作品タイトル不明
597 突然の土砂降り?
「腹がいっぱいになると、眠くなるな」
莉奈が出しておいた王子スライムの上に、ポフンと横になっているエギエディルス皇子。
昨日の今日。しかも、早朝も早朝から歩きっぱなしだ。エギエディルス皇子は、自分でも分からないくらいに、疲れていた。
「1時間の休憩だ。少し寝ろ」
魔王は魔王なりに、幼い弟を労っているみたいだった。
傷を治すポーションがある世界だから、疲労回復薬もありそうだけど……そういう物はギリギリまで使わせないのだろう。
何でもかんでも、すぐに魔法に頼らないフェリクス王らしい。いつまでもあるか分からない魔法より、己に力をつけろという事なのだ。
「ん〜寝る」
負けん気の強いエギエディルス皇子には珍しく、素直な返事だった。
それほどまでに疲れている証拠だ。
エギエディルス皇子が時間通りに、起きなかったら起きなかったで、フェリクス王の事だから背負って連れて行きそうだ。
「しかし、この木は本当に大きいなあぁ」
莉奈もエギエディルス皇子の隣に、王妃スライムを 魔法鞄(マジックバッグ) から取り出し、その上にゴロンと寝そべり木を見ていた。
見れば見るほどに大きなウルッシュポッドは、よく見たら数センチくらいのドングリみたいな実が、鈴なりに生っていた。
【ウルッシュポッドの実】
2年に1度、生る果実。
一部を 殻斗(かくと) に覆われた堅果である。
ウルッシュと名が付く様に、ウルッシュバードが好んで食べる。
〈用途〉
アクや渋みが少なく、殻や薄皮を剥いた実や種子は生でも食べられる。
炒ると香ばしさが増して美味しい。
一晩浸水させ軽く煮た後、乾燥させ粉にすると料理に使える。
〈その他〉
食用である。
米麹や砂糖などと合わせると焼酎が出来る。
「まさかの焼酎」
寝そべりながら、その実を【鑑定】して視たら、食用どころかお酒が出来るみたいだった。
色んな物からお酒が出来るんだなぁと、莉奈が暢気に思っていればーー
「なんだって?」
「う、わ」
莉奈の視界が、突然フェリクス王に変わった。
「な、な、な」
何ですか? と言う言葉が、驚き過ぎて口から出ない。
「"焼酎"がなんだって?」
「え? あ」
そうだ。"焼酎"だ。
軽い気持ちで、ウルッシュポッドの実を【鑑定】したら、焼酎が出来るなんて表示されたものだから、つい呟いてしまったらしい。
フェリクス王が来たのは、そういう訳か。
シュゼル皇子にしろ、フェリクス王にしろ、本当に地獄耳だ。
「リナ」
しかし、寝そべっているところを上から見られると、何だか無性に恥ずかしい。被る布団を出していないので、莉奈は顔を手で覆い、横を向いて丸くなるしかなかった。
「おい」
だが、フェリクス王に、莉奈の恥ずかしさなど伝わる訳がない。
質問に対する答えを待っている。
「その木の実を加工すると、焼酎が出来るらしいですよ!!」
フェリクス王に見られると恥ずかしいので、莉奈はどっかに行って欲しいと願いつつ投げやりみたいに叫んだ。
「ほぉ」
途端にフェリクス王の目がキラリと光った。
コレでも色々な酒を試したつもりだ。だが、まだまだ知らない酒があると知り、心が躍る。
ランデル達も寛ぐ体勢に入り、アーシェスとローレン補佐官は疲れた身体を、ストレッチしたりと軽く解していた。
皆が寛ぎ始めた中、フェリクス王はイイ事を訊いたと口端を上げ、太い幹へと歩み寄る。
ウルッシュポッドは、今が最盛期なのかどこを見ても、プクリとした実がたくさん生っていた。
その重みで、枝が少し垂れ下がっている箇所がある程に。
フェリクス王が何をするのかなと、莉奈が見ていればーー
ーードカッ!!
おもむろにドカンと蹴ったではないか。
それも、数え切れないくらいの実が生っているウルッシュポッドの幹に向かって一撃だ。
その瞬間、大型トラックのタイヤ周りより太い幹が、ブルリと震えた。
バサバサ、ザザーーーーッ!!
フェリクス王の蹴りを食らったウルッシュポッドは、その振動に耐えられず、ゲリラ雷雨か土砂降りかというくらい一斉に、地面や莉奈達の身体に木の実を降り落とし始めたではないか。
「んぎゃーーーーっ!?」
あまりの数と痛さに、莉奈は慌てて頭を抱え、丸くなるのが精一杯だった。
これぞまさに、数の暴力である。硬い木の実が頭や身体に、大量の雨……いや、雹がごとく降り注いで来るのだ。痛いなんてものではない。
「「「ギャーッ!?」」」
もちろん、降り注いで来たのは莉奈だけではない。
まさにこれから寛ごうとしていたランデル達や、アーシェス達にも平等に……。
突然の木の実襲来に、驚く事は出来てもなす術などなく、とにかく頭を守るくらいしか出来ない。
視界すらボヤける程に木の実が、頭や身体に降り注ぐ。こうなると皆は、早く終われと願うだけである。
1分も降り注いでいなかっただろうが、莉奈達にはやけに長く感じる時間だった。
最後の一個が、コンと小気味いい音を立て地面を跳ねると、永遠に続くかと思った地獄が終りを迎えた。