作品タイトル不明
647 フェリクス王の憶測
「は? どういう事だ?」
その質問に、怪訝な表情をしたのはアーリャだけではない。
後ろに控えていた護衛2人もである。
その言い方では、まるでアーリャが嘘を吐いていたみたいではないか。主を嘘吐きにされた様に感じたのか、護衛2人の表情が険しくなっていた。
だが、フェリクス王は護衛2人など、チラ見すらしない。
「お前は"それ"を見たのか?」
言い方を変え、フェリクス王は再び訊ねた。
「……見たのかって」
アーシェスとアーリャは顔を見合わせ、護衛2人は眉根の皺を深める。
フェリクス王の意図が、イマイチ理解出来なかったのかもしれない。
「ひょっとして、 魔物暴走(スタンピード) 自体がなかったかもしれないって……事ですか?」
ローレン補佐官が目を見張っていた。
フェリクス王の意味する事は、そういう事。
アーリャ自身の目で確認した訳ではないだろう? と暗に言っているのだ。
「はぁ!? 何を言っているのよ。そんな訳ないじゃない!! 兵まで率いて行っているのよ!?」
アーシェスは思わず、イスから立ち上がっていた。
実際には、アーシェスはすでに国を出ていたので確認していない。だが、両者は兵まで率いて現地に向かった。それは、アーリャの話から事実だろう。なのに、それすら嘘でしたと言うのか。
アーシェスはフェリクス王に、説明を求める様に強く視線を送った。
現地に向かい、もし本当に 魔物暴走(スタンピード) が起きていなかったのであれば、"なかった"と普通は言うだろう。だが、誰もそんな事は言っていないし、訊いた覚えもない。
むしろ、そんな大仰な嘘を吐いたとしたら、誰が何のため?
ないモノを治めたという話は、どこから出た話なのか。
なかったとしたら、何故ホルン王は未だ行方不明なのか。疑問と謎しかなかった。
「……率いてねぇ」
それが何だとフェリクス王は口端を上げ、思わせ振りだ。
だが、それ以上は口を開かないから意地が悪い。
「「フェリクス」」
アーシェスとアーリャの声がハモる。
何か知っているなら教えて欲しいと、懇願している様子が伺えた。
しかし、フェリクス王は何も言わない。おそらく、彼の頭には、おおよその答えが出ているのか、至極面倒くさそうな表情をしている。
もはや、関わりたくないと、イスに凭れ掛かりやれやれという感じだ。
「 魔物暴走(スタンピード) 自体がなかった?」
ローレン補佐官は、自身で答えを見出そうとしているのか、ブツブツと呟いていた。
「そんな事あるのかな?」
莉奈も少し考えてみたけど、フェリクス王の言わんとしている事は分からない。
魔物暴走(スタンピード) を治めに行っているのは確かだし、自然消滅する事でもあるのだろうか?
フェリクス王に答えを求めるのではなく、自分達の頭で皆が考え始めた時、フェリクス王は緑色の竜に向かって指笛を吹いた。
……だが、眠っているのか返事はない。
舌打ちを1つして、フェリクス王がゆっくりイスを引けばーー
「ちょっ、ちょ、起きてる! 起きてまーす!!」
途端に、緑の竜が慌てた様子で起き上がっていた。
目を瞑っていただけで、寝ていなかったらしい。
一度は無視を決めた竜だったが、フェリクス王の殺気を感じ、さすがに慌てた様であった。デカい図体して、あわあわしている姿が何だか笑える。
「あ、穴を掘ればイイですか? 穴を!!」
しかも、相当テンパッているのか寝惚けているのか、緑の竜は訳の分からない事を言っていた。誰も穴を掘れだなんて頼んでない。
「何だよ、穴って」
エギエディルス皇子が失笑している。
誰が何のために、ここに穴を掘れと言うのか、あの竜といると緊張感が吹き飛ぶから、不思議な竜だ。
フェリクス王も、怒る気になれないのか呆れている。