軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

602 フェリクス王を止めるには?

「仕方ない」

アーシェスにとやかく言われたところで、簡単に折れるフェリクス王ではない。

しかし、エギエディルス皇子に止められる術はない。

ローレン補佐官は、フェリクス王が魔物と戦う姿を見たいので、微塵も止める気配はない。

そして、ランデル達など、もはや言える立場ですらない。

ナイナイ尽くしでどうしようもないなと、莉奈は強行手段に移る事にした。

いつまでも魔物を呼ぶ餌がそこにあれば、マルガイラみたいに血の匂いに気付き、集まって来てしまう。そして、莉奈達という生き餌に気付き、歓喜するかもしれない。

ならば、早々に片付けるのがベストである。

莉奈は魔法鞄をゴソゴソとあさり、厚手の鍋つかみを両手に装着した。

まだ揉めている(アーシェスが一方的に文句を言っているだけで、フェリクス王は相手にしていない)2人の横を通り、莉奈はキラーホーンエイプの死骸に歩み寄る。

皮の剥がれた死骸は、正直言って赤黒くて気持ち悪い。

だが、よく考えてみれば、スーパーで売っている肉も、羽根を毟ったり皮を剥いだりした動物の死骸では?

丸々原形のまま、地面にデンと置かれているから気になる訳で、コレだって切られてパックに入っていたら気にならない……ハズ。

うん、そうだ、きっとそうに違いない。

コレはスーパーに売られる前の状態だ。そう思い込む事にした莉奈は、何も考えない様にしてキラーホーンエイプの死骸をしまった。

そして、今度は鍋つかみから"豪神ナックルダスター"に変え、近くにあった大きな岩の前に立ち、腰を軽く落とす。

左足に重心を傾け、右足に全神経を意識を集中させると、右足を思いっきり後ろに引き、その岩に向かって力任せに蹴りを入れたのであった。

ーードゴン!!

気持ちの良い重厚音が大草原に響く。

「「え?」」

「あ゛?」

突然の音に、言い合いをしていたフェリクス王も、ランデル達同様に目を見張る。

何事かと音のした方向を見れば、莉奈の綺麗な蹴り技のフォームと、何かが遠くに飛んで行く放物線がチラッと見えた。

それは、莉奈が蹴り飛ばした大きな岩である。

完全補正されたナックルダスターを身に着けた莉奈は、まるで"シュゼル・スペシャル"を飲んだ様に無双状態だった。

そんな莉奈が動かない岩を蹴り飛ばすのは、サッカーボールを蹴る様なものだ。

「「「……」」」

アーシェスと揉めていたフェリクス王でさえ、莉奈の想定外の行動に唖然としていた。

まさか、莉奈が"岩"を遠くに蹴ると誰が想像出来る。

しかし、それは、魔物でも同じ。

血の匂いに気付いた魔物達は、 獲物(エサ) だと喜び勇んで近付いて来たものの、突然の異様な音にビクリと身を震わせ、"ヤバいヤツがいる"と瞬時に判断し、慌てて方向を急転換する姿があった。

空を徘徊していたマルガイラなど、莉奈に蹴り飛ばされた岩が鼻先に掠めたため絶句し、異様な鳴き声を上げ去って行くではないか。

それと入れ替わる様に、遠くの方では聴いた事のない魔物の奇声と、騒ぐ気配を感じた。

おそらく、血の気配に寄って来た魔物の上に、莉奈の蹴り飛ばした岩がドスンと落ちて来たのだろう。

突然、空から岩が降って来た事で意気消沈でもしたのか、しばらくして土煙りと共に気配が消えた。

ーーそして、辺りは驚くほどに静まり返ったのであった。

「さて、ウクスナの首都モルテグルに向かいましょうか!」

魔物がいなくなり、莉奈はスッキリ晴れ晴れした気分だ。

パンパンと軽く埃を叩きつつ、莉奈は爽やかな笑顔を皆に向ければ……フェリクス王ですら、もう何も言う事はなかった。

◇◇◇

誰もが何も言わずに歩く事、1時間。

「魔物の気配どころか、動物の気配すらないわね」と呟いたのはアーシェスだ。

通常、大草原は魔物に見つかりやすい。

何故なら、隠れる場所が少ないからだ。そのため空からは当然、地からも目視されやすいが、目視されやすいという事は、こちらも目視しやすいという利点もある。

さらに言えば、木や茂みの多い森と違い、草原は隠れる場所が少ないため、魔物が来る前に戦闘体勢が整えられる。

ただ、逃げ場がないのは不利といえば不利か。

まぁしかし、今はそんな事を考える必要すらないだろう。

なにせ、ここには世界最強で最恐の魔王様がいる。

そして、莉奈のイレギュラーのおかげで、魔物の気配もスッカリなくなった。もはや、ここはただの散策路の様である。

時折り、小動物がこちらを見て、慌てて逃げる姿があるくらいで、空に鳥一羽すら見かけない。耳が痛いくらいに静か過ぎて、逆に怖いくらいだった。

「ん〜、のどかだね」

皆がそんな事を考えていたのだが、莉奈は暢気に両腕を上げ、伸びをした。

空を見上げれば、澄み切った青空が広がっている。魔物や獣がいない平穏な旅で大満足だ。

「いや、普通に不気味だろ」

皆の心を代弁するかの様に、エギエディルス皇子がツッコミを入れていた。

魔物がいて当たり前の場所に、気配すらなくなったのだ。

のどかではなく、むしろ不気味である。

そのおかしさを現在進行形で感じているのが、後方にいるランデルパーティだった。

「なんか、すげぇパーティに 出会(でくわ) したのかもしれないな」

思わずボヤいたのが、ランデルである。

莉奈の飯目当てで、軽い気持ちで付いて来たが、飯以上に驚愕する事ばかりだ。一応本気で莉奈を守るつもりでいたのだが、彼女を何から守ればイイのか分からない。

フェリクス王など規格外過ぎて、逆に邪魔にならない様にするだけ。

もはや守るつもりが、守られている気さえする。

それなりに強いとランデル達は自負していたが、それは自信過剰だったと思い知らされていた。

「ちょっと拝んでおこうかな」

そう言って、先を歩く莉奈の背に両手を合わせたのはマリサだ。

過去に色々なパーティと出会ってきたが、こんな不思議で最強のパーティはもう会う事はないだろう。

何だか分からないが、拝んでおいて損はないと考えたみたいである。

「なるほど、俺も拝んどこ」

「じゃ、俺も」

何となくマリサの行動を理解したハービスも手を合わせれば、ランデルもとりあえず自分も拝んどこうと真似ていた。

側から見ればおかしな構図である。

「「……」」

その様子を、少し離れたところから見ていたアーシェスとローレン補佐官は、顔を見合わせて苦笑いしていた。

神でも聖女でもない、ただの(?)女の子に手を合わせる変なパーティだなと。