作品タイトル不明
608 そのまま
"魔物=食べられるか食べられないか"
それがたとえ、どんな状況下であろうが、莉奈の脳内構図は微塵も変わらない。そのブレない精神に、フェリクス王達は呆れてはいたものの、どこか尊敬の念すら抱いてしまいそうだった。
「リナと一緒にいると、魔物に対する概念がおかしくなりそうだわ」
魔物=素材としか考えた事がなかったアーシェスにとって、魔物=可食で結び付ける莉奈の発想は、毎回驚きの連続である。
「でもちょっと食べたくなるから……不思議で怖い」
「なのよねぇ」
莉奈の料理への情熱と説明が、何故か妙に惹きつけられワクワクする。
ローレン補佐官は、蟻の魔物の腹部に蜜があるかどうかなんて、考えた事もない。
……が、莉奈に言われると興味がニョキリと湧く。
アーシェスも思わず頷いていた。
「キラーアントの腹に蜜なんてあったっけ?」
「知らねぇ」
エギエディルス皇子が首を傾げていれば、フェリクス王は興味なさそうに遠くの山を見ていた。
硬い皮膚や触角など、外側は素材として需要はあるが、内側……いわゆる内臓など需要はなく、当然莉奈みたいに可食で考える者はいない。
なので、腹部に蜜がどうこうなど、誰も考えた事もないだろう。
「いたら、シュゼル殿……さんの、お土産にしよう」
「「……」」
莉奈がそう提案したら、フェリクス王兄弟が眉根を寄せてこちらを見た。
"お前は討伐する気でいるのか?"である。
蟻系の魔物は数体でいる事が少ないため、倒せる倒せないではなく、面倒くさいのだ。だから、大抵の場合は向かって来ない限りはスルーする。
なのに、莉奈は戦う方向で話をしていた。
「え? だって、"甘い"んですよ?」
さも当然の様に莉奈が返せば、2人はさらに微妙な表情で顔を見合わせていた。
確かにシュゼル皇子は、甘い物が好きである。
……あるが、"蟻の腹部"に貯めている蜜まで、食べるかどうかは別だ。
「甘いかもしれないけど……蟻だろ?」
その個体がいたとして、シュゼル皇子が食べるかなと、エギエディルス皇子が眉根の皺を深めていた。
しかし、その隣では、意地悪そうに口端を上げた兄王が……。
「だが"甘い物"には違いねぇな」
いたら土産に持って帰ってやろうと、フェリクス王はクツクツと笑っていた。
シュゼル皇子が、その蟻の蜜にどういう反応をするか、想像しているみたいだ。
「……」
面白がる兄王に、エギエディルス皇子は若干ドン引きである。
エギエディルス皇子的には、しなくていい討伐は避けたい。
なのに、莉奈のせいで兄王まで面白がり始めてしまった。
となれば、戦闘は避けられないではないか。エギエディルス皇子は、ガックリと肩を落とすのであった。
「あ」
そんなエギエディルス皇子の心情など露知らず、莉奈がまた何か思い出した様な声を上げる。
今度は何だという表情の中、莉奈はランデル達に訊いた。
「そういえばさっき言ってた"クレイジーモンキー"って何ですか?」
直訳すれば"イカれた猿"である。
だけど、クレイジーモンキーが"言ってた"というのが気になる。人の言葉を話す魔物でもいるのだろうか?
莉奈は気になったのである。
「あぁ、冒険者のパーティ名よ」
と教えてくれたのはマリサだった。
別に付けなくても問題ないが、団体で活動するにはあった方が便利らしく、大抵の冒険者パーティは名前を付けるそうだ。
一度冒険者ギルドで登録してしまえば、依頼をする方もパーティ名でお願いすれば簡単だし、冒険者ギルドの作業も減少する。
しかも、リーダーを決めておけば、問題が起きた時にも対処しやすいらしく、冒険者ギルドや依頼者の信頼は厚くなるとか。
まぁ、逆にリーダーがしっかりしていないと、揉め事も多いみたいだった。
「なるほど」
莉奈は簡単な説明を聞いて、頷いていた。
学校もクラス別であるからこそ、統率も取りやすいし何かあった時に対処しやすい。納得である。
しかし、冒険者のパーティ名はどうして、厨二病的なのが多いのだろう?
と莉奈は考えつつも、仕方がないのかなと同時に納得した。
"第一パーティ"とか"〜町の冒険者"ではカッコ悪いし気分が乗らない。どこかの師団長みたいに、食べ物の名前なんて付けるのは論外だ。絶対萎える。
なら、ちょっと恥ずかしいけど、カッコイイ名前の方が気分も上がるだろう。
と考えていて、莉奈はフと思う。
ランデル達のパーティ名は何だろう? と。
「ちなみに、ランデルさん達のパーティ名は何ですか?」
「「「" 幼馴染(オサナナジミー) ズ"」」」
「「「……」」」
満面の笑顔でそう教えてくれたランデル達を見て、莉奈どころかフェリクス王達も目が一文字だった。
それを一言で表せば、何も言えないである。