軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

587 効能の多さに目が眩む者と、眩まない者

「あ」

魔物もとりあえず片付き歩き出そうとした皆とは違い、莉奈は数メートル先にある木に釘付けになっていた。

先程は魔物を倒すのに夢中で気付かなかったが、そこにある木には幹が見えないくらいに、真っ白なキノコが隙間なくギッシリと生えていたのだ。

「あら、マッシロマッシュルームじゃない」

「バター焼きが美味しいですよね」

そう、そこにはマッシロマッシュルームが自生していたのだ。

ポピュラーなキノコなので珍しくはない。だが、こんな所でも生えるのかと感心するアーシェス。

莉奈のせいかおかげか、思考が何故か食べる方向になってしまっているローレン補佐官。

「リナがさっき言ってた料理に、キノコ使うんだろ? ちょうどいいな」

とはエギエディルス皇子。

食べた事のない魔物はまだ少し躊躇があるが、莉奈が食べられると判断し、調理方法を聞くと食う方向に思考が傾くから不思議だ。

「アヒージョにしても美味しいし、エビとかアスパラガスと炒めても美味しい。ベーコンと合わせると最強だよね」

サラダやパスタ、スープやオムレツと色々ある。

莉奈にはそこにあるキノコが、キラキラ光る宝石の様にしか見えなかった。

それを聞いたランデル達も、つい想像してしまい喉が動く。

「食材探しの旅じゃ……」

ねぇんだよと、フェリクス王は言いかけたが、皆の視線に押し黙った。キラキラした瞳が目に痛い。

「さっさと採れ」

「「「了解です!!」」」

キノコは特段好きではないが、莉奈が作る料理は別だ。

反論する事を諦めたフェリクス王は、皆に早く採る様言うのであった。

◇◇◇

「だけど、コレはジャッカルンロープの恩恵かもよ。リナ」

「え?」

マッシロマッシュルームを採取し終え歩き出すと、アーシェスが小さく笑っていた。

「ジャッカルンロープに出逢うと、その旅は良い事があると言われてるのよ?」

巨大過ぎて可愛いかは微妙だが、稀少種なため一部の地域でそう言われているそうだ。

「なぁ、それって倒してもか?」

なるほどと頷きかけた莉奈の隣で、エギエディルス皇子がイマイチ納得していなかった。

見た目が何となく可愛かったり、神々しかったりする魔物や動物は、何故か神聖化され、出逢ったら幸運と言われる事がある。

だが、その"幸運"を倒しても幸運なのか、エギエディルス皇子はにわかには信じられない。

「倒してもか?」

エギエディルス皇子の繰り返しの質問に、アーシェスの返答はなく、ただ曖昧な笑みを浮かべるだけだった。

そんな中、ランデル達はちょっとテンション高めだ。

「これからは違った意味で、ジャッカルンロープが幸運と呼ばれそうだな」

「だな。ただでさえアイツの角は人気なのに、コレだけの効能を持ってると知られれば相当な金になる」

「あ! ねぇ、ならさ。効能を知られる前に、今この角を所持している人から、買い取るのもアリじゃない?」

「「なるほど?」」

肉にしか興味のない莉奈とはまったく違い、ランデル達は素材の新たな価値に気付いた様だった。

ただでさえ稀少種の魔物なのに、素材にも価値があると分かれば、角の付加価値が爆上がりだろう。

なら、まだ知らない者達から、今の内に買っておくのは手だと考えているみたいだ。

「相場が上がる前に、買取強化しておかなきゃいけないわね」

アーシェスはアーシェスで、頭の中で計算機を弾いている様子が見えた。

あの魔物の角を装飾品としている今は、生薬にして飲む者がいない。

だから、相場はあくまで装飾品としての値だ。しかし、誰かが生薬か魔法薬を治験し、その効能が立証されれば絶対に価値は上がる。

なら、それを見越して買っておくのは大いにアリだ。

「なぁ、兄上。規制しとけば?」

そんなアーシェス達に呆れたエギエディルス皇子が、フェリクス王にボヤいていた。

金の匂いを嗅ぎつける輩が出る前に、多少規制を張っておいた方がイイだろうと思ったのだ。

「放っておけ」

しかし、意外にもフェリクス王の返事はサッパリとしたものだった。

魔物肉が流行る前の反応とは、まったく違う。

え、でも? とエギエディルス皇子は思わず何故かと首を傾げれば、フェリクス王は微苦笑していた。

「エディ。リナが言ってただろ? 魔法薬にしなけりゃ"多少の効果"だと」

「多少……?」

そうだったか? とエギエディルス皇子はさらに首を傾げる。

そんな可愛い仕草をする末弟に小さく笑いながら、フェリクス王は続けた。

「いいか? 一聞すると、さも万能の様に聞こえるが、魔法薬を作る魔法師がいなけりゃただの生薬でしかない。大体、皮膚再生や止血なら、ポーションで事足りる」

「え、でも、他にも効能がたくさんあるだろ?」

「まぁな。だが、それぞれの効能には代用品がある。これだけのモノを、一度に治さないとならねぇヤツがそんなにいると思うか?」

「……」

そう言われればそうである。

皮膚再生や止血が必要なら、真っ先にポーションを買う。筋力向上も魔法薬か魔法を付与した魔法導具を使えばイイ。

尿漏れや頻尿改善にしても、当然代用品や薬がある。

そもそも、エギエディルス皇子はもちろん、皆も尿漏れや頻尿に当分縁はないだろう。

「まぁ、欲しがるヤツもいるだろうが……飛びつくのは初めだけじゃねぇの?」

フェリクス王はもの珍しさには飛び付かず、先を冷静に考えていた。

そもそも生薬にしろ魔法薬にしろ、稀少種の魔物から精製する薬だ。相当高額になるのは目に見えている。だが、そんな高価な薬を飲んでも、命に関わる怪我や病気は治らない。

オマケにそれぞれの効能には、これより安価な代用薬がある。

それだけの病を患っているなら、たくさんの魔法薬を買うより安いだろう。しかし、それだけ罹患している者。そして、それを買えるくらいの裕福な者がどれだけいるのか。

「「「……」」」

フェリクス王の言葉に、浮かれていたランデル達が一気に冷めた。

効能の多さに、お金になるのでは? と思っていたが、言われてみればその通りである。

もの珍しさに、自分達の様に飛び付く者はいるだろう。

しかし、冷静になって考えれば、コレじゃなくてもイイと気付く。

なら、せっかくの角を高い薬にしてしまうより、装飾品のままの方が需要があるなとランデル達は頷くのだった。