからだ。

「7人1組で、たまねぎのスライスを競争しようか?」

と、莉奈は面白そうに提案すると、にわかにざわめいた。ただスライスする作業ではつまらないし、競った方がご褒美の価値も上がる。そう思ったのだが、皆も面白そうだと感じたらしい。

「1組、何個切る?」

料理人の1人が訊く。

「150かな~~」

それで、600。それだけあれば、オニオンスープにもポタージュスープにも回せる。

「……ただし」

「「 ただし?」」

「敗けたチームはもちろん、雑に切ったら、即刻失格、罰ゲーム行き!!」

早く切るだけなら、誰でも出来る。プロなんだから、いかに早くキレイに切るかだ。

「「「罰ゲーム~~~!?」」」

皆が叫んだ。罰ゲームがあるとは訊いてなかったからだ。

「なんで、ご褒美だけ貰おうとするかな~?」

ご褒美がある、それすなわち……罰ゲームがあるからさ。

「……そうだけど……」

なんだか、ガッカリしている料理人達。ただで貰おうなんて大甘だ。

「ちなみに~~!! 勝利チームには~~!!」

わざと声を張り上げる莉奈。士気を高めないと始まらない。

「「「勝利チームにはー!?」」」

「もれなく、アイスクリーム付きクレープを進呈します!!」

「「「うぉぉぉ~~~~~!!」」」

歓声が上がった。クレープが何か分からなくても、アイスクリームは、シュゼル皇子達が食べていたのを見ていたし、絶賛していた物だ。美味しいに決まっている。絶対食べたいと、いよいよ盛り上がった。

シュゼル皇子には、勝手に貰っちゃった分の代わりに、甘味を渡して相殺してもらおう。

「んじゃ、まずは7人の班を作っていざ勝負!!」

ーーーコンコンコンコン。

まな板に、包丁の当たる音が響き渡る。たまねぎを皆がリレー方式で切っている音だ。7人で150ものたまねぎを、いかに分担して切るか、それで勝負が決まるからだ。

ちなみに最低1人10個は切る事を厳守とした。じゃないと、早い人が全部切っちゃうしね。

「……グスッ………グスッ……」

そこかしこで泣いている声がする。

「……リナ……目が痛い……」

それにもれなく、エギエディルス皇子の声も混じる。

それもそうだ、密閉した部屋で、これだけの量のたまねぎを、切りに切りまくれば、目も痛くなるし泣けてくる。

「……たまねぎ……切ってるからね」

莉奈は、誰も開けてない窓を少し開けた。勝負に真剣すぎて換気を忘れているからだ。そりゃ痛くて当然だ。

「たまねぎを切ってるから、目が痛くなるのか?」

切る事もないし、作業してる厨房に来る事のなかった、エギエディルス皇子には、初めての体験だった。

「そうだよ? なんか目が痛くなる成分が、たまねぎを切ると空気に飛散するんだって」

だから、昔おばあちゃんは、ゴーグルを着けて切っていたのを、思い出した。本人はかなり真剣だったが、笑える姿だった。

「マジかよ……早く言えよ!!」

パタパタと慌てて窓際に行く。

「……エド、スープ出来るまで、随分とかかるよ? クレープ作ってあげるから、先に食べとく?」

切ったたまねぎを炒めたり、まだまだやる事はある。

「食べとく!!」

瞳をキラキラさせながら、いい返事である。それが可愛くて莉奈は笑った。

「んじゃ、食堂で待ってて、ここ目が痛くなるし」

「……うん!!」

こういう時の、エギエディルス皇子は、年相応で可愛くて仕方がない。生意気だけど、それも兄に追い付こうと、頑張っての事なのかもしれない。

「……さて……」

莉奈は、皆の視線が向くのを、肌で感じながらもマイペースで、クレープ作りにはいる。

たぶんだけど、リック辺りはクレープが何なのか、訊きたくて仕方がないのだろうけど、勝負の邪魔になるし気が散るので諦めたみたいだった。

薄力粉があったのは、嬉しい誤算だ。お菓子作りには必要不可欠だし、料理にも幅が広がる。まだまだ、たまねぎを切るには、時間が掛かるだろうとよんで、クレープ生地を作り始めた。

食糧庫に行った時、近くに置いてあったロウ石で、小麦粉の袋に強力粉、中力粉、薄力粉と、しっかり目印をつけておく事は忘れない。

いちいち鑑定するのも面倒だし、鑑定を出来ない人にもわかる様にしとかないとね。

「……どうでもいいけど……鼻水いれないでね!?」

あまりにも、たまねぎを切るのに夢中になりすぎて、ズルズルしている人達がいたからだ。鼻水入りなんてイヤ過ぎる。

「うぃ~~~す!!」

一応返事を返してはきたが、大丈夫なのだろうか。

莉奈は、料理人達を信用する事にして、クレープを作る事にした。