軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

671 ウクスナ公国の記憶に残る日

本来なら、シフォンケーキの型はドーナツ型だし、何なら冷まして食べるお菓子。だが、熱々のシフォンケーキをスプーンで掬い、ハフハフさせながら頬張るのも、ふわっふわのホットケーキみたいで堪らない。

ココット皿の底や周りに、少し焦げついてくっついているのもまた、香ばしくて良い感じのアクセントになっていた。

「俺のシフォンケーキも、キレイに出来たよな?」

「うん。完璧だよ。熱々だから火傷に気を付けてね、エド」

エギエディルス皇子は、自分で作ったシフォンケーキを見て、実に満足気である。

途中参加やお手伝いみたいな事は多々あったけど、一から十まで自分で作ったのは何気に初めてかもしれない。だからこそ、誇らしいのだろう。

「ヘヘッ」と嬉しそうにこちらを見るから、莉奈の頬は緩む。

……エドかわゆす。

エギエディルス皇子は、ナプキンで熱々のココット皿を押さえながら、ニコニコ顔でシフォンケーキをスプーンで掬い食べていた。

表面はサクッと中はふわふわ。熱気と共にふわりと香る甘い匂いが、まるで早く早くと言わんばかりに誘って来る。

莉奈もエギエディルス皇子を見ながら、にこやかに頬張っていた。

「んん〜っ!」

ひと口で幸せが訪れるのも、焼き立てスイーツの醍醐味である。

「「ふわっふわ熱々で、美味しい!!」」

アーシェスとアーリャが仲良く、焼き立てシフォンケーキに舌鼓を打っていた。

もちろんこのままでも美味しいが、ハチミツやバターをのせたら、甘党には堪らない美味しさが口いっぱいに広がるだろう。

だが、今日はハチミツやバターの代わりに"チュネチュネチロックコシピロ・ローリ・ロール"の蜜だ。蜜を味わうためのシフォンケーキである。

莉奈がかけ始めれば、チラチラと見て悩んでいる様子が見えた。

どうやら、まだ好奇心と警戒心が、戦っているみたいだ。

しかし、シュゼル皇子は、シフォンケーキを何口か食べた後、たっぷりと蜜をかけていた。自分で【鑑定】をしていたし、莉奈がすでに味見していた事もあり、なんの躊躇いもないらしい。

焼き立てふわふわのシフォンケーキが、たっぷりの蜜を吸っていく様を見て、さすがの莉奈もドン引きだ。

ハンバーグの肉汁がごとく、シフォンケーキから蜜が溢れている。

「気持ち悪っ!」

血の繋がった兄弟でも、やはりドン引きするみたいで、エギエディルス皇子の眉根にシワが寄っていた。

しかし、エギエディルス皇子も試してみようと考えたらしく、小さなスプーンで少しだけ垂らしている。フェリクス王に至っては、もはや無心だ。

見るのも嫌なのか、視線は夜の空に向けていた。

「んん〜っ! 甘くて美味しい」

「本当だ。ハチミツとも違う甘さが、ウマい」

ハチミツとメイプルシロップの良さを足した様な贅沢な味。

その蜜の甘さに感激したシュゼル皇子とエギエディルス皇子の身体が、ポワンと発光する。

目の前で光った2人を見て、莉奈は苦笑した。

薄暗い夜の元という事もあり、より輝いて見える。自分もきっと、こうやって光っていたのだろう。

ただ、シュゼル皇子に至っては、その笑顔と美貌が相まって"後光"みたいに神々しく見えた。そんなシュゼル皇子を見ていると、何か拝みたくなるから不思議だ。

「「……」」

光った莉奈達を見て、アーシェス兄妹は一瞬、唖然としていたが、安全だと理解したのか、蜜に視線を向けた。

「あらっ、何これ。色はアレだけど……甘くて美味しいわね」

「本当だな。味はハチミツに似ていて、不思議なコクがある」

アーシェス、アーリャ兄妹も蜜をかけて食べれば、たちまちその不思議な甘さと美味しさに目を見張る。

あの気持ちの悪い魔物が持つ玉から、こんなに美味しい蜜が採れるだなんて、想像もしていなかった。しかも、何だか身体が軽くなっていくから、さらに目を見張る。

そして同時に、人も魔物も見た目だけで判断してはダメだなと、その身で知ったのだった。

「おい! 何か光ってるぞ!?」

「は? アーリャ様が……!?」

「光って……!」

「えぇっ!?」

防壁の上でその様子を見ていたモルテグル兵達は、どよめいていた。

何せ、そんな場所にいるアーリャの身を案じ、魔物の気配に気を配っていれば、突如としてアーリャ達がピカッと光ったのだ。光った理由を知らない兵達は、騒然である。

オカシイな今のは気のせいかと、目を擦ったり凝らしたりしてみたが、アーリャ達が再びピカリと光れば、さすがに気のせいだと誰も言わない。

互いに顔を見合わせ、どうなっているのだと、さらにザワザワとする。

「「「どうなっているんだ??」」」

まさか、それが魔物の蜜を口にしたせいだと知らない兵達は、目を見開き呆然としていた。そもそも、この数時間に色々起き過ぎて、頭が冷静になれない。

ヴァルタール皇国の王と王族の来訪。

王竜達の飛来。

初めての魔物肉。

……そして、今、我が国の王が光っている。(物理的に)

きっと、自分達は生涯……この日に起きた事は忘れないだろう。

それほどまでに、モルテグル兵達にとって、今日は衝撃的で超濃厚な1日なのであった。