作品タイトル不明
614 チャンス到来?
「どうするの?」
魔物を食べ物として見ている莉奈はさておき、フェリクス王はそんなつもりで見ていた訳ではないだろう。
無視出来るのに無視しなかったのだから、手助けくらいするつもりなのかとアーシェスは考えた。
「あの数ですし、手こずってそうな感じですよね」
距離がある上に、ウルッシュバードが起こす土煙でハッキリとは分からないが、あの数である。
今戦っているだろう者達の戦闘能力が相当高くなければ、時間と労力はかなり掛かりそうだなとローレンは思う。
手を貸すのか否かと、フェリクス王を見ればーー
遠くの土煙を見据え、対魔物用の三日月刀を手にしていた。
「リナ、下がってろ」
その姿を見て、兄王が何をするつもりか察したエギエディルス皇子は、近くにいた莉奈を庇うかの様に自分の背に……。
そんなエギエディルス皇子が、カッコ可愛い。
普段、 莉奈(リナ) を女扱いなんてしないのに、なんだかんだと庇ってくれるエギエディルス皇子に、莉奈はちょっとキュンとする。
弟みたいなエギエディルス皇子の小さな背が、急に逞しく感じて、無性にその背を抱き締めたい気分になった。
まぁ、抱き締めたら怒られそうだけど。
莉奈が煩悩と戦っていれば、フェリクス王は軽く腰を落とし、構えていた三日月刀を地面に突き立てた。
ーーブワッ!!
「うっわ!?」
その瞬時、フェリクス王を中心に円を描く様に、強烈な風圧が掛かった。
エギエディルス皇子が庇ってくれていなければ、莉奈は後ろにひっくり返っていたかもしれない。現にマリサは、尻もちをついていた。
アーシェスは咄嗟にローレンにしがみ付いていたけど。
後ろでさえこの風圧ならば、前は? と莉奈が見ればーー
あんなに遠くに舞っていた土煙も消え、その代わりに凍った様に動かないウルッシュバードの姿が見えた。
遠目でよく見えないが、もの凄い形相でこちらを見ている気がする。
おそらく、フェリクス王は滅殺するつもりで刀を突き立てた訳ではなく、威圧したのだろう。それにより、魔王の存在を思い出したウルッシュバードは、あまりの怖さに竦んでいる様に見えた。
"恐慌"という言葉を、間近に感じる日が来るとは……。
「魔王様、バンザーイ」
ーードス!
「痛っ!」
あまりのスゴさに思わず両手を挙げた莉奈の頭には、フェリクス王の手刀が落ちた。
ランデル達でさえその威圧感に驚愕し、ウルッシュバードみたいに固まっていた……というのに、莉奈は常に平常運転。
だが、そのおかげで極度の緊張が解けたのだから、何も言えない。
「あのねぇ、何かするならするって言いなさいよ!」
緊張が解けてすぐ、文句を言ったのはアーシェスだ。
刀を構えたから分かったものの、何か一言あってもイイだろう。アーシェスはそう抗議していたが、フェリクス王には何も響かずシレッとしている。
「人がいますね」
同じく抗議しているアーシェスを気にしないローレン補佐官。
先程まで土煙がスゴくて見えなかったウルッシュバードの群れの中に、フェリクス王の言っていた通り、薄っすらと人影が見えてきたのだ。
だけど、その人影も何だか固まっている気がする。
ウルッシュバードが威圧されたのだから、そこにいた人達も同様で威圧感を肌で感じ、竦んでいるのかもしれない。
この距離で、魔物や人を震え上がらせるなんて……やはり魔王ではないか。フェリクス王が敵でなくて良かったと、莉奈はつくづく思う。
そんな事を考えながら、ウルッシュバードを遠目で見ていた莉奈だったが、すぐに切り替わりピキンと頭に閃いた。
「ねぇ、今の内じゃない!?」
「あ゛? 何が?」
莉奈の真ん前にいたエギエディルス皇子は、背後から聞こえた莉奈の呟きに怪訝そうな表情する。
莉奈が突拍子のない事を言うのはいつもだが、それが常にイイ話とは限らない。
莉奈の表情は爛々としているのが、余計に怖かった。
「だって、さっき取り逃したウルッシュバードが、フリーズしてるんだよ?」
「……だから?」
「狩り取りチャンスだよ!! エド」
「「「…………は??」」」
"狩り取りチャンス"とは?
莉奈が何を言っているのか、まったく分からない。
莉奈の言葉を理解するのに、皆はしばらく時間が必要だった。
「行って来い」
そんな中、瞬時に理解したフェリクス王は、ため息混じりに遠方を目で示す。
莉奈が"何"を考えているのか分かった様だ。
「いってきま〜す!!」
フェリクス王が言うが早いか、 魔法鞄(マジックバッグ) にしまっていた豪神ナックルダスターを装着し、楽しそうに走り出していた。
そう、固まって動かないウルッシュバードに向かって……。