軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

686 予期せぬ距離

王竜により、西側に生えていた木や転がっていた岩が、跡形もないくらいに粉砕され、良くも悪くも見通しが良くなった。

見通しが良ければ敵を目視しやすいが、その反面、敵からも見つけられやすい。まるで、カーテン全開の家の中にいるみたいな開放感だ。

今まで当たり前の様にあった物が急になくなると、こんなにも不安になるものなのだなと、アーリャは独りごちた。

だが、今更なくなった物をどうこう考えても仕方がない。

アーリャは頭を切り替える様にため息を吐いた。

「とりあえず、夜も遅い。部屋を用意するから、今夜はそこで休んでくれ」

フェリクス王達も、まさかこれだけでは帰らないだろうし、ましてや野宿をするつもりもないだろう。

そう思ったアーリャは、フェリクス王達を屋敷へ来る様に促す。

この町に、王族が泊まれる程の豪華絢爛な宿泊施設はないが、アーリャも別邸ぐらいは所持している。そこを使ってもらおうと考えたのである。

その言葉に喜んだのは、アーリャの兄アーシェスだった。

チュネチロックコシピロ・ローリ・ロールの蜜玉で、身体の疲労は回復した。しかし、フェリクス王との過酷な旅に、心も疲れきっていたのだ。

「あぁ、やっとゆっくり休めるのね」

ほおとため息を吐くアーシェスに、フェリクス王の視線が突き刺さる。

「お前は何もしてねぇだろうが」

「き、木の実を集めてあげたでしょう!?」

それはアーシェスだけではない。莉奈達も同じだ。

それに加えてローレン補佐官、エギエディルス皇子は魔物を倒していたし、莉奈も食事の準備をしたり魔物を倒していた。

……アーシェスはと、皆の視線が自然と集まる。

「癒しよ、癒し!!」

「「「……」」」

アーシェスのその言葉に、フェリクス王達は何も言わなかった。

ただ、呆れているだけで咎めていた訳ではないのだが、それが逆に責められている様に感じたらしく、アーシェスはワタワタとしている。

そんなアーシェスの横を、エギエディルス皇子が鼻で笑い通り過ぎた。

何が癒しだと、思ったのだろう。

アーシェスは酷いと嘆く素振りを見せていたが、誰も慰める事はなくスルーしていた。

莉奈はそんなアーシェスを横目に、転がっているテーブルやイス、簡易トイレや洗面所を 魔法鞄(マジックバッグ) にせっせと詰める。

部屋を用意してくれるなら、さすがに野宿は終わりなハズ。

終わりでいいんだよね? と思わずフェリクス王をチラ見したのは、仕方がないだろう。

◇◇◇

ウクスナ公国の首都モルテグルは数百万人が住む町。

その公王であるアーリャの居住地は、このモルテグルのほぼ中心にあるらしく、町の入り口からはかなりの距離がある。そのため、アーリャ達は馬を使って来たのだろう。

そんなモルテグルの町に入ると、ヴァルタール皇国側の国境の町ゴルゼンギルとは違い、防壁、畑、防壁、町という二重構造になっていた。これだけ厳重に守られている町なら、魔物や人の侵略には強そうだが、それはあくまで地上から侵略するモノに対して。

飛行系など論外だし、地中を掘り進めて来る魔物も、防壁など関係ない。だから、アーリャも町を捨てるつもりでいたのである。

「ぐぬぬ」

屋敷まで距離があるからと、アーリャは莉奈達にも馬を用意してくれたのだが、その馬に乗った莉奈は……羞恥心と戦っていた。

何故なら、竜には乗れても馬には乗れない莉奈は、誰かの後ろに乗せてもらうしかない。なるべくなら、女性同士がいいのだが、さすがに公王アーリャと同乗は無理だろう。

なら、アーシェスかローレン補佐官かなと思っていたのに、誰かに有無を言わせずひょいと抱えられた。

そんな事をするのは、フェリクス王しかいない。

「え」と声を出す間もなく、ストンとフェリクス王の前に横向きに座らせられた。

せめて、エギエディルス皇子みたいに、シュゼル皇子の後ろなら良かったのに、どこぞのお嬢様みたいに横向き。

これでは、容赦なくフェリクス王の顔が見えるではないか。なんなら、いつもより距離が近くて、莉奈の心臓はおかしくなりそうである。

「その腕はなんなんだ」

「ソーシャルディスタンスです」

フェリクス王の息遣いまで感じそうな距離感に、莉奈は必死に両腕を伸ばして抵抗していた。

莉奈が落馬しない様に、フェリクス王が肩を引き寄せているから、莉奈とフェリクス王の間に距離などなく、ほぼゼロ。抵抗しなければ、フェリクス王の厚い胸板に顔を埋める事になるではないか。

それは何だかお腹がこそばゆいし、ソワソワする。とにかく、出来るだけ距離を離したい莉奈なのであった。

その訳の分からない抵抗に、フェリクス王は笑うしかない。

「あ゛ぁ? ソーシャルディスタンス?」

「ソーシャルディスタンス、フィジカルディスタンス、パーソナルスペースです!」

「俺はバイキンか」

「いえ、私がバイキンなんです!!」

「一体どんな宣言してやがる」

どこの世界に自分をバイキンだと言って、距離を取る者がいる。

莉奈のおかしな言動は今に始まった事ではないが、いつも以上におかしな莉奈にフェリクス王は呆れつつ笑っていた。

「いいから、しっかり捕まっとけ」

「んぎゃ!」

抵抗虚しく、フェリクス王に肩を引き寄せられた莉奈は、思わず変な声が出た。

馬は竜と違って、カラビナが付いていない。

なので、莉奈や馬が暴れると落馬したりして危険だと、フェリクス王は引き寄せただけなのだが、この慣れない距離感に莉奈は絶賛混乱中。

「お前はもう少し、色気のある声は出せねぇのかよ?」

んぎゃなんて声を出す女性など、フェリクス王の周りにはいない。

それが面白過ぎて、フェリクス王は笑っていた。

「色気のある声とは何ですか?」

その言葉が何となく引っ掛かり、ムスリと莉奈が見上げれば、間近にいるフェリクス王と目がバチリと合った。

「「……」」

その数秒が、まるで数時間の様に長く感じる。

フェリクス王の美貌が目の前に……。

意識した途端に莉奈の頬がボボッと、炎天下の日差しを受けた様に熱くなった。

「ギャーッ! 陛下に殺されるーーっ!!」

あまりの恥ずかしさに、莉奈は無意識にそう叫んでいた。

その黒曜石みたいな瞳は、まるで自分を射抜いてくる様に見えて、莉奈には堪えられなかったのだ。

これ以上見ていたら、心臓がおかしくなる。莉奈は両手で顔を覆い、馬上で小さく縮こまっていた。

そんな莉奈の反応に、フェリクス王はクツクツと笑っていたが、先鋒を走るアーリャ達は状況が分からず、莉奈の声に驚いたに違いない。

「……え!?」

アーリャは莉奈の声にビクリと身体を浮かせ、何事かと振り返っていたのだから。