軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

581 護る必要が……ない?

朝食を食べ終え、30分程まったりした後ーー

ウクスナ公国の首都モルテグルに向かう旅、2日目の朝が始まった。

「まだ2日目」

「そして、残り3分の1」

「早いわね」

「ですねぇ」

「オカシイわよね」

「ですね〜、魔物と対峙する方が楽だと思うくらいに」

ローレン補佐官とアーシェスがしみじみと、そして変な空笑いが漏れていた。

フェリクス王の鬼を通り越して、地獄の日程に誰もが唖然であった。

まさか、聖木からここまでの距離を、夜が明ける前から完全に暮れるまで、10時間以上もぶっ通しで歩くだなんて考えもしなかった。

大抵の場合、旅行でなくても何回か休憩を挟むのが定石だ。

それなのに昨日は、歩きに歩いて脚がクタクタ……の先のガタガタ。莉奈の用意してくれた足湯やスライムベッドがなければ、皆は今頃生きる屍と化していたかもしれない。

大体、そこまで頑張っても、あの聖木からゴルゼンギルまで最低1日は掛かる。それがまさかの半日。そしてその日の内に、隣国ウクスナに入国。

ゴルゼンギルに行った事のあるアーシェスやローレン補佐官でさえ、この事実に驚いている。

魔物と対峙しないだけで、こんなにも早く着く……いや、休憩がないせいな気もするが。

「夜にはモルなんとかに着くんですか?」

ここから、ウクスナ公国の首都モルテグルの距離が、莉奈にはまったく分からない。ただひたすら歩いているだけだが、この調子なら今日中に着くのでは? と莉奈は思った。

「休憩なしなら、明日の昼までに着くんじゃねぇの?」

「地獄の日程」

莉奈は思わず漏らさずにはいられなかった。

陽が明け始めた頃に、あの聖木を出立したのだから、丸々1日半ではないか。休憩なしでそんな事をしたら、普通にぶっ倒れる。

だけど、"休憩なしなら"と言ったのだから、現状は休憩を挟む予定があるのだろう。しかし、予定は常に未定になる可能性が……。

「あぁ、私のか細い脚が悲鳴を上げる」

昨日の疲れはさほど残っていないが、さすがの莉奈も休憩なしでは、ヘロヘロになるなとポソリと呟けば——

「は、豪脚の間違いじゃねぇの?」

「失礼な!!」

聞いていたフェリクス王に、鼻で笑われた。

本当に莉奈がか細い脚なら、竜など蹴ったら大ケガを負っているハズだ。しかし、あの表皮が硬い竜を蹴っても、ケロッとしているのだから、少なくとも健脚である。

兄王同様にそう思ったエギエディルス皇子も、呆れた様子で呟く。

「本当にか細い女は、竜なんか蹴ったりしねぇよ」

「エド、今、何か言ったでしょう?」

「何も言ってねぇ」

莉奈がジロリと見たので、エギエディルス皇子は慌ててそっぽを向いていた。

——が。

それをたまたま聞いていたランデル達は、目を見開いたまま固まっていた。

"竜を蹴る"?

この2人の会話が、冗談なのか本気なのか真偽が分からない。

しかし、実際に昨夜、変異種のスライムを倒した様な話をしていた。

「今、竜がどうとかって言ってなかった?」

「言ってた言ってた!」

「しかも、蹴るとかなんとか」

「え? 竜を蹴るって……冗談だよな?」

「じゃないの? たぶん?」

「「「だよな(ね)?」」」

顔を見合わせたランデル達は、莉奈が本当に竜を蹴りまくっているとは、信じられなかった。

自分達でさえ、竜を蹴ろうとは思わないのに、まさか蹴る訳がない。

そうだ、エギエディルス皇子が莉奈を揶揄って、そう言ったのだろう。莉奈の本質を知らないランデル達は、そう結論付けたのであった。

◇◇◇

迂回して来た道をそのまま戻って、正規ルートで行くのかと想像していたが、何か違うみたいである。

聖木を頂点にVの字を逆さにした感じで、ここから南東の方角にあるモルテグルに向かうそうだ。

ちなみにこの聖木は、国境の街マヨンの北東にあるらしく、モルテグルに行くよりグルテニア王国の国境の方が断然近いとか。

「聖木の存在がバレたら、主張してきそう」

莉奈の勝手な想像だけど、こんな感じで対立している国って、あまり譲歩するイメージがない。

"俺のモノは俺のモノ""お前のモノも俺のモノ"で自己主張が激しい気がする。

しかも、2つの国の間に明確な国境がないとしたら、この微妙な位置にある聖木なんて、絶対に取り合いだ。

莉奈が思わず、そう呟いていたら——

クシャリとフェリクス王に頭を撫でられた。

「え?」

何故、撫でられたのだろうか?

訊ねるように見上げて見たものの、フェリクス王はすでに前を向いていた。

「リナの憶測はあながち間違いではないんですよ」

「え?」

「国同士はもちろん領地でも、争いの原因を探ってみたら、実は聖木だった……なんて事もありましたし」

国がしっかりしていれば、そんな争いはほとんどないそうだ。

だが、植えて生える樹木ではなく、突如として発見されるのが聖木。

恩恵がある稀少な樹木が故に、過去にはそれをめぐる戦争もあったとか。

だから、なんとなく口にした莉奈の頭を、フェリクス王は撫でたのだろう。

それはそれとして——

「なんか落ち着かない」

と莉奈は唸る。

木々が邪魔をして道幅が狭い場所はともかく、木と木の幅が広い場所では、ランデル達が莉奈の後ろ左右で囲む様に歩いていたからだ。

一応配慮しているのか距離感はあるが、それがまた要人を護るSPみたいで、莉奈は変な気分だった。

「竜を倒すお前を一体何から護るーー」

「エド、何か言った?」

「何も言ってねぇ」

竜を蹴った事実はあるが、倒した覚えはない。

エギエディルス皇子が何か言ってきたので、莉奈は一応睨んでおく。