作品タイトル不明
617 嵐の後の小さな幸せ
「どうでもイイけど、それ食べられるのかよ?」
莉奈は嬉々として回収しているが、それが本当に食べられるかどうかは、莉奈しか分からない。
一応【鑑定】してからにしろよと、エギエディルス皇子は呆れてその様子を見ていた。
【ウルッシュバード】
主にグルテニアやウクスナの草原や砂漠に生息。
繁殖期近くになると、大きな群れを作る事が多い。
ウルッシュポッドの実が大好物で、その周辺を縄張りにしている。
〈用途〉
羽根は装飾品に使用可。
極稀に、風の魔石を持つ個体がいる。
〈その他〉
食用である。
独特の香りがあるのが特徴。
親鳥より雛鳥の方が、肉質も柔らかく香りが少ない。
「う〜ん、食べられるみたいだけど、何かちょっとクセがあるみたいだね」
エギエディルス皇子に言われたので【鑑定】して視たら、独特の香りがあると表記されていた。
その独特というのが、莉奈もどんな感じか想像出来ない。
肉質も鴨肉っぽいのなら、からあげには向いてなさそうだし、ボア・ランナーみたいに獣臭いとなると、エギエディルス皇子とシュゼル皇子は苦手な部類だ。
お酒や牛乳で臭みが取れたとしても、お酒を使ったらブーイングが起きるに違いない。
「なら、捨てとけ」
それを訊いたエギエディルス皇子が、吐き捨てる様に言った。
莉奈が"クセ"があるなんて言ったものだから、一気に興味が失せたらしい。
「えぇぇーーっ!? 何言ってるの? 食べられるんだから食べようよ!!」
「マズイならいらねぇだろ」
「いやいやいや、マズイなんて一言も表記されてないし、"独特の香り"があるだけだから!!」
「……」
莉奈が必死にアピールしても、エギエディルス皇子には何も響かないのか、胡散臭げな目で莉奈を見ていた。
他にも食材はあるのだから、コレを無理して食べる必要はどこにもない。なのに、スライムといい莉奈は何故食おうとするのか、エギエディルス皇子には理解出来なかった。
そんな会話を聞いていた旅人達は、唖然である。
まさか、魔物を食べる食べないで揉める者がいるなんて、想像すらしていなかったのだ。
「俺は食わねぇからな?」
と念を押すエギエディルス皇子に、莉奈は苦笑いである。
「はいはい、分かりましたよ」
別に無理矢理食べて貰う気はない。
食事は楽しく美味しくが一番だからね。
莉奈は転がっていたウルッシュバードを回収し終えると、改めて旅人達にお礼を言った。
なんだかんだで、10羽近く集まったのだ。
エギエディルス皇子みたいに好みの問題もあるから、多くも少なくもなく量的にはちょうどイイだろう。
さて戻るかと踵を返した莉奈は、そうだと思い付く。
「あ、良かったらロックバードのからあげをどうぞ」
鳥の魔物を貰ったお返しに、鳥の魔物ロックバードのからあげ串を数本、紙に包んで渡す事にした莉奈。
ロックバードはボア・ランナーとは違い、クセもなく美味しい魔物。そのからあげは、王宮でも一二を争うくらい人気の料理だから、食べて貰えれば気に入るハズ。
「「からあげ?」」
莉奈の言葉に生返事を返しつつ、手に取ったが反応は薄かった。
聞いた事はあるが、実際に食べた事はないのかもしれない。
「では、失礼します」
そんな旅人達に断りを入れ、莉奈は向きを変える。
用は終わったのだ。ならば、これ以上フェリクス王達を待たせておけないと、莉奈はエギエディルス皇子と一緒に走り去るのであった。
莉奈とエギエディルス皇子が、ものスゴい勢いで小さくなるのを見つつ、旅人達は呟く。
「からあげだって」
「あの子、 魔法鞄(マジックバッグ) 持ってたな」
「しかも、容量がかなりデカイ」
「からあげ、イイ匂いがする」
「そういや、ロックバードとか言ってなかったか?」
「言ってた気がする」
「【鑑定】もしてなかったか?」
「してた」
色々な事がいっぺんにあり過ぎて、イマイチ会話が噛み合っていない旅人達。
「「……」」
まさに嵐の様な莉奈が去ると、手に持つ物の熱をジンワリ感じた。
先程、莉奈がくれたからあげは熱々らしく、紙越しにもホカホカと手に熱が伝わってくる。しかも、揚げ物特有の香ばしい匂いが、ふわりと鼻を擽ぐってくるものだから、誰とは言わず自然と口から涎が溢れていた。
長旅で碌に休んでいない上に、満足出来る程食ってはおらず、腹が減っていたから余計だ。
莉奈が"ロックバード"と言っていたのは、ものスゴく気になる……が、香ばしい匂いと、この揚げたて熱々の感触の前に吹き飛んだ。
ちょっとだけ見てみるかと、ゆっくりゆっくり包み紙を開ければ、温かい湯気と共にやたら香ばしい匂いが、鼻腔をこれでもかと襲撃して来るではないか。
ーーゴクリ。
旅人達の喉が無意識のうちに動いた。
喉が、腹が、全身が、食べろと雄叫びを上げている。
頭のどこかで、コレは"ロックバード"だぞ? と言っている気もするが、この誘惑に勝るものはない。誰も止めないのだから、手は自然とからあげ串に伸びていた。
当然の様に串を手に持ち一口頬張れば、まずは歯にあたるカリッカリの食感と程よい塩味。その塩分は、疲れた身体に沁みに沁みる。もはや、この衣だけで涙が出そうな程に。
その味に魔物肉への抵抗などスッカリ吹き飛び、勢いよく噛めば、途端に溢れ出す極上の旨味。噛めば噛む程に、口一杯に広がる鳥、鳥、鳥の出汁だ。
そして、鼻の内側からは、香ばしい匂いが支配していた。
その香りさえも逃したくない旅人達2人は、互いに無言だ。
「美味しい」と口には出さなくとも、チラッと見るだけで2人の心は通じ合う。
何故なら2人は今、幸せいっぱいの表情をしているのだから。
旅人達は互いに無言、だが心はしっかりと通じ合い、疲れた身体を癒すかの様に、さらにからあげを頬張るのであった。