軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

672 満天の星々に、ウクスナ皇国の平穏を祈る

「俺はもう休む」

焼き肉だけでなく、串焼きやシフォンケーキまで食べたエギエディルス皇子は、身体はともかくお腹がもう限界らしい。

チュネチュネチロックコシピロ・ローリ・ロールの蜜は、治癒効果だけでなく、疲労回復効果もあるみたいだが、残念ながら食べ過ぎた物をすぐ消化したり、なかったモノにする効力までは、さすがにないみたいだ。

フラフラと防壁の近くに行き、 魔法鞄(マジックバッグ) から王子スライムを取り出し、倒れる様に寝ている。

そんな末弟をチラッと見て、フェリクス王も苦笑いしていた。

「さてと」

ひと息吐いた莉奈も、腰を上げた。

皆の食べ終えた食器や、シフォンケーキを焼いた焼き台など、まだ出したまま。ひと休みする前に片付けておくかと、莉奈は手際良く動いていれば、ローレン補佐官とアーシェスが手伝ってくれた。

「後は私が対応しますので、リナも休んで下さい」

使わない物を 魔法鞄(マジックバッグ) に一通りしまったところで、ローレン補佐官がエギエディルス皇子のいる方へと、莉奈を促がす。

莉奈でしか対処出来ない事案の場合には、声を掛けるかもしれないが……と。そう言われたが、まぁ大丈夫だろうと、莉奈もエギエディルス皇子の隣に王妃スライムをデンと並べた。

「基本、お前が何かしない限り平和だしな」

ふぅとひと息吐いて寝そべると、莉奈の耳にそんな声が聞こえた。

「ん? エド、今、何か言ったでしょう?」

「何も言ってねぇ」

絶対、何か言われた気がしたのだが、エギエディルス皇子は知らん顔だ。

莉奈は眉間にシワを寄せたものの、それ以上追及する事はしない。きっと悪口に決まっている。

「星がいっぱいだ」

王妃スライムに寝そべり空を見上げれば、煌々と照る月や星々が見えた。

大きな月に寄り添う小さな月。瞬くたくさんの星。街灯の少ないこの世界では、数多くの星が空一面に輝いている。まさに、満天の星を莉奈は体感していた。

腹が満たされた莉奈が、うつらうつらとしている中、フェリクス王達の和やかムードは終わりを告げる。

「こちらに来る時、キラーアントらしき魔物を見かけましたが……まさか防壁に?」

終始にこやかだったシュゼル皇子が、そう訊いたからだ。

真珠姫の背に乗って来たシュゼル皇子からは、地上は薄暗くてよく見えなかっただろう。だが、あの山間にウジャウジャいる魔物の存在に、シュゼル皇子は気付いていたみたいである。

ただ、目視するには空からでは暗く、分かったのは蟻系という事だけ。近くに寄れば変に刺激しかねないので、それがキラーアントかどうかハッキリと確認出来なかったらしい。

「無謀だっていうのだろう?」

アーリャとてそのくらいは百も承知だ。

しかし、国を守る兵力があまりない為、最終防衛として放置したままだった。確かにリスクは高いが、雑食のキラーアントがいるせいか、今までグルテニア兵も魔物もあまり寄って来ない。

「無謀を通り越して、自滅行為ですよ」

呆れた様にシュゼル皇子は、小さなため息を吐いた。

蟻の魔物は生態も蟻と似ていて、コロニーとも言われる巣は、山や地中などに作られるだけでなく、山の様に堆い蟻塚を建設する事もある。

その巣を潰すとなると、規模が広大なだけに人手や労力が必要だ。しかも、いくら頑張ったところで、すべてを解体させ殲滅させる事など、不可能に近い。

なにせ、蟻の魔物も蟻同様に単体で生活しない生き物だ。その単位は、最低百から最高で億になる。

小さな蟻とて、億もいれば人命を脅かすというのに、魔物はサイズが可愛くない。オマケに雑食というのだから、当然人も餌の一部だ。

「だが、キラーアントの寿命はそんな長くはないだろう?」

シュゼル皇子の言い分も分かるが、アーリャも考えていない訳ではない。

刺激を与えなければ、こちらに向かって来る事もなかったし、人より寿命が短いのは知っていた。だから、キラーアントの寿命が尽きるまで、防壁として利用しようと考えていたのだ。だが、その考えは浅はかだと知る。

「オスはそうですが、女王ともなれば、2、30年は生きますよ」

「「「なっ!」」」

シュゼル皇子がそう言ったからだ。

数年くらいだろうと、勝手に想像していたアーリャ達は絶句である。

様々な国に、魔物の生態を調査する者は多くいるが、調べるのは大抵の場合は攻撃性や特性重視で、寿命など詳しく調査する事は少ない。

……というか、調べ様がないのだ。

人ならば、共に生活している者や周囲の者達がいる。家畜やペットならば、飼い主がいるから分かるだろう。

だが、魔物はそうはいかない。

同個体を何年も観察するのは不可能に近い。例え目印を付けたとしても、どうやって経過観察するのか。もし調査するのであれば、捕まえて飼育でもしてみない限り知る術がないだろう。

「しかも、女王は死ぬまで産卵すると言われていますし、ドンドン増え続けるのではないですかね?」

キラーアントだろうが何だろうが、蟻系の魔物は他の魔物に比べて圧倒的に数が多く、こんな風に放置しておく事はまずない。

ましてや、そんな魔物を経過観察したりしないので、シュゼル皇子とてあくまで想像でしかなかった。

「……一応、間引いてはいた」

モルテグル側からでは刺激しかねないので、反対側から攻撃して数を増やさない様に削っていた。

だが、コロニーの中まで見た訳ではないので、正確な数まで把握していない。

「間引くねぇ」

そのセリフに、フェリクス王が鼻であしらっていた。

間引いて調整していたと言われても、だから何だと言いたいところなのだろう。全貌が明らかですらないのに、調整も何もないのである。

「間引いたところで……と思いますけど」

知り合いの国ではあるが、自国の事ではないので、シュゼル皇子も他人事の様な言い方だ。

どんな事情があろうが、アーリャ達が決めてそうして来たのだから、とやかく言うつもりはないのかもしれない。

「ちょっと、何か言いたい事があるなら、ハッキリ言ってよ」

嫌な予感はするが、思わせぶりな態度の2人に、アーシェスが口を開いた。

正直言って、答えなど考えるまでもなく、頭に浮かんでいる。しかし、どこか否定して欲しい気持ちがあり、思わず訊いてしまったのだ。

そんなアーシェスにフェリクス王とシュゼル皇子は、視線をチラッと合わせていた。