作品タイトル不明
642 魔法鞄《マジックバッグ》
「「「え?」」」
「魔法鞄の容量」
思わず二度聞きしたランデル達。
フェリクス王に、魔法鞄の容量を訊かれるとは思わなかったのだ。
「えっと……皆、3ルーンですかね」
唐突な質問に戸惑ったが、確かそのくらいだったなとハービスが答えた。
「少ねぇな」
とはエギエディルス皇子。
エギエディルス皇子曰く、3ルーンとは少ないらしい。それを聞いて驚愕の反応を示したのは、ランデル達である。
「「「いやいや、大きい方ですって!!」」」
エギエディルス皇子は小さいと言っていたが、ランデル達に言わせたら大きい方みたいだった。
おそらく、王族の所持している魔法鞄と比べられたら、誰のでも小さいのかもしれない。
とはいえ、"ルーン"という単位はどのくらいなのだろう?
「"ルーン"とは、 魔法鞄(マジックバッグ) 特有の単位で、1ルーンは大体1立方メートルくらいの許容量ですよ」
「なるほど?」
「1ルーン上がるごとに、縦横高さが1m増えますので、2ルーンは8立方メートルくらいですね」
首を傾げていた莉奈に、ローレン補佐官が簡単に説明してくれた。
となると、1ルーンは縦1m×横1m×高さ1mの箱くらい。
魔法鞄(マジックバッグ) の中はあくまでも空間なので歪む。なので、厳密な許容量とは多少の誤差があるものの、1ルーンはおおよそ畳一畳弱くらいの空間収納。
ちょっと大きな家庭用の冷蔵庫くらいの容量。
なら、ランデル達の3ルーンは3m×3m×3mだから、27立方メートル。天井がちょっと高い六畳くらいの収納力かなと、莉奈は推測した。
「あぁ、なら、魔物を丸ごとなんて無理ですね」
3ルーンだとしても、魔物をそのまま丸ごとポイポイ入れてたら、あっという間に満杯だ。そんなランデル達に頼むだなんて、そもそもが無理な話であった。
莉奈の 魔法鞄(マジックバッグ) もエギエディルス皇子同様、シュゼル皇子作製の特別仕様なので、規格外の容量である。
その規格外を普段使いしている莉奈には、世間とやらの感覚が麻痺していたらしい。
「ちなみに1ルーンの 魔法鞄(マジックバッグ) は、大体どこも100万ギルくらいで貸し出しされていますね」
「え、高っ!!」
ヴァルタール皇国の物価も、大体日本と同じ感覚だから、100万くらいである。たった一畳分の収納が100万とか、アホみたいに高い。
だけど、そこに物を入れれば、旅の邪魔にならないのは便利だ。
ただ便利な分、犯罪に使われる様な話を聞いた覚えがある。だから、簡単に手に入らない値段なのかなと思う。
そして、あまり考えたくないけど……莉奈の所持している 魔法鞄(マジックバッグ) を普通に買うなら、軽く億の値段が付きそうだ。なにせ、莉奈が住んでいる 碧月宮(へきげつきゅう) が丸っと入るのだから。
そう思ったら、 魔法鞄(マジックバッグ) を持っているのが怖くなってきた。
話を訊いていた莉奈が表情を失くしたのを見て、エギエディルス皇子が意地悪そうに言う。
「なくすなよ?」
「ソウデスネ」
失くしたらだなんて、考えたくもない。お小言レベルでは済まないだろう。
大事に使っていたつもりだけど、さらに大切に扱おうと心に留めておく。
「木の実もそれじゃあ、大して入らねぇな」
そう言って顎をひと撫でしたフェリクス王。
アルコービヴィードが、どのくらい実を生らせているのか知らないが、大量の酒を造るにはそれなりの量が必要だ。
おまけに莉奈の言う通り、アルコービヴィードを探している時に、関係ない魔物に襲われ仕方なく狩る事もある。
せっかく狩ったそれを、捨てざる得ないとなるのはもったいない。
「ランデル、 魔法鞄(マジックバッグ) を少し貸せ」
「え?」
突然の事で不思議に思ったが、ランデルは腰に付けていたウエストポーチみたいな 魔法鞄(マジックバッグ) を外し、素直にフェリクス王に手渡す。
普段、他の人には絶対に渡さないが、フェリクス王なら別だ。
フェリクス王は手渡されたその魔法鞄を、テーブルの空いているスペースに置いた。
「こういうのはシュゼルの方が得意なんだが」
フェリクス王は小さくボヤキながら、その魔法鞄の蓋を開け、内側に右手を差し込む。
その差し込んだ手に力を込めれば、途端に静電気みたいな音がバチバチとし始め、魔法鞄の内側が数秒青白く発光した。
「「「え?」」」
ランデル達は、フェリクス王が何をして何が起きたのか分からず、目を見張る。
こんな魔法の使い方は見た事がなく、何が何だか分からない。
「まぁ、こんなものか」
「うわ、え、あ?」
そう言うが早いか、フェリクス王はまだ驚いているランデルに、魔法鞄を放って返す。
それを見ていた莉奈も分からないが、エギエディルス皇子とローレン補佐官だけは分かっていたみたいだった。
「どのくらいにしてあげたんですか?」
「10」
ローレン補佐官がそう訊ねれば、フェリクス王がサラッと答えていた。
その会話を聞いた瞬間、ランデル達が目を見開き、口をコレでもかというくらいにアングリと開く。
何をしていたのかと思えば、 魔法鞄(マジックバッグ) の容量値を上げてくれたらしい。
しかも、六畳くらいしかなかった容量が、一気に3階建のアパートが入るくらいのサイズだ。ランデル達は、喜びと驚きの表情で顔を見合わせていた。
魔法鞄(マジックバッグ) の作り方など、ランデル達は知らないし、見た事もない。それが、今、自分達の目の前で行われたのだ。
凄いとか感嘆とか、そういう簡単に表現出来るレベルではない。
人は凄過ぎる事が起きると、言葉を失くすのだとランデル達は初めて知ったのであった。
「あ、う」
お礼だ、お礼を言わなくてはと思うが、衝撃過ぎて頭が思う様に働かない。何故だか知らないけど、感動で涙が出てきそうだ。
「大盤振る舞いですね」
「リナのおつかいもあるしな」
もはや、莉奈のおつかいも確定らしい。
それを訊いていたエギエディルス皇子が、呆れていた。
フェリクス王が頼んだ木の実は一個でもないし、莉奈のお願いする魔物も一匹な訳がない。
すぐにキャパオーバーになると安易に想像出来たので、フェリクス王は容量を増やしてあげた……という事だった。
「あり、ありがとうございます!!」
容量を増やして貰ったランデルは、頭が地に着くのではないかというくらいに、頭を下げていた。
「数ヶ月しか保たねぇから注意しろ」
ゴリ押しで上げたので、内側に焼き付けた魔法陣が薄くなってきたら、元の容量に戻るそうだ。
しかし、期間限定にしろ何にしろ、そこまでしてくれるなんてラッキーどころの騒ぎではない。驚きと感動で、ランデル達は胸が熱くなる程だった。
「ありがとうございます!!」
ランデルはフェリクス王がもうイイと言うまで、何度もお礼を口にして頭を下げていた。
おそらくランデル達にとって、この旅は色々な意味で、一生忘れられない思い出になったに違いない。