軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

689 自己紹介

アーリャに再度背中を押されたミーシャは、不安そうな表情で挨拶をする。

「お初にお目に掛かります。グルテニア王ホルンが娘、ミーシャと申します」

アーリャの陰に隠れていたものの、そこはやはり王族だ。

いくら不安だろうが前に出れば、キリッと表情が変わる。軽く腰を落として挨拶したミーシャは、莉奈が何となく真似てやるカーテシーとは全然違って、洗練されていて優雅だった。

フェリクス王はミーシャの挨拶が終わると、アーシェスに視線を送る。

まずは身内のアーシェスに挨拶させた方が、ミーシャが安心するだろうと考えたらしい。

「お久しぶりね。ミーシャ、私の事を覚えているかしら?」

「……?」

ミーシャは自分の名前を呼び捨てにされ、一瞬怪訝そうにアーシェスを見上げる。

だが、顔を見てすぐに「あれ?」と何かに気付いたのか、隣にいるアーリャと何度も見比べていた。

もちろん、アーリャに双子の兄がいたのは覚えている。しかし、自分の記憶に残るアーシェスはこんな雰囲気ではなかった。

「やだ。忘れちゃったの? アーシェスよ。アーシェス」

「え? アーシェスって……え? まさか、本当にアーシェスお兄……お姉……様?」

やはり、アーシェスなのかと思う反面、自分の記憶とは随分と印象が違っていて困惑する。

なにせ、ミーシャの知っているアーシェスは、お姉様ではなくお兄様。

「髪型を変えたんですね!」というレベルではない。

NEWアーシェスをすぐにアップデート出来ず、ミーシャは懐かしく思うより、驚きと戸惑いしかない様である。

「そうだよな。アーシェスがお姉様になっていただなんて、普通は思わないよな」

久しぶりに会ったアーリャでさえも、一瞬誰かと思った程だ。

アーシェスは昔から、奇抜な衣装を好んでいたが、たまに気分転換に着るくらいの趣味の範囲内だと思っていた。

なのに、こんな堂々と着飾るアーシェスと再会するだなんて、双子のアーリャでさえ驚きだ。

「はぁぁぁぁ〜っ」

アーシェスのあまりの変わり様にミーシャは、返す言葉の代わりに長いため息を吐いていた。

どう反応を返してイイか、分からないのかもしれない。

以前は、親しみを込めて"お兄様"と呼んでいたが、アーリャ同様に"お姉様"と呼ぶべきなのか、悩ましかった。

どう呼んだものかと考えていたミーシャは、ちょうど目線の高さが近かった莉奈と、バチリと目が合う。

自分(ミーシャ) と大して変わらない身長に、年齢も同じくらいに見えた。アーリャが連れて来た莉奈が、どんな人物なのか気になる。

「あなたは?」

まさか目が合い、誰かと尋ねられると思わなかった莉奈は、目を丸くさせた。

常識的に、挨拶を返さねばならないのだろうが、どの程度の挨拶をすればイイのか分からない。フェリクス王にするみたいに、地に膝を付けての挨拶をすべきか、会釈程度か。

他国の王族に対して、どう挨拶すればイイのかなんて、莉奈は考えた事もなかった。

最高礼は、地に膝を付けて頭を下げる事だろう。だが、ヴァルタール皇国の王族以外の者に、その挨拶はどうも引っ掛かるし、フェリクス王達を裏切るみたいな感じがして、スゴく嫌だ。

「えっと、その辺の娘、リナと申します」

だから、ミーシャと同じく軽く腰を落として挨拶をした。

身分は莉奈の方が圧倒的に低いので、同じ挨拶は絶対不正解だと思う。しかし、アーリャにすら大した挨拶もしていないのに、ミーシャにだけ仰々しくするのもおかしな話だと、莉奈は思ったのだ。

「え? "その辺の娘"?」

ミーシャは莉奈の態度より、口上が気になったらしい。

名乗る程の身分がなければ、大抵の場合は住んでいる村や町の名称と、自分の名前を続けていう。

なのに、"その辺の娘"。ミーシャは初めて聞く挨拶の仕方に、思わず訊き返してしまったのだ。

莉奈はどう言えばイイのかなと唸っていれば、背後でクツクツ笑う声が聞こえた。絶対、この声はフェリクス王だ。笑うくらいなら助けて欲しい。

だが、その奇妙な挨拶が、逆に緊張感を緩和させたのか、あれ程人見知りを決めていたミーシャが、ずいっと一歩前に出る。

「何、その辺の娘って。あなた身分は?」

もはや、人が変わった様に莉奈に話し掛けてきた。

いや、きっとコレが地だ。今まで色々とあり不安もあって、大人しかっただけなのだろう。莉奈と年齢が近いおかげで親近感が湧いたのか、それとも適当過ぎる挨拶のせいで、緊張感が溶け安心感が生まれたみたいだ。

「えっと、一般市民?」

「一般市民? なんで一般市民が、アーリャ姉様と一緒にいるの」

「成り行きでしょうか?」

莉奈が真顔でそう答えれば、今度は吹き出す声が聞こえた。

シュゼル皇子やローレン補佐官達である。事細かく説明をする必要はないが、説明をしなさ過ぎるのも問題だろう。

「リナはフェリクスの連れだ」

このままでは埒が明かないと思ったアーリャが、2人の間に割って入ってくれた。

細かい事情は後で話すとして、隣国の王族達との顔合わせくらいは、早めにしておきたかったのだ。

「フェリクス?」

アーリャに言われ、ミーシャはフェリクス王を見上げる。

ミーシャは父ホルンが行方不明になったショックから、引き篭もりに近い状態でずっと過ごしていた。そのため、人と目を合わせる事も、話す事も苦手になってしまっていたのである。

先程も、挨拶をと言われて挨拶はしたが、なるべく視界に入らない様に意識していたため、フェリクス王達をまともに見ていなかった。

だが、今度はフェリクス王としっかりと視線を合わせる。

高身長に無駄のない体躯。漆黒を思わせる髪にまるで黒曜石の様な瞳。

稀に見る美貌に頬を染め、視線を逸らせれば、今度は優しそうな美形がミーシャの瞳に飛び込んで来た。

キラキラと輝く金色の髪に、人の心まで見透かす様なアイスブルーの瞳。

アーリャも美形な方だと思っていたが、それを遥かに超えていた。

しかも、その隣にはキラキラした可愛い少年がいる。

ただでさえ、男性には妙な緊張感があるのに、美形が勢揃いだ。

「……っ!」

心臓が堪えられないとばかりに、ミーシャは再びアーリャの背に隠れたのであった。