軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

658 音痴?

ーー莉奈が横になり、しばらくすると……。

陽がゆっくりと傾いてきた。

山間に沈む夕焼けが、オレンジ色に光っていてスゴく綺麗だ。

しかし、鬼教官もビックリの魔王教官指導の下、あっという間に着いたなと莉奈は、空を見上げながらボンヤリ思う。

そろそろ、ランタンを置いた方がイイだろう。だが、それは後だ。

今はそよそよと心地良い風が吹くこの木陰で、まったり寝ていたい。莉奈はしばしの休憩を取る事にした。

しかし、目を瞑るとすぐに、その隣でカタカタと音がしたので、チラッと見ればーー

寝ている莉奈の側に、エギエディルス皇子はいそいそと椅子を運んでいるのが見えた。一応心配なので、付き添ってくれているみたいだ。

さらにその隣には、エギエディルス皇子の番もちょこんと座っている。自分が原因だと察したのかまでは知らないが、寄り添う姿は中々愛らしい。

心がホッコリとしたところで再び目を瞑れば、今度は何やら変な唄が聞こえてきた。

「みど〜りの山には〜ピロピロピ〜、あおい海には〜クロクロピ〜」

ーーバシッ!!

「静かにしろ」

エギエディルス皇子が、自分の番の頭を叩いていた。

どうやら今の唄は、小竜が歌っていたらしい。

莉奈が具合が悪くて寝ているのに、ピロピロクロクロと訳の分からない唄を歌うなんて最悪だと、叩いたみたいである。

しかも、お世辞にも上手くないのだから、もっと最悪だ。

「えぇぇ〜っ!? 元気になるようにお唄をうたったのに〜」

まさかの小竜なりの気遣いだった。

だが、音痴な上に気になる歌詞では、莉奈はまったく休めないし、むしろツッコミたくて仕方がない。

「ぷっ!」

ダメだ。

莉奈はその変な唄と、エギエディルス皇子とのやり取りが可笑しくて、思わず吹き出してしまった。

「何その唄」

竜が喜んだ時に歌う"歓喜の唄"は聴いた事はあるが、その唄は知らない。どこで教わったのか訊きたいくらいである。

「ふ〜かい海は〜しおしおピ〜、た〜かい山はくさくさチ〜」

莉奈が吹き出した事で元気になったと思ったらしく、小竜はさらに唄を歌う。

「だから、何なんだよ。その唄は」

もはや怒る気がなくなったエギエディルス皇子は、もはや呆れ顔だ。

この唄の何が正解か分からないが、時々音程が外れるのがモヤッとするし、ん? ってなる。一体、どこの誰がこの唄で、元気になるか分からない。

しかし、莉奈が笑っているので、エギエディルス皇子は小竜の好きにさせる事にした。

離れた場所にいるフェリクス王達にも、小竜の唄は聴こえているらしく笑っている。真面目に聴く唄ではないと分かっていても、静かな場所では良く聴こえるため、嫌でも耳に入ってくるらしい。

しかも、不思議と小竜の声は耳の奥に響いてくるので、雑音があってもスッと入ってくる。おそらく、鳥みたいに仲間を呼んだり会話をしたりと、声が遠くまで響く特性なのかもしれない。

「何でしょう……あの唄」

「薄っすい歌詞だけど、そこがイイのかしら?」

「ピーとかチーとか、可愛いな」

音程がたまに外れる唄を聴きながら、ローレン補佐官と、アーシェスやアーリャが何とも言えない顔をしていた。

可愛いのだが、何となくこうだろうと待っている音と違う音が聴こえ、思わず肩がガクリとなる不思議な唄だ。

「そういえば……アイツの"歓喜の唄"も、どっか外れていたな」

竜が自分の番を見つけ、互いに誓約を結ぶと竜達は、口笛に似た歓喜の唄を歌う。エギエディルス皇子が番を迎えた時も、"歓喜の唄"は竜の仲間と一緒に歌われた。

その時に聴いた小竜の歓喜の唄は、微妙に音が外れていた様な気がするなと、フェリクス王は思い出したのである。

「え? 歓喜の唄も音が外れる事があるんですか!?」

「らしいな」

フェリクス王の言葉に、目を丸くさせたローレン補佐官。

竜が番を持ち、初めて歌われるのが"歓喜の唄"。それを何回も聴ける者はほとんどいないだろう。

竜がご機嫌の時にも歌う事もあるが、あれは唄というより"歓喜の声"。

ローレン補佐官も、それですら数える程しか聴いた事はないし、大抵の場合は番が持てた事に感動していて、音程など気にする者はいないだろう。

そもそも、歓喜の唄は"唄"と言われているが歌詞はなく、あくまでもメロディのみだ。だが、音程がある以上、そこに上手くのれない者がいるのかもしれない。

そこは、人も竜も同じなのかと、ローレン補佐官は思うのだった。