軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

669 予期せぬ筋肉痛

「あぁぁぁ〜っ」

ボウルに入っている卵白は、あっという間にメレンゲとなったが、手を止めた途端、莉奈の右腕に激痛が走り悶えた。

半端ない運動量を強いられた右腕は、熱を持ちパンパンに腫れていたのだ。そう……いわゆる筋肉痛である。

「お前……バカだろ?」

そんな莉奈を見て、混ぜる手を止めたエギエディルス皇子。

普段からそんな使い方をしていれば別だが、急な運動は筋肉痛になるに決まっている。莉奈の右腕も、それに漏れずに絶賛筋肉痛だ。

「あぁ〜っ、何てこったい!!」

腹筋をした時の筋肉痛など、甘いと感じるくらいに腕が痛い。

揉めば一瞬痛みは和らぐが、マッサージをやめると再び激痛だ。

莉奈は半べそを掻きながら、 魔法鞄(マジックバッグ) をあさる。何かこの激痛を和らげる薬はないのかと。

しかし、探せど探せどそんな物はない。

以前、シュゼル皇子から貰った"エリクサー"はあるが、こんな事ぐらいで使用するのは、さすがの莉奈でも憚られた。瀕死ですら治せる超貴重な魔法薬なのに、筋肉痛ごときで使うのは絶対ありえないだろう。

だが、今すぐにでもこの激痛から逃れたい。

「あぁぁ〜」

莉奈は嘆きながら、ゴソゴソと 魔法鞄(マジックバッグ) をあさりまくった。

低級や高級ポーションはあるが、筋肉痛に効くだなんて聞いた事はない。だが、筋肉痛も筋肉の繊維にダメージがあり、起きる痛みだったハズ。

なら、そのダメージがなくなればイイ訳だから、使ってみるのはアリだ。

しかし、一応、他に何かなかったかとゴソゴソ探す。 魔法鞄(マジックバッグ) の中は魔物だらけだが、その魔物素材の中に、何か効力がある物が混じっている可能性はある。

莉奈は半べそを掻きながら、あさっていると、急にピキンと閃いた。

ターメリック、生姜、トマト、オリーブオイル、ローズマリー……ハーブやスパイス系が炎症を抑える作用があるとか、聞いた覚えがある。

それに、ポーションとか魔法水を混ぜて精製すれば、ピンポイントで筋肉痛に効く薬が出来る様な気がする。莉奈の持つ【 技量(スキル) 】がそう訴えていた。

ーーカン!

「ったぁい!」

「シレッと、魔法薬を作ろうとしてんじゃねぇ」

薬研やポーションまで作業台に並べたところで、莉奈の額に小さな氷の粒が飛んで来た。

フェリクス王が氷魔法で粒を精製し、指で弾いたみたいだ。

「だってぇぇ!」

腕が死ぬほど痛いのだから、仕方がない。

体育や空手の習い事をした時でさえ、こんなに激しい筋肉痛に見舞われた事はなかった。揉めば一瞬和らぐが、ずっと揉んでいる訳にもいかない。

莉奈はあまりの痛さに我を忘れていたのである。

ーージョボジョボジョボ。

「お前、マジでバカだな」

呆れを通り越して、憐れにさえ思ったエギエディルス皇子が、莉奈の右腕に何か液体を掛けてくれた。

ポゥと一瞬光ったと思ったら、あれほど痛かった莉奈の右腕から、スッと痛みが取れる。

「……痛みが取れた。取れたよエドォォ〜ッ!!」

感激のあまり、エギエディルス皇子に抱き付く莉奈。

腕の筋肉が激痛で千切れるかと思った。もう二度と"人力ハンドミキサー"なんてやらない。撹拌中に捩れなかったのが奇跡なくらいである。

「分かったから……分かったから、離れろ!!」

こんな事で抱き付かれると思わなかったエギエディルス皇子は、頬が熟れたトマトの様に真っ赤になっていた。

「ありがとうありがとうありがとう〜!!」

この激痛と、いつまで戦わなくてはいけないのかと考え、ゾッとし始めていた矢先のエギエディルス皇子の優しさ。

もはや、お礼の言葉だけでは足りないくらいだ。

ちなみに、今、エギエディルス皇子が莉奈に掛けてくれたのは、ポーションではなく"消炎鎮痛薬"だそうだ。筋肉痛の痛みと腫れを引かせる"消炎鎮痛"の効果が即時にある魔法薬らしい。

フェリクス王との地獄の特訓により、どうしても筋肉痛で身体中が痛い時、この"消炎鎮痛薬"を使うとの事。

なので、常時持ち歩いているらしく、憐れに思った莉奈にも使ってくれたらしい。しかし、全身筋肉痛になるくらいの特訓って……やはりフェリクス王は、鬼を通り越して魔王だなと思う莉奈なのであった。