作品タイトル不明
593 教官の嬉しい提案
「やっぱ、付いて来て正解だったな」
「うん、うん」
「リナさんといると、いつもの旅が倍以上に楽しいよねぇ」
「だよなぁ。朝なんか妙な爽快感があったし、いつもより前日の疲れの取れ方が全然違うし」
「何よりーー」
「「「ご飯が美味しい」」」
ランデル達は、いつも過酷になりがちな魔物討伐の旅が楽しいと、口にするのだった。
◇◇◇
ーーそこから、約1時間。
まだまだ大草原が続きそうな気配の中、フェリクス王が突如こう言った。
「あのデカい木の下で、昼休憩に入るか?」と。
鬼教官など、可愛いとすら感じる魔王教官が……である。
一瞬、何を言われたか分からなかった莉奈。ランデル達も含め、皆、耳を疑ったくらいだ。
「いらねぇの?」
皆が唖然としているものだから、フェリクス王がいらないのかと訊けばーー
「いるいるいる!!」
「絶対いるし!!」
莉奈とエギエディルス皇子は、慌てて右手を挙げアピールした。
「助かったわぁ」
と言ったのはアーシェスだ。
フェリクス王を前に口にしなかったが、案外皆もヘロヘロだったのかもしれない。
休憩となれば、エギエディルス皇子は早歩きとなり、もはや莉奈と意味のない競争だ。
「デカい」
近付けば近付く程に、フェリクス王の指した木は大きかった。
それを支える幹はもちろん太いが、何より枝がやたら横に伸びて広がっていて、高さより横幅がある。モンキーポッドがココにあるとしたら、まさにこんな感じかもしれない。
「"ウルッシュポッド"っていうんですよ」
あまりの大きさに見上げていたら、ローレン補佐官がそう教えてくれた。
「ちなみにお前が以前、脚で割ったテーブルは、この木から造った物だな」
フェリクス王は、それで莉奈の所業を思い出したのか、口端を上げた。
脚で割ったテーブルとは、大分前に銀海宮の食堂で侍女と警備兵達がモメた時に、莉奈が事態を収拾させるため、踵落としでパッカリ割ったあのテーブルである。
『リナ、このテーブルは安くありませんよ?』
莉奈の頭の中には、執事長イベールの姿と冷たい声が、響いた気がした。
「た……高いんですか?」
訊かなければイイのに、つい訊きたくなるのはどうしてだろう?
「" 王宮(あそこ) "に安物があると思うか?」
「ソウデスヨネ」
貴族の屋敷にすら安物がないというのに、その頂点である王宮に安物が置いてある訳がない。
しかも、よくよく考えたら、食堂にあるテーブルはどれも継ぎ目などなく、一枚板だった気がする。
物の価値など分からない莉奈でも、一枚板から造られたテーブルが、それなりに高いのは知っていた。樹齢が高いのは、特に高額になるそうだ。
たぶん、この世界でも価値は同じだろう。
「蹴り倒して持って帰ってイイですか?」
それで相殺してくれないかなと、莉奈はボンヤリとウルッシュポッドを見た。
造るまでに時間と労力はあるだろうが、持って帰れば材料費はタダだ。
「蹴り倒すなよ」
切り倒すじゃないところが莉奈らしいなと、エギエディルス皇子は乾いた笑いが漏れていた。
「か弱い女には無理じゃねぇの?」
フェリクス王はそんな莉奈を見て、クツクツと笑う。
何かあるたびに莉奈が、か弱いアピールするものだから揶揄ったのだ。
「アーソウデスネ。カ弱イ私ニハ到底無理デシタ」
莉奈が棒読みでそう答えれば、アーシェスとローレン補佐官が背後で吹き出していた。
莉奈とフェリクス王とのやり取りが、面白いらしい。
莉奈も言っておいてなんだが、コレを蹴り倒す自信はない。しかも、もし蹴りで伐採出来たとして、その後の事などあまり考えていなかった。
執事長イベールに、あの時の代わりにと持って帰ったところで、絶対零度の目で「あなたはバカですか?」で終わりそうだ。
ーーヨシ。今はそんな事よりも休憩である。
莉奈は頭を切り替え、テーブルやイスは幹の近くに取り出し、簡易トイレは幹から離れた所に設置した。
今回は、自分を含めたフェリクス王達のテーブルと、ランデル達のテーブルの他に、もう一つテーブルを独立させて置く。
独立させたテーブルにはイスは置かず、代わりに色々と食材の入ったお皿やバットをたくさん並べる。
そんな莉奈の作業をフェリクス王達は、誰一人としてイスには座らず、ソワソワしたりワクワクしながら見ているのであった。