作品タイトル不明
551 豪神とは?
"竜"が喜ぶって何だ?
フェリクス王達の言動に耳を傾けていた商人ギルドの皆は、一様に眉根を寄せてザワついていた。
聞き間違いではなければ、この少女は竜が喜ぶと言っていた。
竜??
「お姉ちゃん 家(ち) 、竜がいるの!?」
誰もが声に出したかった疑問を、目を丸くさせているチャーリーが言った。
この瞬間、ザワついていた者達から、内心グッジョブと声が上がっていた。
「え? あ、え」
"いる"とは言えない事に気付いた莉奈。
竜は犬や猫とは違って、一般市民が飼う動物ではない。そもそも"飼う"のではないし、竜がいる……それすなわち"竜騎士"と同義だ。
莉奈は竜騎士ではないけど、そういう説明が欲しい訳ではないだろう。
ひっそりとするつもりが、ガッツリ目立ってしまった。
「"リュウ"っていう名前の"犬"がいるんだよ?」
苦しい言い訳だが、他に言い訳が思いつかない。
だって、竜の番がいますだなんてここで言ったら、絶対にマズイだろう。
「犬??」
「うん。犬」
「お姉ちゃん、犬に"リュウ"って名前付けてるの!?」
「うん、そう」
日本でも普通にリュウという名前の犬がいる。
竜にからあげと付けようとした、どこかの団長様もいる訳だし、あり得るだろう。
「なんだぁ〜。僕、てっきりお姉ちゃんが番を持ってるのかと思っちゃった」
莉奈が苦笑いしながら説明すれば、チャーリーは肩を落としながらも笑っていた。
莉奈が番を持っている訳がないと、冷静になって考えたのかもしれない。
「なんだ、犬か」そうだよなと、周りからは溜め息が漏れていた。
とりあえず、竜の事は誤魔化せたところで、莉奈はオルガンの壺を購入する資金をどうするか頭を働かせた。
「あ、そうだ。ついでにこれを売りたいんですけど、いくらぐらいになります?」
莉奈はいまだに、現金を持っていない。
欲しい物はフェリクス王達が大抵は用意してくれるので、使う機会がまったくないのだ。だから、現金を作るために 魔法鞄(マジックバッグ) にある物を売る事にした。
もちろん、魔物の素材や魔石ではない。ましてや、竜の鱗は論外だ。
リリアンではないけど、何故お前が持っていると騒がれる事、間違いなしである。
「人がやった物を速攻で売るんじゃねぇ」
莉奈が鑑定士に出した物を見て、フェリクス王が後ろから莉奈の頭をパシリと叩いた。
そう、莉奈が売ろうとしたのは、あの"ナックルダスター"ことメリケンサックである。
フェリクス王がくれた物だが、正直言っていらない。魔物と戦う予定はないし、戦いたくもない。しかも、己の拳で何と戦えというのだ。
「だって——」
——ドスッ!
だってと言い訳を口にする莉奈の頭に、今度は手刀が落ちてきた。
か弱い女性の頭を、何だと思っているのかな?
「……っ!!」
ここは古物買い取り査定専門の窓口なため、専門家にお伺いを立てようと鑑定士が席を立とうとした瞬間——
ちょうど後ろを通りかかった別の職員が、受付にのるナックルダスターを見て、目を見張っていた。
「ちょっ! え? えぇーーっ!?」
黙って通り過ぎる事が出来ず、二度見三度見した後、横から堪らず手に取ってしまった。
「"攻撃力向上"? "防御力向上"? 瞬発力向……何だコレ!?」
「え?」
「アンタ、いやお嬢さん。もの凄い武器を持っているね!?」
スゴイ?
莉奈の頭はクエスチョンマークが浮かんだ。
コレは、フェリクス王がふざけて買った、ただのメリケンサックではないのか?
【豪神ナックルダスター】
別名メリケンサック。
ダタンを含んだチタン合金と魔石のカケラを、ふんだんに使用し造られた武器。
拳による打撃を強化し防御力を上げる。
〈用途〉
拳に装着したチタン合金の硬い部分を使って、打撃を行う事が可能。
金属部分は掌底で支える構造になっており、相手を殴った反動で生じる拳部分への衝撃を最小限に抑えられる。
握り込んで使用することで魔力を発動し、手拳を保護すると同時に、殴打の威力を増大させる。
〈その他〉
食用ではない。
特殊な製法で造られており、装着すると様々な強化や補正効果がある。
「補正……?」
気になった莉奈は"補正効果"を【検索】して視た。
【補正効果】
攻撃力、防御力、回避力、瞬発力、魔力の向上、及び威力強化。
「何コレ??」
武器関係の職員が、ナックルダスターを見てあまりにも驚愕していたので、莉奈が思わず【鑑定】して視れば……
……何かとてつもなくスゴイ事がつらつらと。
「何コレ??」
思わず二度言わずにはいられなかった。
鑑定した莉奈もナックルダスターを凝視する。
気になり始めると、色々な事がものスゴく気になる。
変な武器を渡されたと怒った莉奈だったが、職員に言われて見れば、表面が仄かにキラキラしている。
魔石のカケラをふんだんにと表記されてあったから、このキラキラは魔石だろうか?
ナックルダスターも指に嵌めて使用するのだから、指輪同様でサイズがあるハズ。なのに、これは緩くもなくキツくもなく、怖いくらいに莉奈の指にピッタリ収まっていた。
「どゆこと?」
市販の武器が、こんなに莉奈の指にジャストフィットするものなのか……謎だ。
首を捻りまくる莉奈の後ろで、フェリクス王達が話をしていた。
「それ、師匠に造らせたヤツでしょ?」
フェリクス王が最近ちょくちょく来ては、師匠バーツと何かやっていた。
何をしているのだろうと思っていたが、そういう事らしい。
アーシェスは謎が解けてスッキリしたが、その補正効果の大きさと多さに、苦笑する。だって、普通はどれか一つだ。
なのに、身体能力を完全に強化させる魔導具である。
こんなに色々と付与した武器を莉奈に渡して、一体何と戦わせるつもりだ。いや、ただの過保護なだけ? それにしても程がある。
武闘派の冒険者には、喉から手が出る程の代物なのは間違いない。
「特注なのかよ。それ」
エギエディルス皇子も兄王が、莉奈を揶揄うためにその辺で購入した武器だと思っていたらしく、目を丸くさせていた。
ありえないくらいの補正と強化だ。自分の武器にも付与して欲しい。
「なんつー武器造るんスか」
あまりの仕様に、ローレン補佐官は素に戻っていた。
自分の武器もそんな補正効果が欲しいと、つい羨望の眼差しを送ってしまった。
「で、お前は、何でそんな 表情(かお) をしてやがる」
振り返ってフェリクス王を見た莉奈は、喜ぶどころかナックルダスターを指から外し、困惑していたのだ。
女性に物をあげて喜ばれる事はあっても、困惑された事はないフェリクス王。揶揄われて怒ったのなら理解出来るが、今の莉奈はそんな感じには見えない。フェリクス王は何だか気分が複雑である。
先程、空石に魔法を付与してくれと強請ったクセに、付与された武器は拒否する。もはや意味が分からない。
「補正が怖くて着けられない」
「「「……」」」
これにはフェリクス王どころか、エギエディルス皇子達も唖然である。
怖いモノなしの莉奈が、武器の補正効果に怯えているのだ。
自分には過分すぎて使えないと。
莉奈の訳の分からない謙虚さに、皆は何も言えなかった。