軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

557 魔王の片鱗の片鱗の片鱗……すら見えない

何故、莉奈の足が、本人も驚愕するくらいに速かったのか……。

それは、莉奈が両手に装着している"豪神ナックルダスター"のせい、いやおかげである。付与されていた補正特化が、しらずに発動したのだろう。

コレを装着するだけで、あんな事になるのか。

エギエディルス皇子にその事を教えてもらい、莉奈はなるほどと納得したが何か複雑だ。コレを使いこなせる気がまったくしない。

莉奈が防壁に激突している中、外ではフェリクス王による華麗な戦いが繰り広げられていた。マヨン兵や冒険者達の歓声と、何かが盛大に倒れる音が響いている。

「「それどころじゃなかった!!」」

エギエディルス皇子とローレンは、その音と地響きにハッとした。

莉奈なんかに構っている間も、フェリクス王は次々とゴーレムを倒していたのだ。フェリクス王が魔物と対峙する姿は稀少なのに、まったく見られないとローレンは防壁の上へ続く階段を、慌てて駆け上がっていた。

莉奈は近くの鉄格子から見ようとしたが、既に野次馬で埋め尽くされていて、隙間なんてなかった。

門兵まで野次馬に参加しているのだから、もうどうしようもない。

騒ぐマヨン兵達に紛れ、莉奈は近くの階段から防壁の上に上がる事にした。

「フェリクス1人に任せて暢気よねぇ」

戦いに参加する気はサラサラないアーシェスが、後からのんびりとやって来た。

アーシェスの言いたい事も良く分かる。魔物を討伐しようと、血気盛んにやって来た冒険者達でさえ、見学側にいるのだ。

フェリクス王的には手伝われても邪魔だろうが、初めから任せっきりもどうかと思う。

「イブガシアンって?」

その暢気の中に、もれなく莉奈も入る事にする。

参加する気はないが、魔物が街に入る心配もなさそうだからだ。

「ゴーレムの変異種。師匠が飛び付く代物ね」

「美味しいんですか?」

「……え? あなた何を言ってるのよ」

師匠バーツが飛び付くだなんて言うから、莉奈はてっきり美味しいのかと勝手に勘違いしていた。

バーツは素材に飛び付くのであって、腹を満たす為ではない。

聞いたアーシェスもビックリだったが、近くで聞いていた人達の方がさらに驚愕した表情で莉奈を見ていた。

誰があんなモノを食おうと考えるのか。何を言っているのだと。

「ゴーレムって岩だぞ? アレをどうやって食うんだよ!?」

そう言ってエギエディルス皇子の指差した先には、ピラミッドに積んであるような大きな岩が、ゴロゴロ転がっていた。

フェリクス王が刀で斬ったゴーレムの残骸だろう。

こうなると死体というより、ただの石にしか見えない。

「え? 削るとか?」

チーズみたいに?

そう言えば、エギエディルス皇子が、可愛い目と口をアングリと開けた。

「ゴーレムはチーズじゃねぇ!! 何でもかんでも食おうとしてんじゃねぇよ!!」

フェリクス王の勇姿を見ていた者達は、色んな意味で目も耳も大忙しである。

視線だけはフェリクス王を見ていたが、耳は莉奈の言葉に釘付けだ。視覚と聴覚の情報量の多さに、頭はフル回転であった。

「あぁぁ〜っ!!」

エギエディルス皇子の悲壮な叫びが、辺りに広がっていた。

「お前に構っていたら、イブガシアンしか残ってねぇ」

ツッコミどころ満載の莉奈と話をしていたら、あれだけいたゴーレムは既に変異種一体になっていた。

莉奈と会話をしていると、戦いを見る余裕がないと、エギエディルス皇子は嘆いていた。

「なんか硬そうだね」

そんな莉奈はマイペースに話を続ける。

莉奈の想像通り、ゴーレムは土人形であった。

ただ、イブガシアンと呼ばれる変異種の見た目だが、すでに倒された黄土色や茶色のゴーレムと違って、燻し銀みたいな色をしている。

岩や土と言うより鉄か銀、そんな素材に見えなくもない。

「ただでさえゴーレムは硬いのに、変異種はさらに強固。しかも、個体によっては魔法まで効きづらいのが多いのよ」

だから、武器や防具には最適だとアーシェスが、ウットリと見ていた。

魔物ではなく、素材感覚で見ているアーシェスもアーシェスだと莉奈は思った。

ちなみに、イブガシアンと呼ばれる変異種のゴーレムは、フェリクス王なんかより遥かに大きい。

5メートルは軽くありそうだ。まぁ、フェリクス王には関係なさそうだけど。

しかし、あんな魔物が出たら、普通は恐怖で足が竦みそうなものである。なのに、対峙しているのがフェリクス王だからか、それとも安全圏で観戦しているおかげか、微塵も怖くない。

それどころか、ワクワクしている自分に驚くばかりだ。

弱点とか出ないのかな? とイブガシアンを視たが、距離が範囲外なのか、対象が動いているからか、何度やっても【鑑定】する事が出来なかった。

しかも、出来なくても魔力を使っているのか、数回やると目がシバシバする。

「食えねぇのに"鑑定"してんじゃねぇよ」

目を擦っていたら、エギエディルス皇子にさらに呆れられてしまった。

別に食べるつもりで鑑定を掛けていた訳じゃないのに、エギエディルス皇子は失礼である。

どうして莉奈が【鑑定】していると、食べられるか調べていると思われるのかな?

文句の一つも言いたかったが、突然の歓声に莉奈の口は止まった。

そんなやり取りをしている間に、フェリクス王はイブガシアンの攻撃をいとも簡単に躱すと、首を刀でスパンと綺麗に落としていたらしい。

ゴーレムよりはるかに硬いと言われているイブガシアンまでも、フェリクス王にかかれば、人参を切るかの如くであった。

「マジかよ!」

「「「変異種を瞬殺!!」」」

一部始終を見ていた皆は、もはや唖然を通り越して魅了されていた。

10数体いたゴーレムを、たった1人で対処するなんて無謀過ぎる。しかし、フェリクス王はすべて自分に引き寄せた。

どうするのかと見ていれば、フェリクス王はそのゴーレムに向かって、半月を描くようにして刀を横に振るったのだ。

普通だったら、それでは何も起きやしない。

だが、数秒後、あの硬いゴーレムの胴体は次々と、上下に分かれて地に落ちていた。一瞬で真っ二つである。

その攻撃力と技に唖然としていれば、さらに硬度の高い変異種をまさかの一刀。

苦戦するかと思われた対ゴーレム戦が、終わってみればものの十数分であった。

フェリクス王の討伐は、もはや闘技場で観戦しているくらいに安心で、戦う姿が演舞みたいに華麗で見惚れる。

無駄な動きが一切ないと、こんなにも気持ちいいものなのだと初めて知った。

冒険者達も魅入った感嘆の声か、吐息に似たため息しか出ていなかった。

本来なら協力して当然の討伐だが、彼のやる事に手出ししようものなら、纏めて斬られそうで身体が動かなかったのである。

「Sランク……だよな?」

「あれでSじゃなかったら、Sランクって何だよ?」

「俺、Sランクなんて一生出会わないと思ってた」

「あたし興奮し過ぎて、心臓ヤバいんだけど」

「分かる!! 何かスゴくドキドキしたよね?」

「すっげぇ。あのイブガシアンが一撃かよ」

「俺、もう冒険者やめようかな」

「弟子にしてくれねぇかな」

「それな!」

「あの人、何者なんだ?」

「何者でもイイよ。だって———」

「「「カッコイイーーッ!!」」」

戦いは終わったが、まだまだ興奮は冷めず、それどころかまだ上がるばかりである。

あれほど魔物に怯えていたハズの皆が、高揚しザワついていた。

恐怖ごと、フェリクス王が一掃した様である。

「ちょっ、フェル兄!! 手ぶらで戻って来んなよ!!」

魔物をすべて片付けたフェリクス王は、 魔法鞄(マジックバッグ) に刀をしまいながら、少し不満顔でこちらに戻って来ようとしていたのだ。

フェリクス王にとって、あの魔物はウォーミングアップにもならなかったのだろう。つまらないとばかりの顔をしていた。

そんなフェリクス王に、エギエディルス皇子が防壁の上から文句を言っている。

「あ゛?」

「魔石を持ってるかもしれないだろ!!」

どうやら、魔物の種類によっては魔石を持つ個体があるとか。

特性として石や岩など、鉱物系の魔物が保持している可能性は高く、その中でもゴーレムは体内に魔石を持つ個体が多い様だった。

ちなみに、大抵の場合は、その魔物を討伐した者に素材を獲る権利がある。

魔物をマヨン兵が倒したのなら、マヨンに権利が。共闘なら両者に。街中なら、マヨン側と交渉、あるいは各々の契約次第。

だが、今ここで倒したのはフェリクス王ただ一人。

素材のほとんどが、フェリクス王に権利があるみたいだった。

そして、そのゴーレムの持つかもしれない魔石は、鉱山で採掘される魔石より、はるかに貴重だそうだ。

純度や硬度はもちろん、入れられる魔力、耐久性においても魔物が持つ魔石の方がイイらしい。

エギエディルス皇子がゴーレムから採取しろと、可愛い声を一生懸命に張り上げているのも無理はない。

「チッ」

面倒くせぇと舌打ちするフェリクス王。

魔物に興味があるだけで、素材にはあまり興味はなさそうだ。