作品タイトル不明
550 存在感
フェリクス王を先頭に両開きの扉を開けて中に入れば、商人ギルドの内部は驚くほど広かった。
目の前は何もないだだっ広い空間。その少し先に、ソファやテーブルが見えた。そう、待合所である。右端には、初めての人でも気軽に相談出来る案内所があり、人が良さそうな人が数人座っている。
フェリクス王を見かけると受付嬢は何故か立ち上がり、待合所にいた女性は色めき立っていた。ソワソワする者。目をうるうるさせたり口を押さえたりする者。反応は人それぞれだが、一様に頬を真っ赤に染めてはウットリしている。
男性でさえも二度見しては、口を開けて固まっていた。
そうだった。
フェリクス王は超が付く程の美貌であった。
規律の厳しい王城では惚ける侍女が少ないが、通常はこうである。王都リヨンに遊びに連れて行ってもらった時も、街の女性達はこんな感じだったのを思い出す。
やたらと整った顔。服の上からでも分かる鍛えられた体躯。長身で脚は長く、一般的な冒険者っぽい服装なのに、それがまるでハイブランド品の様に見える。
ただ歩いているだけなのに、その姿はトップモデルのウォーキングみたいだ。何もしていないのだが、存在感がスゴイ。
ちょっと髪を掻き上げれば、それだけで黄色い……いや、桃色の悲鳴が上がっている。
「フェリクスといると、無駄に目立つから嫌なのよねぇ」
そう言って溜め息を吐くアーシェスは、女性みたいな柔らかい仕草と派手な服装。
違った意味で目立っていると莉奈は思う。
エギエディルス皇子はエギエディルス皇子で、隠しきれない王族特有のオーラがあるし、ローレン補佐官は落ち着いた雰囲気が、庶民ではなく高官っぽい。
あれ?
「このパーティ、激目立ちするんじゃ」
今さらながらに、莉奈は気付いた。
このパーティ、普通じゃないと。
「んぎゃ」
数歩離れた所でボサッとしていた莉奈は、フェリクス王によって捕獲……首根っこを捕まれた。
「あぁ〜」
ひっそりとしたかったのに、莉奈もしっかりと目立つ事になってしまうのだった。
◇◇◇
商人ギルドの窓口は、日本でいうところの区役所や市役所みたいに、受付ごとに番号が振り分けられている。
証明書の取得窓口やら、魔物などの素材の売買、鑑定など、分かりやすく分担されているみたいだった。
「早く出せ」
キョロキョロとしていた莉奈に、フェリクス王の声が降ってきた。
鑑定するオルガンの壺を持っているのは莉奈だ。その莉奈がボサッとしているのでは話にならない。
超が付くほど目立つパーティが、一体何を鑑定してもらうのだろうと注目される中、莉奈は受付の台にオルガンの壺をドスンと置いた。
まだ効力があるのか、不気味な模様が光っている。
「オルガンの壺ですか」
若い鑑定士はフェリクス王を間近に見て卒倒したので、年配の女性が代わりに見てくれたのだが、莉奈が 魔法鞄(マジックバッグ) から取り出した途端、すぐに分かった様だった。
魔法水を入れて光る壺なんて早々にないから、ある意味一目瞭然かもしれない。
「いくらぐらいになります?」
アーシェスがニコリと笑えば、鑑定士は壺を見て渋い表情をしていた。
あまり良い査定額にならなそうな、そんな雰囲気を感じる。
「コーイマは大変人気があるんですが、オルガン製となるとねぇ。魔法水を入れると光る特徴は他に類がなく、当初はそれなりに人気が出ると思われていたんですよ。だけど、いかんせん……この通り不気味でしょう? 壺に罪はないんでしょうが、不幸があると何故か皆、壺のせいにするみたいで……まぁ、その、手離す人が非常に多いんですよ」
「なら、そんなに高くは売れないのかしら?」
「う〜ん。難しいところですねぇ」
鑑定士は何とも言えない顔をして唸り、後ろにある低い棚から木箱を取り出すと、こちらに持って来た。
「これは先程売りにこられた方の花瓶で、コレと同じくオルガン製です。見て頂くと分かる通り、こちらも一見葉のような模様が目みたいで不気味でしょう?」
「「「……」」」
「こちらは、寝室で花を生けていたらしいんですが、夜中になると模様が動くとか……」
「マジか」
エギエディルス皇子が驚愕の表情で、その花瓶を見ていた。
コーイマと同じく、白い地肌にコバルト色の模様。壺よりも色付けが繊細な花瓶だ。
鑑定士曰く、実際にやってみても動いた形跡はなかったが、目の錯覚でそう見える事もあるそうだ。それが面白いと思うか、不気味と取るかは人によるとの事。
エギエディルス皇子とチャーリーには、大不評みたいである。
「やっぱり"呪いの壺"だ」
チャーリーはますます怯え、ダンの腕にしがみついていた。
「需要がない訳ではないんですが、骨董品にお金を掛ける人が少ない街ですし、高値で売りたいなら王都の方がいいかと」
やはり、先に想定した通りの様だ。
呪いっぽい話はともかくとして、不気味な模様とかそんな事を気にしない貴族や富裕層は、ゴルゼンギルより王都の方がいる。
足代は掛かるし危険もあるが、運が良ければ高額で売却出来るだろうと、鑑定士が教えてくれた。
元より王都の上、王宮に住んでいる莉奈達。いつかは帰るのだし、竜もいるしで足代も気にする必要もない。
なら王都で売るのが得というもの。だが、誰も興味がないのか、何も言わない。
そんな皆をよそに、莉奈はイイ事を思い付いたとばかりに、ポンと手を叩いた。
「そうだ。なら、ソレ、私が買い取ってもいいですか?」
「あ゛?」
「どうすんだよ。こんなキモい壺」
「え? 碧ちゃんのお土産にしようかと?」
「「「……」」」
「ほら、竜って光るモノが好きだから、部屋に置いてあげたら喜びそうじゃない?」
「「「……」」」
喜ぶか?
フェリクス王達は一同、そう思った。
自分は竜ではないから断言は出来ないが、いくら光り物が好きな竜でも、コレを見て喜ぶとは思えない。だが、莉奈は良い考えだとホクホク顔だ。
高い物だったらあげられないけど、これなら莉奈でも手が届く。
留守番をしている番の竜、碧空の君に、このオルガンの壺をあげたら喜ぶのではと考えたのだ。
夜の闇に光る目は怖いけど、それはあくまでも人間の主観。竜の美意識は、また違う。
想像でしかないが、この壺はプラネタリウムというより、カラオケとかにあるミラーボールみたいに、壁一面が色々な色で埋め尽くされるのでは?
回転する台も作ってあげれば、壺と一緒に光る目がクルクルと回って、気分も上がるかもしれない。
そんな莉奈の斜め上の発想に、フェリクス王達は眉間に皺を寄せるのであった。