作品タイトル不明
590 サルコスクスコスクス・インペラトル?
「ワニは美味しいんだよね」
ここに莉奈という捕食者がいるとは露とも知らず、遠く離れた場所では巨大なワニがこちらを気にもせずノシノシと歩く。
ワニ肉は、アンモニア臭が気になる個体もあるそうだが、概ね美味しく食べられる。
しかも、味は鶏肉や白身魚に近いと言われていて、低脂肪で高タンパク。そこに低カロリーとくれば、筋肉作りやダイエットには、もってこいの食材ではなかろうか。
「お前には、この世のすべての生き物が食べ物に見えるんだな」
「え? そんな事ないし」
「魔物より魔物らしいな」とボヤくエギエディルス皇子に、「食べ物に見えない生き物もいる」と莉奈はムクれてみたが、その言葉はエギエディルス皇子どころか、誰の心にも響かなかった。
魔物だろうと動物だろうと、それを見つけては可食かどうかを気にする莉奈なのだから、皆の反応は当然である。
「でも、ワニって鶏肉や白身魚に味が似てるらしいよ? だからきっと、あのワニも美味しいかもしれないじゃん」
「「「マジか!」」」
味が何に近いか説明すれば、エギエディルス皇子より後方にいたランデル達の方が、驚愕の表情をしていた。
ワニが食べられる上に、美味しいと思わなかった様だ。
まさか、あのワニもここにいる莉奈達が、自分を食ったらと仮想しているとは考えてもいないのだろう。
こちらにはまるで興味がないのか、チラッと見る気配すらない。
別に倒しに行くつもりはなかったが、あまりの大きさに莉奈がジッと見ていればーー
「ランデル、狩って来てあげたら?」とアーシェスが提案する。
「は?」
「だってあなた達、リナの護衛とか言って付いて来ていながら、さっきから何もしてないじゃない」
だから、主の願いを叶えてあげるくらいはしてあげたら? とアーシェスが言う。
(莉奈はワニを倒して欲しいと願った覚えはない)
「「「……」」」
ランデル達は顔を見合わせていた。
確かに、莉奈の護衛だと称してくっ付いて来た。しかし、守る予定だった莉奈は、やたら強くて想定外だ。
これでは、守っているのか守られているのか分からない。
何か莉奈に貢献しなければ、付き纏いと大して変わりがない気さえする。
アーシェスに言われ、そう感じたランデル達は思わずフェリクス王をチラッと見れば、何も言ってもいないのに、「10分で片付けて来い」と彼の目が言っている気がした。
となれば言う事は一つだ。
「「「いってきます!!」」」
ランデル達は、何もしていない巨大なワニ"サルコス"こと、サルコスクスコスクス・インペラトルに突撃するのであった。
◇◇◇
【サルコスクスコスクス・インペラトル】
死ぬまで成長する世界最大のワニである。
河川や湖、沼地、湿地、草原など様々な場所に生息する。
基本的には大人しいが、空腹時には凶暴になりやすく、動くモノなら何にでも襲いかかる。
〈用途〉
硬い鱗や強靭な歯は非常に硬く、武器防具に向いている。
太い尾で敵を薙ぎ倒し、強靭な歯とアゴで噛み砕く。
噛んでグルグル回る攻撃が最大の特徴で、その名も"デスローリング"。文字通り、死ぬまで離さないと言われている。
〈その他〉
身にはクセがなく、脚は程よく脂がのっていて美味しい。
巨体ゆえに陸上での動きは鈍いが、水中での生活には適しており、泳ぎが得意。
「美味しいって!」
ランデル達が狩り獲って来てくれたサルコスを【鑑定】した莉奈。
想像通り"美味しい"と表記され、瞳がキラキラと光る。
「「……」」
そう言われたところで、フェリクス王兄弟はどう返せばイイのか分からず、困惑である。
「良かったですね?」
ローレンがかろうじて、そう返事を返したのみだった。