作品タイトル不明
575 エギエディルス皇子のためにある……スライム?
「一応、訊くだけ訊いてやる。ソレは何だ?」
先程までの眠気など、莉奈のせいで完全に吹き飛んだエギエディルス皇子。
"何か"なんて一目瞭然だが、その"サイズ"は初めてである。無視するという選択肢もあるが、目の前に置かれたら気になって仕方がない。眠気も吹き飛んでしまったし、訊いておくべきだろうと思ったのだ。
「スライム」
「どこで見つけて来た」
「昼間、黒いのがいた所」
「……」
ゴルゼンギルに向かう途中、莉奈が黒いスライムを見つけたアノ場所だろう。
莉奈にしては、スライム討伐に時間が掛かった気はしていたが、こんなモノまで倒して来たのかと、エギエディルス皇子は唸った。
「スライムって種類豊富だね」
あっけらかんと言った莉奈に、皆は唖然としていた。
スライムはポピュラーな魔物であるが故に、よく知っている。大抵のスライムは、大きくても人の頭よりひと回り大きいくらいだ。だが、莉奈が取り出したスライムは、そんな可愛いレベルではなかった。
エギエディルス皇子など、スッポリ入る大きなサイズであった。
見た事もないソレは、新種か変異種だと推測する。
「まぁイイ。とにかく、俺は地面で寝る」
訊いてはみたが、お前の相手はしない。
腹が満たされ、寝て疲れを取りたいエギエディルス皇子は、それを見なかった事にした。
確かに、さっきはスライムの上に座った……座ったが、それは自分の意思ではない。
だから、初めて見るサイズのスライムを、ベッド代わりにするのは御免だ。
エギエディルス皇子は笑顔の莉奈を無視し、少し離れた所に腰を下ろそうとした。
「エド、スライムだと思うからダメなんだよ? ふかふかのベッド、ベッド!」
「それはベッドじゃねぇぇぇ〜っ!」
何がどう転んでも、それはスライムである。
だが、莉奈にそう言っても、莉奈は初めから聞く耳は持ち合わせていない。
手際良くそのスライムの上にシーツを被せると、逃げようとしていたエギエディルス皇子の腕を掴んだ。
そして、ポンとスライムの上にのせれば———
———ぽよん。
不思議と心地よい音がした。
スライムの上になど、寝そべった事はない。未来永劫ないと思っていた。
しかし、エギエディルス皇子は生まれて初めての感触に、固まってしまった。
「……」
ギャァと叫ぶ準備をしていた。
なんなら莉奈に、文句の一つや二つ言ってやると、構えていた。
だが、ポヨポヨと身体を包む様な心地よい感触に、口がどうしても緩んでしまう。こうなれば、もうエギエディルス皇子に勝ち目はないも同然だ。
「殿下、"新作ベッド"の寝心地はいかがですか?」
莉奈は手をお腹の下で合わせ、深々と頭を下げてみせた。
「……悪くは……ねぇ」
「でしょ?」
莉奈は満足そうに笑った。
実はこのスライム。ゴルゼンギルに行く途中、黒スライムを追って見つけたスライムなのである。綺麗な水色をしている上に、普通のスライムと違って、少し紺色のラメが入っている。
普通、遊び半分にスライムを追いかけて、思いがけずこんな大きなスライムに出遭ったら、腰を抜かしてもおかしくはない。
だが、そこは莉奈である。あまりの大きさに驚きはしたが、キラキラしたラメ入りに、テンションが爆上がり。
怯む事など一切なく、テンション上げ上げで嬉々として倒したモノ。
【 王子(プリンス) スライム】
スライムの変異種。
一般的なスライムより、大きな個体に成長しやすい。
攻撃力はスライムより強く、好戦的。
雑食で草花から、魔物の死骸や人も食べる魔物。
顔に目がけて臭い体液を吐いたり、飛んで来たりして窒息や圧死させるだけでなく、水魔法を使い攻撃してくる事もある。
〈用途〉
培養は出来ない。
核や消化器官を取り除いたスライムは、温めたり冷やす事で保温剤や保冷剤として使用可能。
但し、何回か繰り返すと腐る。
薄くスライスして、1度乾燥させたスライムを化粧水やローションで戻すと、美容パックになる。
〈その他〉
食用ではない。
とある世界にある"ウォーターベッド"に感触が似ている。
【ウォーターベッド】
まるで、水に浮いている様な感触。
その座り心地や寝心地は、皇子〈王子〉をもダメにすると言われている。
「ベッドはそれでイイ? 王女(プリンセス) スライムもあるよ?」
王子がいれば、当然王女もいる訳で……。
莉奈は 魔法鞄(マジックバッグ) から、淡い綺麗なピンク色のスライムを取り出した。王子スライムと違って、こちらはキラキラした紅いラメが少し入っている。
その名も" 王女(プリンセス) スライム"。
色以外、 王子(プリンス) スライムと何が違うのか……。
それは、使う魔法と感触だ。
王子(プリンス) スライムが水魔法に対し、 王女(プリンセス) スライムは"火魔法"を使う。
そして、感触は……。
【ビーズクッション】
まるで、マシュマロの上にのった様な感触。
その座り心地や寝心地は、皇女〈王女〉をもダメにすると言われている。
「「「何、あのスライム」」」
莉奈の取り出したスライムに、ランデル達は驚愕の表情であった。
足湯から、莉奈が規格外、想定外の人物だと理解した。
だが、理解したつもりであっただけらしい。
ランデル達は、今日だけで一生分、驚いたかもしれなかった。